はじまりのあの日10 歓迎会と思い出
「ええ、覚えてますわ、神威さん。あんな大げんかは、最初で最後でしたもの。その時も大泣きしながら『がっく~ん』って。避難場所みたいに乗りましたわ。神威さんのお膝に」
ルカ姉、酔いが回り始めているのか、まつげが濡れている。恥ずかしい思い出を語られているのに、心の中は暖かい
「それ程のオオゲンカをされたコトが、あるでゴザッタカ~」
「ウチらも知らないってことは、ホント最初の頃なんだ。ウチら神威の妹も、割合古参メンバーなのにさ」
唐辛子入りのスモークチーズ、スパークリングワインと楽しむアル兄。チョコトリュフを、先生が煎れてくれたハニーティーと合わせるリリ姉。二人共通で浮かぶ表情は『意外』というもの
「うん、リリ姉達が来る、ほんの一月前くらいのこと~。兄妹げんか、茶飯事だったもんね~、リンちゃんとレンくん。でも、あの時は困ったよ~」
「はは、でもミク。ほとんどは、じゃれてるようなもんだったじゃない。あれは、コミュニケーションの一環だろう。だけど、あの日はヤバかった」
お互いを罵倒し、取っ組み合い寸前までいって、姉兄、紫の彼に止められた。あの日、わたしと片割れの間に割り入った紫の彼が言う。わたしはそのまま、彼の胸にしがみつき、膝の上で泣きわめいた。事の顛末が、めー姉、カイ兄によって語られる
「わ~壮絶です~。でも、どうしてそんな大げんかになったんですかぁ。リンちゃん、レンくん。それに『船』と言えばって」
ピコ君がやや竦みながら聞いてくる、ケンカの原因
「ん、あれ、何だったっけ、リン。おれ、覚えてないや」
「あ、レンも忘れてる。実はわたしもなの。何だっけ『船』」
レンまでも、わたしと同じく、ケンカの理由を忘れている。めー姉、少し驚いた顔で
「あらあら、あんな大立ち回り演じたのに覚えてないの~。レンがね、リンお気に入りのヌイグルミにコーヒー零したって言ってたわよ。ゲームセンターの景品、限定の代物」
ケンカの理由を告げるめー姉。苦笑し、お酒を一口。あの日二人とも、泣きわめきながら告げたのだろう、大人達に
「レンくん、一応謝ったんだけどね~。でも『わり~わり~』って笑いながら。ちょっと軽かったかな~」
ミク姉の表情は、困り顔。わたし達に巻き込まれた、ある意味当事者
「それで怒ったリンが、レンのプラモデル壊したらしくてね。腹いせに。今さ、マンションのエントランスに飾ってあるよね『伝説の宇宙戦艦』の大型模型。あれ、レンが作った四隻目なんだけど―」
「「ああ~思い出したぁっ」」
作品名:はじまりのあの日10 歓迎会と思い出 作家名:代打の代打