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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法4

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 以前からアーチャーは気になっていたのだ。そのうちに、己のマスターをなぜ下の名で呼ぶのかと、不満に思うことが多くなってきていた。それを、つい、言ってしまったことに、自分自身動揺しながら言い訳を探す。
「あ、いや……、君がマスターと契約をしていたのは僅かな時間だった。だというのに、」
「嫉妬ですか? アーチャー」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
(しっ……と?)
 今、セイバーは嫉妬と言ったのか、と頭の中で反芻する。そうして、やっとその意味を理解したものの、何を言うのだ、と目くじらを立てるのもどうかしている。
「……………………そんなわけがないだろう」
 アーチャーがどうにか答えれば、セイバーは不思議そうに首を傾けた。
「違うのですか?」
「ああ、違う」
 ため息をつきながら、アーチャーははっきりと言い切る。あまり気分のいいものではないから、などとは言えず、誤魔化すために。
「では、なぜ?」
「マスターでもない者を、気安く呼ぶのだな、と不思議に思っただけだ」
「アーチャーは、日々食事をともにする者と気安くはならないのですか?」
「食事…………」
 基準はそこか、とアーチャーは額を押さえる。
「いや、その、だな……」
「おかしなことを言うのですね。日々ともに食事をしていれば、もうそれは、家族同然であると思います。かつての私の臣下たちはそうでした。仲間とともに寝食をともにして、絆を深め合っていたのです」
「そう、だろうが……」
 アーチャーは言葉に窮してしまった。セイバーに、つい訊ねてしまったことを今さら後悔する。
 ただ、ずっと腑に落ちなくて、いつのまにか不満に思っていたのだ。自身のマスターでもないというのに、己のマスターを親しく名で呼ぶのか、と……。
 自身のマスターだからと理由をつけても、“士郎”と下の名で呼ぶことはアーチャーにとって非常に難しいことだ。それをいとも簡単にやってのけるセイバーを少し羨む気持ちもあった。
「いや、まあ、忘れてくれ、セイバー、少し気になっ……」
 ハッとしてセイバーを背後に庇う。
「アーチャー?」
 セイバーが訝しげにアーチャーを見上げる。
「何か?」
「いや、気のせいだった」
「気のせい?」
「あ、ああ、影が見えた気がしたので……」
「影? まさか、聖杯の!」
「いや、見間違いだろう。魔力には何も変化はない」
 庭で洗濯物を取り込んでいる士郎を、ちら、と見遣り、その周囲にも不穏なものがないことを確認する。
(マスター……)
 こちらを見ない姿をこの先もずっと見続けなければならないのかと思うと、アーチャーの胸の内は重く沈んできてしまった。
「アーチャー? どうしました? シロウに何か、」
「ああ、いや、マスターにも異常はなさそうだ」
「そう、ですか?」
 まだ気がかりを残すセイバーを居間へと促す。
 べイクドチーズケーキを作ったのだと言えば、セイバーはすぐにそちらへ興味を向けてくれた。
 ほっとしながらアーチャーは背後を振り返る。そこには、なんの痕跡もない。
(なんだったのか……)
 黒い影のような、それこそ泥のようなものがセイバーの背後に迫っているように見えた。アーチャーが気づいたことで、瞬時に消えたが、不気味な影だったと感じている。
(聖杯、なのか?)
 だとしたら、士郎の身に何かしらの症状が現れていてもおかしくはない。だが、アーチャーは士郎に近づくことができないために、それを確かめる術がない。
(なんだというのか……)
 手も足も出ない。
 この現状に、アーチャーは疲弊しつつある。イライラとすることが多くなったと自覚している。だが、手の打ちようがない。
(私が何を言ったところで……)
 士郎がアーチャーの言うことに耳を傾けるとは思えない。
 少し前であれば違っていた。あの魔術師との一件の前は、ずいぶんと距離が近づいていたのだ。
 士郎に、あの無茶なバイトをさせることなく食費を賄えるように知恵を貸してやれば、はじめは否定的だったものの、素直にアーチャーの提案を受け入れるようになった。
 もっと反発してくるかと身構えていたアーチャーは拍子抜けしたほどだ。それは、やはり、士郎が心底あのバイトをやりたかったのではないという証拠に思えた。
(当たり前だ、あんな、身も心も削られるような行為など……)
 誰が好きこのんでやるものか、とアーチャーは吐き捨てたい。
(しかし……)
 どうすべきか、とまた思考が戻っていく。
 本来ならば、凛やキャスターに打診すべきことだとアーチャーもわかっている。だが、それに二の足を踏んでいるのは、ひとえにアーチャーが自身で解決したいと思うからだ。
(私が……)
 解決しなければならない、という義務ではなく、他の誰にも関わらせたくない、という独占欲に似たものを感じている。
「どうかしているな……」
 紅茶を注ぎながら、自嘲の笑みを浮かべて、打つ手を失った敗軍の将の気分を苦々しく味わっていた。


「ねえ、アーチャー」
 呼ばれて振り向けば、不機嫌に眉根を寄せた凛が腕組みして立っている。
「何か用――」
「なんなの、あれ」
 背後を顎で示し、凛はアーチャーを問い詰める。
「なに、とは……」
「とぼけないで。衛宮くんが普通じゃないことくらい、わかるわよ」
 ぎくり、としたが、アーチャーは顔にも態度にも出さない。瞬時に言い訳やらを頭にいくつも並べ立て、心中で身構えた。
「……普通じゃない、というのはどういう状態か、説明してくれないか、元マスター」
「う……」
 凛が怯んだ。そこでアーチャーは緊張を解く。
「カマをかけたな? 凛」
「……そ、そうよ」
 凛はセイバーから、アーチャーに影のようなものが見えた、という話を聞き、聖杯に何か変化があったのかを聞き出そうとしていたようだ。
 ただ、アーチャーが素直に話さないだろうと、なぜかタカをくくっていた凛は、カマをかけ、尻尾を掴んでから問い質そうとした。あえなく失敗に終わったが。
「性質が悪いな」
「だって、素直に言わないでしょー、どうせ」
 頬を膨らませて、凛は不満げに言う。
「何を拗ねているんだ。不機嫌になっていいのは、カマをかけられたこちらだぞ」
「悪かったわよー」
 全く謝ってはいない態度の凛にアーチャーは肩を竦める。
 なぜ率直に訊かないのか、と凛に呆れるアーチャーだが、そんな回りくどいやり方をしようとした凛にも理由がある。士郎とアーチャーの様子に違和感を持ったからだ。
 アーチャーは以前と変わらないふうを装っている、士郎はやたらと口数が少ない。そして、アーチャーと士郎がこのところ言葉を交わしている姿を見ていない。元々が話をするような二人ではなかったが、少し前はもっと近しい感じに思えたのだ。
「大丈夫なの?」
 何がとは訊けず、凛はそう訊くしかなかった。
「何を危惧しているのかは知らないが、問題ない。心配が過ぎる」
「でも、衛宮くんがちょっと沈んでるのは事実じゃない」
「それは……、まあ、あんなバイトをしていたと知られては、やはりバツが悪いのだろう」
「ずいぶんわかり合えるようになったのね、アーチャー?」