あの日の夏は海の底 後編
「…忘れてもいいのかな…」
僕はボソッと呟いてしまった。
自分の言葉にハッとして我に返り、口を抑え
る。
「も、勿論だぞ!一松!
お前が辛いなら、忘れたいなら…俺が幸せ
にしてやる」
嬉しそうな顔で言ってくるポセイドンを見る
と、優しさに甘え逃げてしまいたい気持ちに
なる。
不思議な感覚だ…頭が真っ白になって、早く
楽になりたいという気持ちだけが残る。
僕はフラフラとポセイドンに近づいていき、
顔を見上げる。
彼も近づいてきて距離がどんどん近くなっ
た。
「キスしたら、俺のものだ一松…」
ポセイドンの言葉も入ってこないほど、頭が
真っ白になっていた。
”もう…いっか…何もかも忘れて流されたい”
心はその気持ちで埋め尽くされて、僕は瞼を
閉じた。
作品名:あの日の夏は海の底 後編 作家名:ぎったん