MEMORY 序章
慌ててテーブルに着く二人を横目に、一護は食後のコーヒーを淹れ、同じく食べ終わった水色の前にカップを置いた。シュガーポットとミルクポットも置いて、一護はそのまま二階へ上がる。トレーニング・ウェアに着替えた一護が降りてきた頃には、一心も啓吾も食べ終わっていたので、一護は二人にもコーヒーを淹れてやり、用意しておいた自分の分のカップに口を付けた。
「……一護って猫舌?」
「温くないと駄目ってほどじゃないけど。」
「ブラック派なんだ?」
「食後はね。コーヒーだけで飲む時はミルクだけ使うよ。」
コーヒーを飲み終わったのは一心と一護が最後で粗同時になった。
「出掛けるってのは友達とか?」
暗に水色と啓吾を示す一心に、一護は冷めた目を向ける。
「浦原さんとこに決まってるじゃん。制服姿見せろとかぬかしたくせに、入学式の帰りに寄ってみれば、あの下駄帽子寝てやがるし。罰として相手させてやる。」
シンクで洗い物をしながら一心の質問に答えた一護に、啓吾は赤裸様に存在を無視された気がして涙を流す。
「ねぇ、一護。僕らも行って良いかな?」
「あ? 別にあんた等には楽しくもなんともないと思うよ?」
「そう?」
「そう。それに、あまりあの人とは関わらない方が良いと思うけどね。」
「でも、一護の知り合いなんでしょ?」
「知り合いっていうか、私の武道の師匠だよ。」
「武道?」
「師匠?」
「剣術と截拳道のね。」
「? 剣術? 剣道、じゃなくて?」
「剣道はルールに則ったスポーツ。剣術は実践向き。」
「截拳道って、色々な武術を組み合わせた、それこそ実戦用の格闘技術だよね。」
「よく知ってるね。今のところ私が全然敵わないから寸止めだけどね。」
水色の質問に答えている内に洗い物が済み、手を拭いた一護は着替えと共に持ってきたバッグを掴んだ。
「じゃ、お父さん。悪いけど、夕飯は遊子に頼むって言っといて。それと今日は夕飯はパスね。」
「こらっ!」
「泊まらないよ。明日も学校あるんだから。」
「お前なぁ。」
「だ~いじょ~ぶ。遅くなれば送ってくれるって。」
「俺が言わなきゃ送って来た事なんかねぇじゃねぇか。」
「常も送るって言ってくれるのを断ってるからね。」
肩を竦める一護に、一心は溜息を吐く。
「今日からは遅くなるなら送って貰え。でなけりゃ門限破りにペナルティ付けるぞ。」
「……ふぁい。」
気の抜けた返事をして一護は玄関に向かった。
「あ、お邪魔しました。」
「……しやしたっ!」
「おう。」
慌てて一護の後を追おうと水色が立ち上がり、啓吾も続いた。
玄関から一護の挨拶が聞こえ、一心は溜息を吐きながらリビング・ボードに一護からの伝言を書いて医院へ足を向けた。休憩は午後二時までだが、医療は日進月歩で進化している。常に勉強をしていなければ遅れてしまう。昼休みは一心には貴重な勉強時間だった。