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MEMORY 序章

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 以前に、一心に頼まれて霊力が漏れない結界を張れる道具を渡した事がある。真咲が亡くなってすぐの事だったので、一心の霊力が戻り掛けてでもいるのかと思ったのだが、一心にその兆候はなく、一体何に使ったのだろうかと思っていた。よもや一護が感情を乱す度に揺れる霊圧を隠す為に使われていたとは。思い返してみれば、一護のまだ強いとは言い難くとも輝かしい霊圧は浦原商店からでも感じ取れるもので、なのに自宅にいる筈の一護の霊圧を感じられない事があったのは、それが理由がと思い当たる。
 一護は浦原から離れて、再び地面に胡坐を掻いて目を閉じる。
 一護の服装は普段遊びに来る時のジーンズとTシャツではなく、トレーニングウェアだ。
 珍しい服装は、学校帰りに寄った浦原商店で、今日は体育があったから丁度良いと着替えたのだ。
 今度は一護の体から霊圧が溢れてくる事はなかった。
 先程と違い、一護の意識そのものが表層に留まり続けていない。深く深く自分の内面世界へと潜り込んでいるようだった。一護が訴えるように本当に死神の能力が目覚めたのなら、この行為は精神世界へ入る事と同意。
 静かに見守っていると、一護の身を包むように霊力が揺らめき炎のように立ち上がる。目を開いても拡散する事もなく、翳した掌の上に収束していく。
 霊力の収束が納まると、一護の掌の上には一本の刀が現れた。刃渡りは一護の身長の半分ほどで青白く光を放ち、鍔は白い卍型、柄も白地に金色の糸が綾を成している。柄を握った一護は複雑そうな表情になった。

「刀ッスか。何をしたンスか?」
「死神の力が封じられていても滅却師の力なら使えるかと思ったんだけど、これって、滅却師の力ってゆーより、完現術、みたいだ。」
「完現術?」
「虚の影響を受けて目覚める特殊能力。付喪神って妖怪がいるじゃない?」
「無機物に宿る魂ってやつッスね。」
「九十九の年月を過越した物に魂が宿るっていうんだけど、基本的には、その付喪神と同じ力を引き出す能力みたい。」
「無機物って、黒崎サン何か持ってたッスか?」

 一護は無言で首に掛けた儘にしているペンダントを引き出した。
 それは先日の一護の誕生日に、雑霊除けのお守りを兼ねて浦原がプレゼントした物だ。

「アタシがあげた物ッスね。」
「ん。私が肌身離さず持ってる品物なんてこれくらいだよ。母は品物を残す人じゃなかったし。」

 浦原が贈ったペンダントは、月を象った青い貴石に白い小粒の殺気石を埋め込んだペンダント・ヘッドに細い金鎖を通した物だ。小粒の殺気石が一護の余分な霊力を吸収し分解するので、虚除けになっている。しかし、いくら集中しているとはいえ、殺気石を身に着けていながら、そのペンダントから霊力を引き出すとは、一護も大概だと思わざるを得ない。
 だが、具現化した物が刀という事は、一護の戦闘スタイルは刀がメインという事になるのだろうか。

「黒崎サン、剣は?」
「中学の部活で剣道部に入ったくらい。死神の戦闘力の基本は斬拳走鬼だっけ?」
「そッス。黒崎サンは、体鍛えてますよね?」
「ジョギングとストレッチは毎朝欠かさず、だね。」

 浦原は、ふむ、と顎を撮み、刀を手に立ち上がった一護の全身を見つめた。
 筋肉は然して着いていない。膂力よりも速く動く為の撓やかな必要最低限の筋肉が着いているだけだ。まだ十三歳、発展途上の子供の体なのだからそれで良いのだろう。
 浦原が見守る中、一護は刀を持って構え素振りを始めた。基本的な素振りは外から内へ米印になるように剣を振り、膝を使って、高さを調整しながら繰り返す。地面に膝を着いた位置で上段から振り下ろす時は、地面にぶつからないように寸止めしている。ピタリ、と停めた位置に微かなブレもなく刀も静止する。肩にも腕にも手首にも反動が及んでいない。
 部活動で剣道を始めたばかりだというこの少女は、一体何処で何を学んでこれだけの事をしてのけるのだろうか。

「黒崎サン、本当に剣道の経験ないんスか?」
「空手の大会を見学に行った時、剣道の大会があるのを知って改めて見学に出掛けた事ならあるけど?」
「見ただけっスか………。」
「まぁ、部活に入って基礎の教本を読んだりはしたよ?」
「読んだだけで………。」

 言い掛けて、ふと、一護の性質を思い出す。学習に関して、基礎理論を理解すると、とことん応用が利くのが一護だった。運動においてもそれが適応される性質という事か。
 現在の護廷隊十番隊隊長・日番谷冬獅郎が、最年少で一発合格主席を通して僅か一年で霊術院を卒業したという。天才と誉れも高いそうだが、一護の才はそれ以上かも知れない、と浦原は思考する。
 一護が死神として目覚めているかは兎も角、真血の力を持って生まれている一護が、本来の霊圧が低い筈もない。一護が生まれた時、空座総合病院で真咲は一護を産んだのだが、生まれた瞬間の赤ん坊の霊圧の高さは隊長格並みで、浦原はあまりの霊圧の高さに無防備な赤ん坊では、あっという間に虚に襲われて命が終わるだろうと思っていた。だが、そうはならなかった。真咲が守ったのか、或いは、一護の中に移動した虚が、器を失わない為に守ったのかも知れない。
 一心から聞いた真咲が虚に取り込まれ掛けた経緯から考えて、一護の中に移動した虚は間違いなく藍染が作り出した虚だろう。となれば、藍染は一護の存在に気付いているだろう。死神と滅却師の間に生まれた真血でありながら、真咲から虚を継いでいる可能性の高い子供の存在に、藍染が興味を持たない筈もない。ならば、藍染の手駒にされてしまう前に、浦原の手駒にするべく鍛える方が良い。一護自身が、尸魂界の干渉を危惧して浦原を頼ってきたのだから、遠慮なく鍛えてやるのが得策だと腹を括った。

「黒崎サンの完現術、でしたっけ、それってどんな種類の能力なんです? 武器を創り出す能力ッスか?」
「違うと思うよ。………霊的な存在だから、浦原さんにも見えるかな?」

 一護は呟いてペンダントを握り目を瞑った。

「瑠璃月(るりつき)、碧星(あおぼし)。金紗(きんしゃ)」

 呼び掛けるような一護の声にペンダントが光り、金の髪に青い衣装を纏った女と、黒い髪に青みを帯びた白い衣装を纏った男と、銀の髪に白みを帯びた金の衣装を纏った少年の姿の小人が現れる。

「!」
『『一護。』』
『一護ちゃん。』
「……なんスか、それは?」

 見た事もないモノに、浦原は正体を知っているらしい一護に素直な質問をする。瑠璃月と緑星は浦原の態度にムッとするが、一護に宥められて引く。

「既存の概念で言うなら、精霊、かな?」
「精霊ッスか。」

 物に宿る魂の化身なら、精霊と言えない事もない。

「昔の日本じゃ、こういう存在を神と呼んで、憑代に降ろして巫女とか陰陽師とかが使役してたんじゃなかったっけ?」

 一護の言葉に、浦原は納得がいったように、ポンと手を叩く。

「………ああ。なるほど。言われてみれば、大昔はそうだったかも知れないッスね。自然と云わず物と云わず、八百万の神々が宿ると信じられていたんでしたっけ。」
作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙