第三部8(108) 覚醒
「あのね、髪と…おばあ様から形見に頂いた宝石類は全て手離してしまったけれど、これだけはどうしても手離せなかったんだ」
そう言うとユリウスは薬指に光る金の指輪をアレクセイに翳して見せた。
「それ…」
「あなたが…プレゼントしてくれた結婚指輪だよ」
それは、アレクセイがシベリアから戻って来て間もない頃に、なけなしの給料を叩いてプレゼントした、金の結婚指輪だった。それを贈った時の、妻のびっくりしたように大きな瞳を一層大きく見開いて―、その碧の瞳からポロリと零れた涙の美しさは、今でもアレクセイの目の奥に鮮明に焼き付いている。
ユリウスが愛おし気にその指輪を撫でる。
「お前…」
いじらしい妻のその言葉に、アレクセイが堪らずギュウっと抱きしめる。
「お前ってやつは…なんて可愛いんだ」
抱きしめて頬ずりする。
アレクセイの亜麻色の髪の毛先がユリウスの首筋をくすぐる。
「アレクセイ!くすぐったい~~」
彼の腕の中でユリウスがこそばゆそうに身を捩った。
作品名:第三部8(108) 覚醒 作家名:orangelatte