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MEMORY 序章

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 母・真咲が逝ってから後少しで三年になる。
 石の上にも三年、と云う言葉がある。三年懸ければ充分と云う意味じゃない。区切りの目安として三年と云うのが単位になっているだけだ。
 『黒崎ー護』が突然の運命の変容で怒涛の事態に否応なく巻きを込まれていった時間の始まりまで後三年。記憶通りの歴史が展開されていくのなら、既に一護は監視されている筈だ。四六時中の監視ではないようだが、迂闊な行動は藍染に疑念を持たれて警戒されてしまう。卯の花を称賛した藍染が、女だからと侮るとも思えない。
 想いの儘に突ッ走る傾向の高かった一護は、考えなしみたいに評価される事も多かったが、一護の視点では、単に答を形にするより動く方が先になってしまうだけとも言えたが。
 普段はオーバーアクションで感情表現過剰傾向にある父ではあるが、ピアノ室に多分結界だろう仕掛けを施してくれたり、何気なしに気に架けてくれている父に、初めて真剣に相談事を持ち込むのだから、喜びこそすれ厭う真似はするまいと思う一護である。
 竜貴と共に織姫の空手の練習に付き合い、組み手で勘が鈍っていない事を確信する。剣道を始めてからどうしても防具を着ける為に視野が狭くなった。試合でこそ一対一の正面だけだが、実戦ではそんな物だけでは早急に死んでしまう。気配を読む術を覚えるには喧嘩が良いのだろうが、生憎髪色以外は問題ない優等生でいないと成績が下がる可能性が高いので困るのだ。
 午後七時の夕食後、後片付けと翌日の下準備をしている間に、父と妹逹が入浴を済ませ、一護が終い湯を使うのが常だ。
 母が亡くなった後、小学生の頃は妹逹と一諸に入浴していた。まだ幼い双子は別々に入浴するのを嫌がり、母と同じ髪色の姉に母の面影を見るのか甘えたがった。眠る時も離れず、三人一緒に一護のベッドで眠る姿に、狭いだろうと、父が両親のベッドを提供してくれた。女の子の日を迎えるまで、ー護は両親のベッドで妹逹と眠り、父は隣の和室で寝ていた。
 明日は日曜で学校も父の医院も休みだ。一護とは年の離れた双子はまだ幼く、夜更かしは出来ない。入浴を済ませると早々に二階へ引き上げた。
 双子が寝に行くと、早速父は酒の用意を始めたが、一護は常もと違い肴の用意をしない。

「一護…?」

 頼まなくても酒の肴を用意してくれるー護が気配も見せない事で、具合でも悪いのかと心配する父に、一護は真剣な眼を向ける。

「お父さん、悪いけど真剣に聞いて欲しい話がある。双子には聞かれたくない話だから…。」

 孑供らしくない鋭さの滲む瞳に普段は何かとハィテンションで茶化す父も、うっかり茶化すと本気で怒らせる事になると感じたのか、神妙な表情になって頷いた。
 リビングでは、双子が水でも飲みに起きてきたら聞かれてしまう。
 一護の部屋でも、断りもなしに部屋に乱入される可能性がある。
 ピアノ室は防音が施されているし、結界も張られているから、誰にも聞かれる心配は要らない。二人分のお茶の用意をしてピアノ室に持ち込み、普段はドアノブに掛けてある鍵を持ち込んで内鍵を閉める。

「お父さんと密会したか...グェッ!」

 一護はテーブルの上にお茶道具を並べて、席を用意する。その緊張感に耐え切れなくなったように装う父に、容叔なく頭上に片手チョップを落とした。

「話を短時間で済ませたいから、遊んでる余裕ないよ。」

 そうして一護は、父に茶を煎れてやりながら、母が亡くなってから目覚めて以来、現れた記憶の話を始めた。

「お母さんが亡くなった後、目覚めてからね、私の中に経験してない記憶が現れたの。」
「経験してない記憶?」
「男の黒崎一護が16歳を目の前に死神の能力を得て、尸魂界の争いに飛び込んで行き、結果として世界を護る経験をする記憶。」

 磛く目を瞠って固まっていた父は、あ~とかう~とか唸った後、右を見たり左を見たりして、思い付いたように茶碗を置いて手を叩く。

「お前に創作の才能があったとは驚いたな。書いてみたらどうだ?」

(素直に応じるとは思ってなかったけど、子供の戯言として片付ける心算?)

 表情を消していた一護はにこり、と笑みを浮かべる。

「膨大な量になるから、手書きじゃ時間が掛かり過ぎる。ワープロで良いから、買ってくれる?」
「え、や、その出費は....ッ!」
「大丈夫だよ、お父さんがお酒を磛く飲まなければ、ワープロー台くらいすぐに買えるよ。」

 母を亡くしてから、一護は本物の笑顔を浮かべなくなっていた。空手の為だけでなく体を鍛え、感情を吐き出す事をしなくなった。
 ピアノを習いたいと言い出した時は意図は判らなかったが、近所への配慮からピアノ室として定めた部屋に防音設備を施してみれば、練習と称して部屋に籠ると一護の霊圧が酷く乱れたから、霊圧が漏れないように結界を張った。
 そんな風に家族の前でも感情を見せなくなった一護の笑顔は、嬉しいからではなく怒りを覚えている時に浮かぶのだ。

「……おと一さんが悪かった。」

 ガクリ、と頭を垂れる父に、一護はズズッと音を立てて茶を啜る。
 記憶の所為で、一気に精神面が成長してしまったが、女としての人生経験は十三年を経ていない。感情を暴走させてはいけないという本能的な警戒心から自制心を働かせているだけなのだ。

「その記憶の中では、お父さんは元護廷隊十番隊隊長で、お母さんは滅却師。鳴木市で駐在死神が死亡する事件があって出向いた斯波一心は、始解して問題の虚を倒そうとした時に、姿も霊圧も隠された敵に背を斬られて卍解出来なくなった。助けようとして無茶した時に取り憑いた虚の所為で虚化し掛けた黒崎真咲を、魂魄自殺から守る為に斯波一心が死神の力で虚を封じた。彼女を助けたいと望んだ石田竜玄と斯波一心に、その手段を教えてくれたのは、元十二番隊隊長兼技術開発局創始者で初代局長の浦原喜助。」

 微かに、父の眉が動いた事を、一護は視界の端に補えながらも気付かない振りをする。

「浦原喜助が元なのは、今から98年前に流魂街で起きた魂魄消失事件で真相を知った鬼道衆総鬼道長・握菱鉄裁と共に嵌められて犯人にされて、虚化された八人の隊長副隊長達と共に四楓院夜ーの助力で現世に逃れたから。虚化された八人は、三番隊隊長・鳳橋楼十郎、五番隊隊長・平子真子、七番隊隊長・愛川羅武、八番隊副隊長・矢胴丸リサ、九番隊隊長・六車挙西、同副隊長・久南 白、十二番隊副隊長・猿杮ひよ里、鬼道衆副鬼道長・有昭田鉢玄。」

 ズズ...ッと、態と音を立てて茶を啜る一護に、父・黒崎一心は長女に未だ十三歳にも満たない幼さの残る自分の娘ではない影を見出してしまった。

「浦原喜助は尸魂界を出奔する前に、南流魂街・78地区【成吊】で拾てられていた赤子の魂魄内に真犯人が欲する物質【崩玉】を隠蔽。成長した赤子は真央霊術院に入学後、朽木家当主・朽木白哉に見出され義妹として迎えられ朽木ルキアとなり、死神として十三番隊に所属。副隊長・斯波海燕の妻で三席の斯波 都が虚に殺され、斯波海燕が敵討ちに向かうも叶わず虚に取り込まれ、朽木ルキアがとどめを刺す。」

 湯呑みの中身はすっかり冷めてしまっている。一護は熱い茶を湯呑みに注ぐ。
作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙