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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法4

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 意外にもアーチャーから士郎の心情に関する言葉が出てきて、とりあえず凛の気はおさまったようだ。
「いや、そういうわけでは、」
「謙遜しなくていいわよー」
 アーチャーの言い訳をにこやかに遮って、凛は居間へと戻る。
 凛が座卓につき、セイバー、桜、ライダーと、いつものメンバーで食後のデザートを食べながら団欒をしている。そこには、どことなくぼんやりした家主の士郎もいる。
 来客がいる時はそこで過ごし、来客たちがいなくなれば、士郎の姿もそこにはない。
 そして、アーチャーは、その団欒に入ることはない。アーチャーがそこに加われば、士郎が席を立つことがわかっているからだ。
 士郎との団欒を望んでいる彼女たちの楽しみを奪うことはできない、とアーチャーは極力給仕に徹することにしていた。



        ◇◇◇

(遠坂と何を話してるんだろう……)
 士郎はお茶を啜りながら、ぼんやりと思う。
 ――知りたいか?
(知りたいとは思っていない)
 心中で否定すれば、いつものように笑う気配。
 ――いい加減に、士郎も認めればいい。
(何をだよ)
 ――私が欲しいのだと。
(欲しくなんてない)
 きっぱりと思うものの、士郎は自分が嘘をついていると、頭の片隅で理解していた。
(さっさと消えろ。いつまでアーチャーの姿を真似ているつもりだよ……)
 ――士郎が望んでいるからな。
(だから、望んでなんて、いない!)
 また笑う気配を感じた。
 いい加減にしろ、と思うものの、士郎には聖杯が作り出したアーチャーの消し方がわからない。実体となって表に出ているわけではないが、こうして声を聞かせ、夢にはアーチャーの姿で現れる。おかげでこっちは寝不足だ、と士郎は不満に思うが、対処のしようがない。
(どうしてあんなのが、急に……)
 あの魔術師との一件、いや、その後のアーチャーとの行為以来、夢にアーチャーに化けた聖杯が現れ、甘言を吐く。夢だけならまだしも、こうして頭の中で、繰り返し、自分を求めろ、というようなことを、アーチャーの声で言ってくる。
(望んでない。だから、欲しいなんて、思わない)
 改めて、強く心に誓う。
「じゃ、衛宮くん、私たちは帰るわね」
「ぇ、あ、え? そ、そうか」
 もうそんな時間なのか、と時計を確認するフリで、台所で後片付けをしている姿を垣間見る。
(何を話してたんだろう……)
 その背中を見つめて思う。
 居間から出ていく凛たちの気配にハッとして、今思ったことを振り払うように立ち上がった。

 凛たちを見送って、風呂を済ませ、ひとり縁側を自室に向かう。
「きっと、避けてるって、わかってるんだよな……」
 アーチャーは、士郎に近づこうとしない。
 以前からそれほど近くにいたわけではないが、普通に会話することや台所に並んで立つこともあった。だが、今は、そういうことが全くできない。
(恥ずかしい奴だって……)
 自室に入って後ろ手に障子を閉め、士郎はそのまま座り込んだ。途端、士郎を中心にして半径一メートルほどの畳が黒い影に染まる。
「っ……」
 刻々と、時間とともに黒い影は大きくなっている。細い黒い帯の先端がその影の中から時折見え隠れする。まるで、いつでも出られるぞ、とアピールしているようだ。
(アーチャーにとって、俺は恥ずかしいだけの過去なんだ……)
 左手の令呪を眺めてみる。赤く手の甲に刻まれた刻印はアーチャーを留める証だ。
(もう、契約なんてやめた方がいいんだろう……)
 士郎がそう思っていても、一存で行動に移すわけにいかない。アーチャーを召喚したのは凛だ。勝手に契約を切るなどという横暴は働けない。
「遠坂に……、頼んでみようか……」
 ぽつり、とこぼしたものの、本当に頼む気があるのかといえば、そうでもない。
「はぁ……」
 熱っぽい身体のだるさが鬱陶しい。
 高熱ではないため、立てないわけではないが、這って布団の方へと向かう。布団に潜り込もうとした時、
「マスター」
 びく、とその声に身体が硬直した。
 なぜだ、と士郎は疑問符を浮かべる。
 このところ、自発的に距離を置いてくれていたアーチャーが急に声をかけてくることに、士郎は戸惑うよりも大混乱だ。
「マスター?」
 なんの用だろう、と考えているうちに、再び呼ばわれる。
「な、なん、だよ」
「入るぞ」
「えっ? あ、え? い、いや、あの、」
 制止する前にアーチャーは障子を開けた。
 片手で掛け布団を半端に上げた状態の士郎を見て、アーチャーは眉を上げた。
「休むところだったか……。いや、だが、少しいいだろうか?」
 アーチャーは思案の末、士郎に伺いを立ててきた。強引ではなく、きちんと話そうとしている態度がありありと見て取れ、士郎は断ることもできない。
「な……んだ?」
 布団から手を離し、アーチャーに半身を向けたまま士郎は訊く。
「体調が悪いだろう? それと、聖杯に変化があったのではないか?」
 どちらも当たっているが、頷くわけにもいかず、首を振って否定する。
「別に……、ない」
「凛もセイバーも心配していたぞ。二人だけではない、桜も口には出さないが、ずっとマスターの顔色を見て、心配そうにしている。彼女たちのためにも、何か常とは違うことが起こっているのなら、勘違いでもいい、話してやれ」
「っ……」
 士郎は握った拳で目元を覆う。アーチャーの口から誰かの名が出るたびに不快感に襲われる。
「マスター? やはり、どこか、」
「と……さかに、訊けっ……て?」
 震える声を士郎は絞り出す。
「マスター?」
「遠坂が、訊いて、こいって、言ったか? そうだな、アンタは、遠坂のサーヴァントだ、遠坂の言うことなら、近寄りたくもない、俺に話を訊くくらい、するよな」
 ひどい言いがかりをつけていると士郎はわかっていたが、あふれ出した言葉は止めようがない。
「マスター、何を言っている。私は、」
「悪かったな、契約、戻せなくて」
「……その話は、とっくに――」
「終わった話でも! アンタは望まない契約を結んでるんだろ! だったら、」
「いい加減にしろ!」
 怒鳴られて、尚且つアーチャーに肩を掴まれて、士郎は思わずその顔を見上げた。
 いつの間にこんなに近くに来ていたのか、と呆然とする。そして……、
「ぁ……」
 血が逆流するように、足先から熱が上がってくる。
 真っ直ぐに見据えてくるアーチャーに鼓動が跳ねる。
 その鈍色の瞳が自身を映していることが、とてもうれしいと士郎は感じた。



*** Interlude IV―1 ***

 俺は願ってなんていない。
 望んでなんていない。
「士郎」
 優しくするな。
 そんな甘い声で“士郎”なんて呼ぶな。
 アーチャーを欲しいとは思わなかった。
 ただの仮契約みたいなもので、俺が聖杯を取り込んでしまったから、アーチャーは遠坂との契約に戻れなくて……。
 俺の願いがアーチャーだなんて、そんなのは、嘘だ。
 俺の願いは……。
「士郎、さあ、その手で私を捕まえろ」
 違う。
「士郎、手を伸ばすだけでいい」
 優しい声だ……。眩暈がする……。
 ああ、ダメだ。言わなければ、違うって。
 願ってなんていないって。
「ぁ……、ぅ……」