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MEMORY 序章

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 翌日、朝早めに啓吾を誘って一護の家に迎えに行くと、一護はまだ食事の後片付けをしていた。

「おはよう、一護。」
「おはよう。随分早いね。」
「一護もしかして、朝も歩いて学校まで行くのかな、と思って早く来てみたんだ。」

 ニコニコしながら言う水色に、一護は苦笑する。

「確かに私は、陽気が良い内は歩くけど、私に合わせてると大変じゃね?」
「陽気が良い内? バスに切り替えるの?」
「ん、梅雨に入って、暑い間、かな。涼しくなったらまた歩きに戻るだろうし。」
「一姉? 誰?」
「新しいクラスメイトだよ。小島水色と浅野啓吾。」
「ふうん?」
「夏梨ちゃん、挨拶は? おはようございます。妹の遊子です。」

 ぺこりと頭を下げる遊子に、水色は苦笑する。

「あたしは夏梨。」

 ニコニコと愛想の良い遊子という妹と、夏梨という気の強そうな妹。どちらが昨日の話に出てきた妹なんだろうか、と思い掛けて、一護の刺すような視線に気付く。

「い、一……護……?」

 流石に頬を引き攣らせる水色に、一護は目を眇めた。

「……遊子、残りの片付け、頼んでいい?」
「うん、おねえちゃん、いってらっしゃい。」
「いってきます。」

 玄関に置いておいた鞄を持って、一護は玄関を出た。
 一護の無言の圧力に、水色も啓吾も言葉が出ない。

「一つだけ、言っとく。」
「えあっ⁉」
「……っ、何、かな?」

 啓吾は一護の気迫に呑まれたまま奇声を発し、水色も息を詰めて辛うじて返事をする。

「うちの妹達は見世物じゃないって事、忘れず覚えといてほしいな。」
「!」

 水色は一護に内心の好奇心を見透かされたのだと気付く。

「…へ?」

 心当たりのない啓吾は頓狂な声を出してきょとりと一護を見返す。

「ケイゴにじゃない。水色に対しての言葉だよ。ケイゴはそんな事考えもしないだろ?」
「……僕は……。」
「好奇心を持つ事が悪いとは言わない。けど、私は、妹達に興味本位の視線を向けられるのは好かないって覚えといてくれればいい。」
「……うん。」
「じゃ、行くか。二人はバスだろ?」
「や、一緒に歩こうと思ったんだけど。」

 啓吾の言葉に、一護は微かに眉を顰める。

「ゆっくり歩くとヤンキーに絡まれるんだよ。」
「え、でも、歩いていく心算だったんでしょ?」
「一人の時は、ヤンキー見つけたら、他人様の家の屋根伝いに行くんだけどな。」
「……マジでアクロバットするのかよ?」
「人間、大抵は、自分の目線より上は気にしないからね。」

 一護は歩きながら目を眇め、バス通りから離れて歩き出す。

「仕方ないな。ヤンキーのいない道を選んで歩くけど、遅れずについておいでよ?」

 一護の目立つ外見は、情報を集めるに事欠かないのだろう。一護が通学路にしている道には、既にヤンキーが待ち構えているのだ。

「他人様の家の屋根って………そんなに簡単に上がれるものなの?」
「高い塀とか大きな木があれば、そんなに苦労なく上がれるよ?」
「や、上がっても、屋根の上歩くなんて……。」
「別に走れるし。」
「や、音して家の人に文句言われるだろう、普通。」

 啓吾が大きくなり掛けた声を抑えて言うと、一護は不思議そうに首を傾げる。

「屋根の上走るくらいで、一々音立ててるようじゃ、浦原さんと組手なんて出来ないんだけど?」
「はぁ?」
「音出して動いているようじゃ、浦原さん、目を瞑ってでも相手出来るよ。」
「………それって、どんだけ凄いんだよ?」

 啓吾が呆れたように言うと、一護は苦笑する。

「ねぇ、一護。」
「うん?」

 神妙になった水色の気配に、一護が視線を向けると、水色は真面目な顔で一護を見上げていた。

「昨日の帰り、浦原さんと一緒だった間、他人と擦れ違う事もなかったのって、浦原さんが何かしたの?」

 息を上げている啓吾を他所に、水色は一護について歩きながら息を上げていない。男にしては小柄な水色は、見掛けに因らず体力があるらしいと一護は認識する。

「水色ってホント、良い勘してるよね。」
「やっぱそうなんだ?」
「多分ね。どんな事したのかは私もよく理解らないよ。但、空座町は重霊地、霊的濃度が高い地域だから、唯道歩いていてもあちこちに幽霊がいるんだよ。地縛霊ならまだしも浮遊霊だと家に帰るまでに沢山憑かれる羽目になるんだ。」
「え、じゃあ、人に会わない為じゃなくて、幽霊を追い払う為に何かしたって事?」
「うん。浦原さんが散歩がてら送ってくれるっていうのは、そういう意味なんだよ。」
「朝からそんな怖い話やめようぜぇ。」

 啓吾が嫌そうに顔を顰めるのに、一護は苦笑する。

「浮遊霊だろうが地縛霊だろうが、唯の幽霊なんて怖い事ないぞ?」
「そんな事ないだろっ! ドン・観音寺だって、悪霊退治とかしてるし。」
「あ~、あれね。あの人も大概強運の持ち主だよなぁ。」
「は?」
「あの人がやってるのは、地縛霊を浄霊してるんじゃなくて、悪霊に変貌させる事なんだよ。普通は悪霊になった時傍にいる霊力のある人間てのは喰われちまうんだけどねぇ。」
「え?」

 空座高校前のバス停を通り過ぎると、ちらほらと高校の生徒の顔も見え始める。
 校門には、立っている教員の姿も見える。
 その一方で、一護に絡もうと近付いてくるヤンキーの姿も視界の隅に入る。

「水色、ケイゴ、急ぐよ。」
「え?」
「へ?」

 言って一護はさっさと校門まで行き、校門で待ち受けている生活指導の教師に深く頭を下げて挨拶している。

「おはようございます、鍵根先生。」
「君は、一年三組の黒崎一護だな。」
「はい。おはようございます。」
「君、その髪をさっさと戻してきなさい。髪を染めるのは校則違反だぞ。」
「これは地毛です。睫毛も同じ色じゃないですか。おはようございます。」
「そんな地毛がある筈ないだろう。」

 一護から視線を逸らして言い放つ鍵根に、一護はにっこりと笑顔を浮かべる。

「鍵根先生?」
「なんだ、しつこいぞ、黒崎。」
「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す。」
「髪色を戻して来いと……。」
「天然だと言いました。朝の挨拶すら出来ない人間が、一人前に生活指導教員面をするな、烏滸がましい。」

 ズッパリと言い切った一護は、鍵根を無視して校門を通り過ぎた。
 鍵根当人も、周囲を通り過ぎようとしていた生徒達も呆気に取られる。

「きょ、教師に向かって、何だ、あの態度はっ! 信じ難しっ!」
「鍵根先生?」

 声を掛けたのは水色だった。

「君は……。」
「一年三組の小島水色です。鍵根先生は、生徒の顔を覚えているわけではなく、黒崎さんに目を付けていたわけですね。」
「ん?」
「彼女が地毛だといった主張を頭から何の根拠もなく否定し、それどころか挨拶している黒崎さんを無視するんですね。挨拶はコミュニケーションの基本です。それを無視する人が何を偉そうに言っても、生徒が聞く耳を持つとは思わない方が良いかと思いますよ?」

 水色の言葉に、そういえば鍵根は一護の挨拶に何も返さずに説教を始めたと思い当たる。

「黒崎さん? 彼女。四回も挨拶してたのに、鍵根先生ってば四回とも無視したわよね?」
作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙