We belong to earth.
目の見えないアムロは、屋敷内など間取りをある程度把握している場所ならば問題ないが、見知らぬ場所を歩くのはやはりかなり労力を使う。
それに、視力を失った事で、より強くなったニュータイプ能力は、時に周りの思惟を感知し過ぎてしまい、オーバーフローを起こしてしまう。だからアムロなるべく外出を控えていたのだ。
しかし、子供に会いたいと言うアムロの想いを叶えてやりたかった。子供に会ってしまう事で、アムロが自分から離れてしまうかもしれないという不安がよぎったが、それでも…願いを叶えてやりたかった。その為にも、少しでもリスクを無くす方法で手助けしようと思ったのだ。
「あら、てっきり子供に会うなって言うのかと思ったわ」
「私はそこまで狭小では無い」
ベルトーチカに本心を突かれたと思ったが、そこは虚勢を張って冷静に答える。
「まぁ良いわ。そうね、アムロの負担を考えたらその方が良いわね」
ベルトーチカはそれに了承すると、アムロと共に子供のいる公園に向かった。
当然シャア達も、別のエレカで一緒に向かい、陰ながらアムロを見守る。
公園の少し手前でエレカを降りると、アムロは護衛権介助役のギュネイと共に公園へと向かう。
ギュネイに支えられながら、杖をついて一歩一歩足を進める。ギュネイは杖を持つアムロの手が微かに震えている事に気付き、心配そうにアムロを見つめる。
その気配を感じ取ったアムロが、自分を支えるギュネイの腕をそっと掴む。
「情けないな、震えが止まらない」
少し悲しげに笑顔を浮かべるアムロの手をギュネイがギュッと握り返す。
「大丈夫です。自分が付いています」
「ふふ、ありがとう」
そっと微笑むと、アムロは足を踏み出した。
公園に入ると、数組の親子が遊んでいた。ギュネイは公園内を見回し、目的の子供を探す。すると、丸いペットロボットと一緒に遊具で遊ぶ癖毛の子供を見つける。
ギュネイはその近くにあるベンチへとアムロを導き、座らせる。そして、そっと耳元で近くにいる事を知らせる。
アムロは目を閉じて子供の気配と声を探す。
すると、その気配がどんどん自分に近付いて来るのを感じる。
「おじさん!前に月で会ったおじさんだ!」
駆け寄ってきた子供が、アムロに向かって話し掛ける。
アムロはドキリと肩を震わせ、声のする方へと顔を向ける。
そして、足元にはハロが転がってきてアムロの手の上に飛び乗る。
ハロは前にアムロに命令された事を守り、決してアムロの名前は呼ばないが、ピカピカと目を赤く点滅させている。
〈ゲンキカ?〉
「元気だよ」
アムロはハロ撫でながら答えると、子供の気配のする方に向かって微笑む。
「このペットロボット…グラナダの宙港で会った坊やかい?」
「そうだよ!覚えててくれたんだ!」
アムロが声の聞こえる方に手を伸ばすと、その手を子供がそっと掴んで自分の頬に当てる。
その温もりがアムロの手の伝わり、それと共に子供の素直な思惟がアムロに伝わってくる。
「もちろん覚えてるよ」
「僕、おじさんにもう一回会いたかったんだ!」
「俺に?」
「うん!おじさんはなんか凄く優しい感じがするんだ!」
そうにこやかに笑う子供に、アムロは少し罪悪感を感じる。
『優しくなんか無い…、俺は自分の為に君やお母さんを捨てたのだから…』
そんなアムロの心情が伝わってしまったのか、子供が少し悲しげな表情をする。
「…おじさんは僕に会いたくなかった?」
「…っ、そんな事ないよ。俺も君に会いたかった」
「ホント!?」
「ああ、本当だよ」
「そっか、良かった!ねえ、隣に座っても良い?」
「もちろん良いよ」
その答えに子供は微笑むと、ベンチに這い上り、ちょこんとアムロの横に座る。
『この、人見知りの無い積極的な性格はベルトーチカ似だな』
っと、そんな事を思う。
「おじさんはこのコロニーに住んでるの?」
「…ああ、そうだよ」
素直に答えて良いか迷ったが、おそらくこの子に嘘は通用しない。
「そうなんだ!」
もう会えないと思っていたアムロの居場所を知る事が出来て、子供は心底喜ぶ。
何処にいるか分かればいつでも会いにこれるから…
「君は?」
「僕?僕は地球のホンコンシティに住んでるんだ!」
「そうか…ここには旅行で?」
「うん!」
それから二人は好きな食べ物や嫌いなもの、今夢中になっているものの事など、いろいろな事を話した。
そんな二人を、ベルトーチカから連絡を受けていた夫とギュネイが側で見守る。
「僕ね、大きくなったらシャトルのパイロットになりたいんだ。それで色んなコロニーに行って色んな物を見てみたいんだ!」
「そうか、良い夢だね」
戦う為のパイロットではなく、人々の為のパイロットになりたいという子供に、自分とは違う道に進んで欲しいと心から願う。
「その為にはいっぱい勉強して、いっぱいご飯を食べて大きくなって…それに体力をつけなきゃいけないんだって!」
「そうだな。パイロットは身体が基本だからね」
「おじさんもパイロットだったの?」
「…ああ、昔ね」
「そっかぁ。いつか僕がシャトルのパイロットになったらおじさんを一番に乗せてあげるよ!」
「それは嬉しいな!今から楽しみだ」
「うん、待ってて!僕うんと頑張って絶対パイロットになるよ。その為にいつも公園でいっぱい遊んで、体力と腕の力を付けてるんだ!」
そういうと、子供はベンチから飛び降りて目の前のジャングルジムに登りだす。
〈タカイトコロ キケン オリロ〉
ハロがジャンルジムの天辺まで登る子供に注意をする。
「ハロ、大丈夫だよ!」
「ハロ、あの子は危ない所に居るのか?」
ハロの警告に、アムロが心配気に確認する。
〈ジャングルジムノ イチバンウエ オチル キケン〉
その言葉に、アムロは立ち上がると、気配のする辺りまで移動する。
「大丈夫かい?ハロも心配しているから、降りておいで」
「大丈夫だよ!」
そう言った瞬間、子供の足がズルリと滑りバランスを崩す。
「危ない!」
側で見ていたギュネイが思わず叫ぶと同時に、アムロが落下地点であろう場所へ咄嗟に移動して手を広げる。
しかし、気配は感じても正確な位置までは分からないアムロは、なんとか子供を受け止めはしたものの、バランスを崩しそのまま地面に倒れ込んでしまった。そして、その勢いで頭と身体を思い切り地面に叩きつけてしまう。
「大尉!!」
慌てて駆け寄るギュネイは、衝撃で意識を失ってしまったアムロに声をかける。
子供の父親も急いで駆け寄り、子供の無事を確認する。
幸い子供はアムロがクッションとなり、軽い擦り傷だけで済んだが、自分を抱きしめるアムロの意識がない事に気付き、慌てて声をかける。
「おじさん!おじさん!大丈夫!?おじさん!」
目を覚まさないアムロに、子供が泣きじゃくる。
「っ…う」
すると、アムロが唸り声をあげてゆっくりと目を見開く。
そんなアムロを、子供とギュネイが心配気に覗き込む。
「おじさん!」
「大尉!」
アムロは何度か瞬きすると、腕の中で泣きじゃくる子供の頭をそっと撫でる。
「…大丈夫だよ」
アムロはゆっくりと身体を起こし、子供を膝の上に乗せた状態で地面に座る。
「大尉、大丈夫ですか?痛むところは?」
作品名:We belong to earth. 作家名:koyuho