二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

MEMORY 序章

INDEX|11ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 




 呆気に取られて周囲を見回す一護の表情に、浦原は秘かに成功した悪戯に満足顔だ。

「頼んでから三日なのに、もうこんな広い空間造っちゃうなんて‥‥‥。」

 流石、と続くのか、何者、と続くのか、浦原には判別は付かなかったが、自失まではいかなくとも、一護が珍しく表情筋を動かしている事実はある。その事に浦原は満足した。
 感情を顕わにしないこの子供を面倒がなくて良いと思っていた浦原の意識を変えたのは、先日の無邪気な笑みだ。笑うと随分可愛い子だったのだと気付かせた一護の笑みは、浦原の中の何かを動かしたのだが、その事に一護は勿論、当の浦原も気付いていなかった。

「黒崎サンが自分の中に感じる霊力を解放した場合、あまり狭い空間だと壊れる可能性もありますンで。これだけ広ければ、暴発起こしても周囲に被害が及ばないだろうと思いますよン。」

 藍染が仕掛けてくる可能性が高いと踏んでいる一護は、複雑な表情をする。

「どうしました?」
「隊長格の父を持つ真血にとって、この空間は広いのか狭いのか、判断出来ないな、と思って。」

 溜息を吐いてぼそりと答えた一護に、浦原が微かに笑む。

「大丈夫ッスよ。充分に広いッスから。」

 そんな事に気を取られているよりも、早速始めまショ、と言って、浦原は一護の周囲に結界を張った。一護を中心に据えて八点で囲んだ結界は、中のものを外へ出さない為の結界だと説明されて、一護は霊圧が暴走しても少なくとも浦原達に迷惑は掛からないと考える。殺気石でもあって遮魂幕でも張れればその方がより安全だろうが、尸魂界に感知されない為にはこれで充分だろう。
 浦原は初めからあれこれと指示はしない。一護の遣り方を見て一護に合わせて指摘したり指導したりする。
 一護は、この場合、まず自分の中にある霊力を解放する方向で意識を向けてみるべきだろうと考えた。霊力だけに意識を向ける為に、一護はその場に腰を下ろして胡坐を掻いた。眼を閉じて、自分の中の力の流れを感じ取ろうとする。
 何を何処で覚えて来るのだろうと、一護を観察しながら浦原は思う。結界で覆って見守っている一護の遣り方は、死神が斬魄刀と対話する為に精神世界に入り込む方法と同じだ。違うのは、精神世界に入る為には自分の奥へ奥へ入り込もうとするのに対し、一護は自分を置く位置をその場にしているという事か。
 やがて、一護の体から溢れるように霊力が滲み出てくる。太陽のコロナのような炎を思わせるオレンジ色が青白い膜に縁取られた霊圧。色と認識出来るほど濃い霊圧が滲み出している。だが、滲み方が斑だ。
 一護はやがて右手を差し伸べて掌を上に向ける。その掌の上に、体中に纏い付いている霊力が収束していく。凝縮し、もごもごと蠢き伸びたり縮んだりしていたが、一護が目を開いた途端、拡散してしまう。一護を囲む結界の内側に直撃した衝撃はかなり強く、浦原は慌ててもう一層結界内に結界を張って一護を保護した。
 暫く待っても霊圧は弱まる気配もなく、浦原は仕方なく斬魄刀を抜いて血霞の盾を作りそれを構えて外側の結界の一部を破る。噴き出してきた力は強いが威力はなく、難なく受け流す事が出来た。総ての力が消失してから結界内を見れば、一護がへたり込んでいる。肩で息をしている一護を見遣り、紅姫を握っていた手を見る。難なく受け流しこそしたものの、一カ所に集中させるわけにはいかなかった為、少しずつ拡散させる為に、力が消えるまで絶えず盾の角度を変え続けていたのだ。

「黒崎サーン、大丈夫ッスかぁ?」

 飄々とした態度で声を掛けると、一護はゼイゼイと肩で息をしていたが、片手を上げて軽く振って見せる。大丈夫、という合図だろう。
 結界を解くと、一護は自身の周りに薄い霊圧の膜を作っている。

「おや、まぁ‥‥。」

 初めてまともに霊力を揮ったにしては上出来である。いや、上出来過ぎるのではなかろうか。少なくとも初めてで出来る事ではない筈だ。

「黒崎サン、もしかして自分でも何か練習してました?」
「練習って言うか‥‥意識を向けてみる事はしてた。けど、下手な事すると虚引き寄せるから、自分じゃあまり‥‥。」

 う~んと唸りながら眉を顰める。

「引き寄せるって、引き寄せた事あるンスか?」
「あ、うん。幸い大した虚じゃなかったから、霊力を凝縮して飛ばして深手を負わせたら、地区担当の死神が見つけて始末してくれたよ。」
「なるほど‥‥。」

 一護は小首を傾げ、髪を掻き揚げて息を吐いた。

「何て言うか、う~ん? 自分の中に物凄く大きな力があるのを感じるんだけど、それが無理矢理抑え付けられているような感じがあるって言うか?」
「霊力のコントロールを覚えたいって事でしたね。」
「うん。少なくとも、私の中の力が暴走したら、困る事は確かだし。」
「さっき、手の上に霊力集めてましたけど、何をしようとしてたンスか?」
「何っていう目的意識はなかったかも。死神の力封じられているなら、滅却師の力なら発揮できるかなって思って、兎に角霊子を集めてみようと思った。」
「………流石に一心サンのお子さんッスねぇ。いいセンスだ。」

 使える手段は多い方が良い。勿論、使い熟せてこそだが、力の使い方が多いならそれは奥の手にも出来る筈だ。

「さっきの力は黒崎サンの感じる内面の力から見たらどれほどの比率になります?」
「え‥‥微々たるもの、かな。」
「なるほど、微々たるものッスか。」

 先程の力が大きくとも威力がなかったのは、方向性を持たせていなかった所為か、と思い当たる。あの威力を微々たるもの、と感じるという一護の内面の力は、相当なもの、という事になる。霊絡が赤くないのに、死神の力が目覚めた、と申告している一護の力が本当に死神として目覚めたなら、すぐに卍解に至ってもおかしくないほどの霊圧の高さを伺わせた。確かにこれでは一護の懸念通り、万が一暴走したら尸魂界に目を付けられて強制収容されてしまう事も考えられる。
 それにしても、一心はどんな子育てをしているのか。中学生になったとはいえ、まだ子供の領域を抜け出してもいない少女になりかけの子供をどう育てたら、こんなに冷静沈着に育つものなのか。

「これだけ力が大きいと、自力でやって虚引き寄せるのは困るし、下手な所でやって尸魂界に察知されるのも頂けない。」
「そうッスね。」

 頷く浦原の顔を見て、一護はふっと息を尽く。

「私、ピアノ習ってるんだけどね。」
「ピアノッスか?」

 いきなり話が飛んだ感覚で僅かに戸惑う浦原に、一護は構わず話を続ける。

「ピアノ弾くのって、音にどれだけ感情を載せられるか、なんだよね。普段感情を抑えるようになったから、ピアノ弾いて感情を発露させてるんだけど、気が付いたらピアノ室に結界が張られてた。」
「!」
作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙