妖夢の朧な夢日記-aoi
闇に溶けて消えるのに
長い長い耳が揺らぐ
紅い光が、照らしてくる
心のどこかで
頭の片隅で
見てはいけない
見てはいけないぞと
警報を鳴らし続けているのに
投げ掛けられる言葉は柔らかくて
引いてくれる手からは包容力を感じて
敵意なんてものは灰の一粒にも満たない
けれど
それはダメだ
それはダメだと
もう一人の自分が抑止する
けれど、優し気な眼差しに背を向ける事など、できない
責められている訳ではないのだけれど、
見つめなければいけないような気がして
目の前にいる人と目を合わせたら一巻の終わり
おかしくなって壊れてしまうに決まっているのだ
しかし
目の前にいる人は人なのだろうか
ここに人はいるのだろうか
いいや、ヒトなのだ
ヒトはいるのだ
自らがヒトなのだ
ヒトと信じていたい
ヒトと信じていたいのに
自分自身がヒトとは違う事を
何度も何度もありありと見せつけられて
あのヒトは根本を揺るがされていないのに
あのヒトは感情を揺るがされていないのに
あのヒトは精神を揺るがされていないのに
嗚呼、
見つめてしまった
ぐにゃりぐにゃりと全てが歪んで見える
やはりヒトではなかったのだ
そうして、諦めた
精神が乗っ取られる―
―ごめんなさい、また、狂わせちゃったわね。
うさ耳の少女の声で、目を覚ます
どうやら抱きかかえられているらしく
目の前に彼女の顔があったのだ
平気だ、と返すとしっかり見つめる
もう、大丈夫みたいだ
そこで、自分がそうしてくれと頼んだということを思い出す。
こちらこそ、と謝っておく
―慣れるまでは、付き合ってあげるから。
そう返して、彼女は微笑む
今宵の満月は、本物だった
作品名:妖夢の朧な夢日記-aoi 作家名:桜坂夢乃