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第三部4(104)1934年 ポスキアーヴォⅠ

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「今お茶を淹れるね」

身につけていたスーツの上着とクロッシェを脱いでコート掛けに掛ける。

「ムッター、髪切ったの?」

「え?あ…うん。今長い髪あまり流行らないから…」

髪を切った事をミーチャに指摘されたユリウスが少し目を伏せ髪に手をやった。
顎のラインあたりで切り揃えられた金髪の裾から骨の浮き出た白い首筋が見える。

― 嘘だ。…ムッターは自慢の髪を売ったんだ。

ミーチャは直感した。

― なぜ、ムッターはこんなにまで困窮していて…ファーターは一体何をやっているんだ?一体この家は…この二人はどうなっているんだ?

「ねえ、ムッター。ファーターは?どこにいるの?― 仕事なのかな?」

ミーチャの質問にユリウスは少し困ったような表情を浮かべているばかりである。

「ムッター。ちゃんと答えて?この街で二人だけでつつましく暮らしていくだけならば、そんなに…髪を売る程生活に困窮することはないはずだ?ねえ、ムッター!ちゃんと答えて。一体ムッターと…ファーターはどんな生活をしているの?」

ミーチャに両肩を掴まれて追及されたユリウスの碧の瞳から涙がポロリと一粒零れ落ちた。

一度決壊した涙のダムはとめどなく白い頬を伝って落ちる。

声を押し殺して両手で口を押えながら嗚咽を堪える母親の細い肩をミーチャが抱きしめる。

「ムッター。もう苦しまなくていいよ。…僕に全て話して…」

息子の腕の中でユリウスが、亡命して、この地に居を移してからの事をポツリポツリと語り始めた。