二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

MEMORY 序章

INDEX|3ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 




 自宅に戻ってからの一護は、感情を失くしてしまったようにやるべき事をただ熟し続けた。
 突然姿の見えなくなった母を求める妹達に言葉を失くして黙り込んでしまう以外は、今まで通り優しい姉でい続けた。表情からは無邪気な笑みが消え、作り物の笑顔を貼り付けていたが。
 一緒に寝たがる妹達に纏い付かれながらも、暇を見つけて母を手伝って覚えた家事に手を出した。甘えたがって邪魔になる妹を邪険にするでもなく、上手に手伝わせて家事を熟していく。
 妹達が纏い付く事と、家事を熟すのに疲れてしまう事が重なって、暫く学校にも行けなかった。
 夜、寝顔を覗きに行けば、二階の一護の部屋に置かれたベッドの上では、一護を挟んで双子が無邪気に纏い付いた儘眠る一護の姿は、疲れ切って眠っているのだと判るほど顔色が良くなかった。
 父・一心は、一護が泣く事もないのは、妹達には優しい姉でもお母さん大好きな甘えっ子の娘が、現実を受け留めきれない所為だと思っていた。
 経験したわけでも無い記憶を得た事で、強制的に成された精神面の成長が十歳にも満たない子供に掛けた負担が大きかった事を、神でもない父が知る筈もなかった。
 幼稚園の友達を思い出した妹達が、幼稚園へ行く事を希望して、漸く一護は妹達から解放されて学校へ通えるようになった。
 母を失くして表情を失くした一語に絡みたがる子供もいたが、一護は相手にしなかった。
 家事と勉強と空手を熟しながら、ピアノを習う事を望み、父は黙って受け入れた。妹達も大好きな姉の真似をしてピアノを習いたがり、客間として使っていた空き部屋に防音を施してピアノを置いた。
 一護は、家事の傍ら、勉強と望んだ習い事は勤勉に熟した。
 空手とピアノの月謝は、高額ではなかったが安いわけでもない。もしも死神代行を始めたらうなぎ屋のアルバイトは出来ないだろう。月謝と小遣いを、父に頼らなければならない。
 勉強とピアノは叶う限り続ける心算でいるし、家事は器用な遊子に任せる機会も増えるだろうが、当分は一護が統括しなければなるまい。
 一護は中学に進学すると部活動で剣道を始めた。
 筋が良いと言われながらめきめき上達した。
 空手は道場に通っていたが、剣道と両立など出来るものではないと叱責され、仕方なく道場をやめた。中学に進学してから竜貴が知り合った井上織姫が個人で習っていた仲間に入れて貰って、竜貴を相手に流し稽古を続けて勘が鈍らないように努めた。
 体を鍛錬しながら一方で一護は精神鍛錬を怠らなかった。朝のジョギングの時間を使って人目に付かない所で精神統一し、眼に見えない自分の力を探った。
 何度となく繰り返すうちに、自分の霊圧を視覚化出来るようになり、意識を集中する事で力を操る事も出来るようになった。研ぎ澄まされながらも隠し切れなくなっていく霊圧に引き寄せられた虚に襲われる事も出てきたが、消滅させる事は出来ないまでも撃退する事くらいは出来るようになっていった。
 この先、朽木ルキアが現れて一護が死神化する事になるかどうかは判らない。尸魂界が記憶の中と同じとは限らない。死神達が記憶通りの性格や考え方とは限らない。
 けれど、母の死を切っ掛けに自分の中に現れた記憶が何の関係もないと考えられるほど、楽観的でもなかった一護は、現状で自分に出来る事をしてきた。
 吉と出るか凶と出るかは、結果を見なければ判らない。
 “記憶”では、ルキアが連れ戻される時、恋次は兎も角白哉に斬られて傷跡が残った。男だったらそれも勲章だろうけれど、生憎一護は女の子だ。胸に傷なんてとんでもない。
 織姫が三点結循で拘突を防いだのも、記憶の中では上手く数日間遡ったけれど、間違えばとんでもない時間軸まで飛ばされてしまったかも知れない事態だ。
 瀞霊廷を恨んでいた東仙要は兎も角、藍染を敵としていた市丸ギンが失われる事は戦力の低下に繋がるし、彼が失われた事で溢れた悲しみは小さなものではない。
 記憶の中の一護は浦原が撃ち込んだ藍染を封じる鬼道を発動させるのと引き換えに全霊力を失い、浦原やルキアの尽力で霊力を取り戻したが、それは一護が護廷を変えた結果だ。
 銀城を倒した直後、月島の攻撃からリルカが庇ってくれたのは、一護がリルカの初窓の相手と似ていたからだろう。
 一護が知るのは、突然現れた記憶の中の事態だけだ。
 死神達も滅却師も実在するかも、能力や性格や立場や考え方が同じだとは限らない。
 もしも記憶通りに、高校生になって霊力が強くなる事態が起きたら、記憶と情報データの正確さを確認する必要が生じるだろう。



作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙