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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法4

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 声が出ない。
「しようがないな、百歩譲ってやるとしよう」
 アーチャーの姿を借りた聖杯は、俺のすぐ前に来て両腕を掴む。
 眩暈が酷くなる。
 こいつに近くにいられると、ダメになりそうだ。
「ゃめ、……っろ、」
 逃げようとしたのに、引き寄せられて、温かい腕に包まれる。
「あ…………」
 あの時と、同じ……。
 高い熱が出て苦しかった時、こうして俺を受け止めてくれた。
 親父を喪ってからは藤村の人たちにたくさん世話になって、優しくしてもらっていた。
 だけど、それは、いい子だった時の俺だ。
 なのに、俺の全部を、ダメなとこも何もかもを知っているのに、丸ごと包むようにしてアーチャーは、俺を抱きしめてくれた。
 あの時、なんでだか、バカみたいに涙が出てきてしまった。アーチャーはきっと驚いていたんだろうけど、なんにも言わずに、ただ、俺を受け止めてくれていた。
 こんな、俺を。
 恥ずかしい生き方をしてきた俺を……。
「士郎」
 髪を撫でて、優しい声で俺を呼ぶ。
 違う。
 こんなんじゃない。
 アーチャーは、こんなふうに俺を呼ばないんだって。
 いい加減、気づけ、俺!
 ここは、夢みたいな世界だ。俺がどこかで望んでいる世界だ。だから、現実じゃない。だから、錯覚してはいけない。
 このアーチャーは、本物じゃない。
 腕を上げて、聖杯が化けたアーチャーの胸元に手を当てる。
 白い布地を掴もうとする指が恨めしい。力がこもりそうになるのを必死で堪えた。
「そうだ、士郎。私を望め」
 違う、違う、違う、違う!
 こいつは、アーチャーじゃない!
 腕に力を籠める。
 拒まなければいけない。
 こんな、優しいのは――――、
「お前なんか、要らない!」



*** Method 11 ***

「お前なんか要らない!」
 士郎の手が、アーチャーの胸元を押した。
 そんな言葉を吐いたというのに、睨み付けることはなく、その相眸は、縋るようにアーチャーを見つめている。
 要らないなどと言う人間の顔ではない。
「な、ん……」
 アーチャーが言葉を探す間に琥珀色の瞳が滲んでいった。
「マスター?」
 今度こそこぼしてはならない、と、アーチャーは頬に触れようとしたが、
「マス――」
 ぐらり、と士郎の身体が傾ぐ。
 咄嗟に支えようと士郎の身体に触れた途端、大波の如くアーチャーに襲いかかったのは、士郎の記憶の断片。
「な……」
 一瞬のうちに通り過ぎた士郎の内面をも含む記憶を、アーチャーは理解できなかった。いや、理解できたかもしれないものを、理解することが、知ってしまうことが、きっと自身を大きく変えてしまうと警戒感が先に立ち、まずいものを見てしまう、と、反射的に拒否していた。それでも、やるせなさだけが胸に広がる。
「っ……」
 意識を失った士郎を布団へ寝かせ、アーチャーは苦々しい想いを噛みしめる。
「なん……だと……いうのだ……」
 要らないとは、どういう意味だ、と憤る。
「マスター、いったい……」
 どういうことだと訊きたいのに、士郎は意識を失ってしまった。
 肩を揺すってみたが、目を覚ます様子もない。
「マスター、目を……開けろ……」
 士郎の頬を包み、濡れた目尻を親指で撫で、閉ざされたままの瞼に口づける。
「マスター……」
 なぜ、何も言わないのか。何かが起こっているのなら、どうして己に言ってくれないのか。
「私は、お前のサーヴァントだぞ……」
 セイバーに諭されていただろう、とアーチャーはあの夜の会話を思い出す。
 ケガを負った後、遠坂邸を出てすぐ、士郎と話したいというセイバーに、その場から席を外したものの、聞き耳を立てていた。何を話しているのかが気になって仕方がなく、素知らぬフリで聞いていた。
「マスターを守れないことは、サーヴァントにとって何より苦痛だと……」
 言われていたじゃないか、と不満を漏らす。
「ただのマスターとサーヴァントですら、そうなのだぞ……」
 もう己はそれだけではないのだ、とアーチャーは認めるしかない。
 いまだ士郎は、ただ成り行きで契約を結んだだけだと思っている。だが、もうそういう段階ではないのだと、どうしてわからないのか、と士郎の鈍さに苛立ちを覚えてしまう。
「私は……、お前のことをもっと知りたい……、もっとお前と……」
 話がしたい、近づきたい、…………繋がっていたい……。
「はは……、何を私は……」
 自嘲を浮かべ、アーチャーは目を伏せる。
「マスター……」
 士郎の額に己のそれを当て、こうしていれば何か掴めやしないかと、祈るような気持ちで瞼を下ろした。



        ◇◇◇

 赤茶けた砂。
 吹き荒ぶ風。
 風紋を浮かべた砂の大地は、風に巻き上げられた塵芥で靄がかかる。
「これは……」
 アーチャーは、ぽつり、とこぼした。
 よく似た世界を知っている。
 よく知るそこには剣が突き立っているが、ここには砂以外、何もない。
 風と砂。
 ただ、それだけの世界。
 アーチャーの知る、こことよく似た世界は、自身の持つ心象世界。剣を内に秘めた、自身の剣製を司るような世界だ。
 しばらく、その淡々とした世界を眺め、やがて足を踏み出す。目的地があるわけではない。何かしらの目印もない。ただ砂だけの世界をアーチャーは歩いてみた。
「何もないな……」
 寂しい世界だと思う。自身の心象世界も負けず劣らずの荒んだ世界ではあるが、そこには剣がある。だが、ここは、何もない沙漠だ。
 ぎし、ぎし、と踏みしめる砂と思っていたものが、よくよく見ると赤い錆だということに気づく。
「鉄錆……」
 こんな大量の錆がどこから、とアーチャーは辺りを見渡してみるも、なんら代わり映えのしない赤い沙漠があるだけだ。
 どこへ行くともなく歩き続けてみれば、人影があることに気づいた。いつからいたのか、それともずっといたのか、判然としないが、赤錆の沙漠に座り込む人影は、アーチャーの予想した通りの者に見える。
「アレのか……」
 この世界は、この、赤い錆だけの寂しい世界は、今、アーチャーのマスターである衛宮士郎の持つ心象世界なのだと嫌でも理解できた。
「マスター」
 近づいて声をかければ、ぼんやりとした士郎の琥珀色の瞳がゆっくりと動き、こちらを見上げ、アーチャーを映した。
 ほっとしている自身に納得がいかないものの、手を差し出した。
「アーチャー……」
 気の抜けた声で呼ぶ士郎はじっとアーチャーの手を見つめていたが、不思議そうにまたアーチャーの顔を見上げる。
「マスター」
 催促するように呼んでも、士郎はいっこうに手を取らない。仕方なくその腕を掴む。
「こんなところで何をしている、マスター。戻るぞ」
「何を言ってるんだ、アーチャー。俺はここから動けない。そんなこと、知ってるだろ?」
「何を言う、はこちらの台詞だ。動けない? 知っている? 何を言っているのか……。さっさと戻るぞ。こんなところにいては、目が覚めているかどうか、マスターの身体の状態もわからない。聖杯がおかしな力を発揮するかもしれないのだから、さっさと……」
 士郎の腕を引いたが、士郎の身体が全く動かないことにアーチャーは眉根を寄せ、その足元を見る。
「な……」