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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法7

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 すり寄っていたあったかい身体もない。
 握ったのが、少しだけ温もりを残したシーツで、ちょっとだけ寂しいと思う。
 聞き取れない言葉に耳を向けようとして……。
 また、眠っていた。

 甲高い鵯の声がして、一気に意識が浮上する。
 くっついたみたいに上がらなかった瞼が開いた。
 視線を巡らせると、障子から入ってくる外の明かりが赤みを帯びている。
「…………」
 重い身体をどうにか起こせば、腰が、ずきり、と痛んだ。
「いたた……」
 しばらく動けず、布団の上にへたり込んだままぼんやりしてしまう。
「は……」
 自分が何をしたのかを思い出して、ため息がこぼれる。同時に、身体のあちこちがカッカして熱い。
 後悔してるわけじゃない。
 だけど、よかったのか? って思う。
「アーチャーは……」
 俺とあんなことをしてもよかったんだろうか?
 静まりかえった室内を見渡して、ここにいないアーチャーにほっとしながら、少し、嫌だなと思う。
 アーチャーがいたら、それはそれでいたたまれない。だけど、あんなふうに求め合ったのに、目覚めた時にいないって、なんだかモヤモヤする……。
「はは……、なに、考えてるんだ、俺……」
 おかしなことを考えている気がする。
 あんなことをしても、俺とアーチャーは、ただ、マスターとサーヴァントっていう関係で、たまたま、ああいうことをやってみただけで、特に意味なんかなくて、アーチャーがなんだか乗り気になってしまっただけで……。
 確かに、アーチャーは乗り気になったけど、その原因を作ったのは俺なんだ。
 俺が、アーチャーに頼んで……。
「どう……しよう……」
 どんな顔をしてアーチャーに対すればいいんだろう?
 畳をじっと見つめたまま、動くことも忘れていた。
 しばらくぼんやりしていたら、アーチャーが部屋に来て、大丈夫かと心配そうに訊く。それから謝られた。
 ああ……そっか……やっぱり……。
 アーチャーは、後悔してるんだと気づいた。謝るってことは、本意ではなくて、事故みたいなものってことで……。
「…………っ……」
 まただ……。
 なんで、胸がずきずきするんだろう?
 アーチャーのことを考えるといつも胸のあたりが痛かったり、疼いたりする。
 変だ、俺……。
 痛い……。
 平気なふりして、出ない声で、会話をしようとして……気づいた。
 痛い……。
 アーチャーは、俺を無視するわけじゃない。だけど、俺を見ていない。
 その鈍色の瞳は俺から逸れていったまま。
 胸が、ぴり、と……。
 かさぶたを引っ掻いたような痛みを、新たに感じた。



*** Method 19 ***

 春休みが終わり、新年度となり、士郎と凛は高校三年生、桜は二年生に無事進級した。
 平日昼間、士郎が学校に行くことになり、アーチャーは少しほっとしている。
 だが、言いようのない寂しさなどというものを感じ、思わず嗤ってしまう。
「何を、人のようなことを……」
 感傷に耽っているのか、人であった頃を思い出したのか、とアーチャーは自身を嘲笑(わら)う。
「私は、守護者だろう……」
 言い聞かせるように呟いてみても、ただ空虚に声が響くだけだ。
「士郎……」
 真っ直ぐに見上げてくる瞳が脳裡に焼き付いている。
 思わずその頬に触れそうになる手を抑え込み、視線をあらぬ方へ向けて、どうにか自身を保っている。
 勘付いてはいないだろうかと、気が気ではない。
 添い寝をやめ、傍に寄ることを控えた反動のように、夜中に部屋に忍び込み、そっとその頬に触れていることに、その髪を梳いていることに、気づいていないだろうか、と恐々とするクセにアーチャーはやめられない。
 触れて、抱きしめて、あわよくばそのまま、と横暴を働こうとする身体を宥め、士郎の部屋から明け方に出ていく己の情けない姿に嗤ってしまう。
「壊れて……いるのだろうか、私は……」
 過去の己に欲情するなど、どういうことだと、自身を問い詰めたいが、答えなど決まっている。
 欲しいものは欲しい。
 あの聖杯が象った偽アーチャーと同じことを思っていると、アーチャーは自嘲を隠せない。
「馬鹿な……、私は……」
 言い訳など浮かばなかった。
 今の己と、あの偽アーチャーと、何が違うのだろうか。ただ、欲望に忠実なだけ、あちらの方がいくらかマシだったと思える。
「どうにか……しなければな……」
 このままでは、士郎に無理やり迫ってしまうおそれがある。
 抱きたいと言えば、士郎は、うん、と答えた。
 あの時の士郎に正常な判断ができたとは思えない。あれは、士郎の意思ではなく、身体の熱さに負けてどうにもならないから、という理由であることは間違いないはずだ。
 士郎は己とは違う衝動であの行為を求めた。
(私は、欲しかったのだ……、だが、士郎は身体の辛さに耐え切れずに……)
 偽アーチャーに煽られた身体が辛くて、どうにかしてほしくて、士郎は己を求めた。
 アーチャーはそう思わずにはいられない。
(でなければ、いったいどんな理由であの行為に及ぶのだ。士郎には私とセックスをする理由など、ありもしないというのに……)
 直接供給が性交と同じ行為だったと、恥ずかしいことだと思うと、士郎はアーチャーに反省の念を吐露した。
 アーチャーの言う通り、間違った選択をしてしまったと後悔していた。
 そう素直に自身のことを話す士郎を、真正面から見られなかったが、口を挟むこともなく小言を言うこともなく聞いていた。
 気づいたのならいい、と思わずその髪を撫でようとしてしまい、慌てて手を引っ込めなければならなかったが、士郎が少しずつ普通の学生として過ごしはじめていることをうれしく思った。
 ただ、どうにもうまく応対できないことがある。士郎が自身に身構えることもなく、すべてを晒すように接してくることが困る。まるで親兄弟のようになつかれては、悪い気はしないがどう反応すればいいか迷う。
 その上、士郎に触れたがる己の身体が、何よりも呪わしい。
「は……」
 どこまで自制をかけられるだろうかと、そんなことばかりを考えるようになった。



        ◇◇◇

(また……。いや、ずっとだ……)
 玄関の戸を閉め、衛宮邸の門を出る。今日も朝から士郎は鬱々としてしまう。
 原因は、アーチャーだ。
 行ってきます、と声をかけても、こちらを見ることはなく、気をつけて行ってこい、と声が返るだけ。
 刺々しいわけではない、厭味でもない。ただ、こちらを見ていないというだけだ。
 たったそれだけのことだが、士郎にとっては、気持ちが沈む原因となっている。
(どうしてこんなにも、アーチャーの言うことや態度が気になって仕方がないんだ……?)
 はじめからそうだった。
 恥ずかしい生き方だと言われた時も、気にしなければよかったのだ。士郎にはそうせざるを得ない理由があった。借金の返済と、家計のためという真っ当な理由があったのだ。たとえやることが間違っていたとしても、仕方がないのだと士郎は毅然と言い放つことができたはずだ。