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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法5

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 だというのにアーチャーは、どうしてキスなんてことをしたのだろうか、と疑問が浮かぶ。
 そういえば、と士郎は思い出した。安心させろと言ったアーチャーとした行為を。
「あ…………お、俺…………」
 キスどころか、魔力供給とは関係のないセックスまでしていたことに思い至る。あの時、アーチャーには魔力が滞りなく流れていた。だというのに、供給と同じ行為に至ったのは、いったい……。
「そ、そういう、趣味?」
 呆然とアーチャーの性的嗜好を考えてみる。
 だが、自身の未来であるならば、その可能性は低そうであり、契約してすぐの頃、アーチャーは直接供給のたびに精神的なダメージを被っていたような気がしている。
「じゃあ……、違うか……」
 ならば、どうしてだろう、と服を脱いで風呂へ入る。
 身体を洗い、湯船に浸かろうとして、ふと、風呂場の鏡に映る自身を眺めてみる。
 どこをどう見ようとも男にしか見えない。強いて言えば、アーチャーよりも背が低い、それくらいしか、ああいう行為をするメリットはない気がする。
「メ、メリットって、なんだよ!」
 何やら腹が立ってきた士郎は、勢いよく湯船に浸かった。
「俺、変だ……」
 二度、ここで抱き合った。
 一度目は高熱が出て、やむにやまれない状況だったと聞いている。では、二度目は……。
 アーチャーは何も言わない。
(あの時のこと、なかったことにしたいんだろうか……)
 触れたくないことなのかもしれないと思い、士郎は口にしないようにしている。本当は訊いてみたかった。どうして安心するために、あの行為を選んだのか、と。
 アーチャーに求められて、士郎は拒まなかった。うれしいとしか思わなかったし、自分自身を求められていることが、とてつもなく胸を熱くさせた。
「アーチャーは……」
 洗い場を、ちら、と見遣り、赤くなって湯船に鼻まで沈む。
(あんなこと、もうしない)
 アーチャーを不安にはさせない。
 聖杯の力を使ったりはしない。
 強く心に誓って、士郎は風呂を出た。



        ◇◇◇

「凛、あの魔術師と話はできるか?」
「また? できると思うけれど、何を訊くのよ?」
「ああ、マスターとともに、話をつけにな」
「話を、つける?」
「ああ」
「なんだかわからないけど、あんたたちのためなのね?」
「ああ」
 率直に答えるアーチャーに凛は、珍しい、と思いながら答える。
「ふーん。わかったわ。許可を取ってみる」
「ありがとう、凛」
「ちょ、ちょっと、何よ、急に素直だと不気味よ?」
「む……」
 アーチャーは礼を言っただけなのだが、不気味だと言われ、眉間にシワを寄せる。
「ま、まあ、別にいいんだけど……。それよりもアーチャー、何かあった?」
「何か、とは?」
「なんだか、雰囲気が違う気がするの」
「……まあ、少し吹っ切れた、というか、な、」
「そうなの?」
「マスターが吹っ切れたというべきか……」
「衛宮くんが? そう、ちょっと元気がなかったものね。よかったわね、アーチャー」
 うれしそうに言った凛に、アーチャーは頷く。
「本当にな」
 台所でセイバーと炊き込みご飯を作っている士郎を見やり、アーチャーも少しだけ笑みを浮かべた。
「ふふ……」
「なんだ?」
「アーチャーはうれしそうね」
「……な、わ、私のどこが!」
「うーん、なんとなく」
「なんとな、く? そんな曖昧なことを言って、いったい何を企んでいる」
「企んでなんてないわよー。よかったなーと思っただけー」
 にまにまと笑う凛にアーチャーは、居心地悪そうにして立ち上がる。
「君の口車には乗らない。またカマをかけて何かを訊き出そうとしているのだろう。まったく、その性格は改善の余地があると思うぞ」
「はいはーい」
 凛はアーチャーの苦言にも耳を貸さない。
「まったく」
 呆れながらアーチャーは台所へ入り、セイバーと入れ代わりに夕食の準備に取りかかる。
 士郎と並んで立つ姿を見遣り、凛は、ふふ、とまた笑みを漏らす。
「どうしましたか、凛?」
「ええ、なんだか、うまくいってるのね、って思ったの」
「うまく?」
 セイバーは首を傾げる。
「あの二人、少しずつわかりあっているのかなーって、思ったの」
 セイバーは台所を振り返り、頷く。
「ええ、そのようですね」
「いいことね?」
「ええ、いいことです」
 少女たちの談笑が、居間に満ちていた。



 エレベーターを降り、士郎は足を止めた。
 数歩先に行っていたアーチャーが振り返ると、士郎は俯き加減で、困惑をその顔いっぱいに露わにし、その上、緊張も隠せないようだ。
「あの……」
 後戻りしたアーチャーは、ソワソワとして落ち着かない士郎の顔を覗き込む。
「どうした、マスター」
「別に、話とか、ないっていうか、っン――」
 アーチャーはそのまま士郎に軽く口づけた。
「な、なに、し、」
「落ち着いたか?」
「え? あ、ぅ……、び、びっくり、した、けど……、っていうか、アーチャーは、キス魔、なのか?」
 見上げて訊く士郎を見下ろしたまま、だんだんとアーチャーの眉間には力が籠もっていく。
「……………………マスター、日本語をしゃべってくれ」
「しゃべってますけど?」
「では、わかる言葉で、」
「だから! キス魔なのか、って!」
「なぜ、そんな話に……」
 額を押さえて、ため息交じりにうんざりと言えば、
「アンタが、してくるからだろ!」
 士郎が勢い込んで言い切る。そこでようやくアーチャーは自身の行いに思い至った。
「……そ……、そんなにか?」
 真剣に訊くアーチャーに、士郎は目を据わらせた。
「アンタ、気づいてないのか……」
 呆れたように言われ、アーチャーはバツが悪い。
「い、いや……、まあ、その、なんだ、……と、とにかく、マスター、終わったことにしたいだろうが、大切なことだ」
 アーチャーは急に話を切り替えた。
「ぁ……、あ、う、うん」
 士郎は頷くしかない。
「あの魔術師に、詳細を訊く必要があるだろう?」
「……うん」
 自分のことは棚上げかよ、という士郎の視線をものともせず、アーチャーは目の前のことを重視する。
「いくら借りがあったとしても、当然の権利というものがある。マスターはそれを忘れている。いや、認識させないように誘導された、と言っていい」
「そう、なのか?」
 ようやく士郎は当座のことに目を向けた。
「まあ、話してみなければわからないがな」
 アーチャーは、衛宮切嗣の負債について詳細を明らかにしようと士郎に提案したのだ。アーチャーが確認したところ、士郎は切嗣の借用書すら見たことがないと言う。
 疑わしい、とアーチャーには思える。
 小学生ならば引っかかるだろうが、アーチャーはそんな口車には乗らない。
 そういうわけで、再びアーチャーは件の魔術師が監禁されているホテルを訪れている。今回は士郎とともに。その士郎は、扉の前でもまだしばらく迷っていたようだが、ようやく決心がついたようで、扉を開けたアーチャーに続いた。
 そこは、ホテルの一室と大差のない部屋だった。ただ、その部屋の椅子に腰かけている者が片腕を鎖に繋がれていなければの話だが。
「やあ、士郎くん」