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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法7

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 だが、アーチャーには言えなかった。今まで自分を正当化してきたことが、全て間違っているとあからさまに言われて、反論することすらできなかった。
 同じ存在であるエミヤシロウだからだろうか、と士郎は考えてみたものの、同じ存在であれば逆に言いたい放題言い返すはずだ、と思う。たとえ言い負かされても、一言も反論できないなどということはないだろう。
(なんで……)
 アーチャーが自分に向ける言動を、とても気にしてしまう。
 何度か直接供給のことを揶揄されて、子供みたいに泣いてしまった。まるで小学生だと士郎はそのたびに恥じ入った。けれど、アーチャーの言葉は、いつもいつも胸に刺さるのだ。苦言も厭味も、数少ないが誉め言葉も。
(俺……、どうかしてる……?)
 少し頭痛を覚え、こめかみあたりを押さえながら通学路を急ぐ。新学期だからだろうか、ただ学校に行くだけだというのに、家から離れるのがとても後ろ髪を引かれる。グズグズしていては、遅刻してしまう、といちいち思い立たなければ歩調が緩む。
(おかしい……)
 自分自身が何かおかしい、と思うものの、はっきりとした原因に辿り着けない。士郎の胸の内は、ずっとざわついている。
 通学路を重い足取りで歩けば、ぽつぽつと穂群原学園の制服姿が見えはじめ、少し前屈みになっていた背筋を伸ばした。
(普通に……)
 いろいろと考えたいことはあるが、今は普通に過ごす、という目標を士郎は掲げている。気を取り直すように深呼吸をしてみる。心は晴れないが、気分は少しよくなった。

 偽アーチャーが消えたあの日以来、士郎はアーチャーと少しでも話をしようと試みている。互いに何も理解し合わないままでは主従とはいえない、と凛から忠告を受け、まずは話し合うことからと教わり、実行に移しているのだが、どうにも会話は続かないし、弾まない。
(遠坂とセイバーみたいに、女の子同士なら、また違うんだろうけど……)
 自分たちのような男同士の場合はどうすればいいのか、とため息が尽きない。話し合うといっても、今のところ、差し迫った問題もなく、偽アーチャーも表には出ていないため、平穏な日常なのだ。話題など、時事ニュースか天気くらいしか思い浮かばない。
(でも、聖杯が化けたアーチャーが……)
 素直に話せと言っていた。
 士郎は今それを実行しているつもりだ。アーチャーだけにというのではなく、自分と関わってくれる皆に対して、士郎は思うことを口にしようとしているが、あまり、うまくいっていない。
 まず、衛宮邸に出入りする者たちは、だいたいが士郎よりも口が立つ者たちばかりで、士郎が全てを話し終えるまでを待つ者はいない。言いかけたことは、先に結論を出されてしまい、次々と話題が移っていってしまう。確かに出る結論には納得できるものばかりなので、士郎は受け入れるしかない。
 仕方のない話だ。なにしろ、衛宮邸に常駐する者は女性が主だ。そこに口で割り込むことなど簡単ではないし、もちろん士郎は彼女たちの誰にも口で対抗できる者がいない。
 決して機関銃のように話されるからではなく、彼女たちはそれぞれにそれぞれの意見をしっかりと持っているからだ。大河をはじめ、凛と桜、そしてサーヴァントたちも、もちろん揺るぎない立ち位置を確立している。
 そんな彼女たちに士郎は、口で敵うわけがないと、はじめから知っている。
 そして、常駐の唯一といっていい男性、アーチャーに対しては、彼女たち以上に話をしようとしている。凛に言われたこともさることながら、彼は士郎のサーヴァントでもあるのだから、何くれと話し合うことや相談をしたいと思うのは当たり前だ。
(でも、アーチャーは、俺とは話したくなさそうだ……)
 士郎がアーチャーに話しかけても、彼はすぐに視線をどこかへ向けてしまう。用のあるなしにかかわらず、それは、あの日からずっと続いている。
(あの、無用のセックスをした日から……。…………あんなこと……しなければよかった)
 今さら士郎は後悔していた。
 あれさえなかったならば、アーチャーはもう少しこちらを見てくれるのではないかと思っている。
 深傷を負って眠ったままのアーチャーと契約し、目覚めた後も、話どころか顔を合わせることすら稀で、顔を見るのは夜の供給の時だけだった。だが、困窮する台所事情を知られた頃からは、アーチャーと話すことが増えた。今も、その頃に比べれば、格段に話をする時間は多いはずだ。だが、アーチャーは士郎を見ることはない。
(それに……)
 毎夜、布団の傍にいたアーチャーは、もう心配ないだろう、と添い寝もしなくなった。
(やっぱり、俺があんなことをしたから……)
 じくじくと胸が痛む。
 距離を置かれているのだ、と、鈍い士郎でも気づいた。
(それでも、素直に話をすれば、変わるかなって……)
 偽アーチャーが言ったことを鵜呑みにするわけではないが、何かを変えたいのならば、自分自身が変わっていかなければと思い、尻込みしそうな自分を鼓舞して、士郎は果敢にアーチャーと話をしようと話題を探し、常に真っ直ぐにその顔を見上げている。
 だが、アーチャーは話を聞いてはいるが、いつも何事か用事をしながらで、こちらを見ることはない。
(迷惑……なのか……?)
 あまり馴れ馴れしくされるのは好まないのかもしれない、と思い至る。
(それは、そうかもな……)
 なにせ、衛宮士郎の抹殺を宿願としていたのだ、アーチャーは。
 今、殺意はおさまったかもしれないが、馴れ合うつもりはないのだろうと思える。
 ぎゅ、と締めつけられるような胸の痛みに足を止めた。
(やらなければよかった……)
 胸の痛みは後悔に塗り潰される。
 あの時、トイレで済ませる、となぜ頑強に断らなかったのか、と悔やまれる。
(だって……、アーチャーが、抱きしめるから……)
 アーチャーに罪をなすりつけるような言い訳を並べて、頭を振る。
「違う……、俺が……してほしかったんだ……」
 罪が自分自身にあることを、改めて言い聞かせた。


(どうしたら……)
 こちらを見てくれるのだろうか、と士郎は授業中も、ホームルームの今も、ぼんやりと考えている。このところずっとこんな感じで、まともに授業を聞いていない。
(いや、どうする、よりも、何を言ったら……、かな?)
 何かアーチャーが飛びつくような話題はないかと考えてみたが、アーチャーのことをよく知りもしない自分では、と士郎はすぐに諦めた。
 同じ存在であるはずなのに、士郎はアーチャーのことを何も知らない。アーチャーが歩んだ道、アーチャーが苦しさに足掻いて、自身の抹消などという結論に至った経緯は知っている。だが、それだけだ。
 アーチャーが何に興味を持ち、何を好み、誰と過ごし、誰と愛し合い……。
(愛し合いって……、なに、考えてるんだ、俺!)
 思考が思わぬ方へ行ってしまい、士郎はそこで強制的に意識を切り替える。ちょうどホームルームが終わり、運動をしたわけでもないのに疲れてしまって、たどたどしく帰り支度をしていると、
「衛宮くん、ちょっと来て」
 担任の教師に呼ばれ、何事かと教卓に歩み寄った。
「なんですか?」