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MEMORY 序章

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「98年前の魂魄消失事件の虚も、海燕を取り込もうとした虚も、黒崎真咲を虚化しかけた虚も、力を欲した真犯人が作り出した虚。」

 ー心が、瞼を降ろして茶を啜る。
 一護も真似るように同じ仕草で茶を啜る。

「98年前と現在で変更がない護廷隊の隊長格は、総隊長・山本重國、副隊長・雀部長次郎、四番隊隊長・卯の花裂、八番隊隊長・京楽春水、十三番隊隊長・浮竹十四郎のみ。98年前は副隊長だった二番隊の砕蜂と五番隊の藍染が各々隊長に昇進してる。」

 動揺の欠片も示さなくなった一心に、一護は内心で溜息を吐く。

「黒崎真咲の直接の死因は虚の、グランド・フィッシャーの攻撃だけど、滅却師である彼女が後れを取る筈はなかった。ユーハバッハの聖別に因り力を奪われた所為で虚に殺された。」

 そこまで話して一護は口を噤んだ。
 唯、黙って話を聞いていた一心も沈黙を続ける。
 沈黙が続いて一時間が過ぎた頃、時刻を気にした一心が根負けした。

「随分とまた、現実離れした話だなぁ、おい。」
「そうだね。どうしてこんな記憶が私の中に現れたんだろうね。」
「お前の記憶の中のー護少年は、一体何だってそんな事を知る羽目になったんだ?」
「一向に気付かない護廷隊の為体に痺れを切らした真犯人が、崩玉の真の力を見極め、手に入れる為の計画の第一歩として、朽木ルキアを現世駐在任務に就かせ、彼女の手に余る虚を仕掛けて、黒崎一護に死神のカを譲渡させたから。」
「それが十六手前ってか...。」

 後三年じゃねぇか。藍染の野郎、現世の子供に手を廷ばすたぁどうゆー了見してやがる。
 ブツブツ囗中で呟く父の声を、一護の耳はしっかり拾った。

「お父さん。理由までは判らなくても私の中の記憶って、現実と一致しているの?」

 僅かな幼さは残すものの、あどけなさの伺えない娘の真っ直な視線に、一心は深々と溜息を吐いた。
 真咲亡き後、感情を昂らせる事を殆どしなくなった一護は無表情が多くなったが、感情を失くした訳ではない。寧ろ人一倍激情家である事を自覚しているからこそ、強く抑制を架けている節があった。

「そんな現実離れした話を本当の事だと思うのか?」
「私が突然現れた記憶にパニック起こさなかったのは、幽霊と生人との区別が着かないくらい見えて聞こえていた事と、お母さんが死んだ時、私が川辺りで見た女の子が記憶の中のグランド-フィッシャーの擬似餌と同じだったからだよ。」

 ー心の口から諦めの溜息が零れる。

「現実だとして、お前の記憶通りに未来が進むとは限らないこの先を、お前はどうしたいんだ?」
「“ー護”は霊王の意思を感じ取った訳じゃないと思うけど、記憶を反芻してみて気付いた事があるんだ。霊王は尸魂界の楔であり続ける事に厭きていたんじゃないかって。自分の代わりを探していたんじゃないかって。」
「どういう意味だ?」
「感じた事だから、理屈を説明するの難しいよ。見えざる帝国に遮魂壁が通じないからって霊王宮に遮魂壁を戻す気配もなかったし、正規の死神ばかりじゃなく死神代行で現世の生人の“一護”の霊力を高めたり、出自や力の根源を知らせたり、霊王の左腕が意思を持ってユーハバッハ側に着いたり、他にも幾つか。本気でユーハバッハの侵攻を防ぐ気があるなら阻止出来た筈の事を許している気がするんだ。霊王殺害の阻止はしないのに、ューハバッハの阻止はする、みたいな。」
「んんっ?」
「記憶の中では、ユーハバッハの遺骸に何百重にも封印を架けて霊王の替わりにして世界を安定させてる。世界の均衡を崩して混沌とした世界を望んだユーハバッハには皮肉な話だね。」
「『お前は、どうしたいんだ?』」

 ー心が先程の問いを繰り返す。
 父の意図を読み取って、ー護はふ、と苦笑する。

「藍染やユーハバッハの思惑通りにさせたら、私が守りたいと思う世界は壊される。私がそれを阻止する力になれるなら、守りたいと思う。」
「霊王の思惑通りになるのは構わないのか?」
「利害が一致すればね。敵の手駒にされるのは嫌だけど、味方なら助力も協力も得られるでしょ。」

 未だ十三歳にも満たない娘の口から語られるクールでドライな話に、ー心は重い溜息を吐いた。

「現段階で俺にその話をする意図は何だ?」
「うん。お父さんも気付いてると思うけど、私の霊圧徐々に上がってきているんだけど、自分じゃ制御が効かない。訓練したいけど、うっかり霊力解放して虚を引き寄せても困るし、記憶通りなら藍染の監視の目があるから、迂闊な真似して手の内哂して警戒されて鏡花水月使われたら後々響く。浦原さんに交渉して鍛練場所の提供して貰えないかな、と思って。」
「浦原に、か?」

 躊躇う気配を漂わせる一心に、-護は思わず苦笑が零れる。
 浦原が無償で応じる男でない事は記憶と同じなのだろう。

「お母さんが死んだ時、お父さんとお母さんの『紐』が切れたんだよね?」
「...ッ、ああ。」
「でもまだ死神の力が戻ってないって事は、お父さんが抑えている虚は、私の中にいるって事だよね?」

 淡々と確認する一護に、観念したように一心は目を瞑る。

「ああ、そうだ。」
「それなら、浦原さんにとっては面白い観察対象の筈だよ。手の内を哂さなくても協力してくれるんじゃない?」

 眉を顰める父に、言葉にしない苦情が聞こえた。
 一護は記憶を得てから今迄何度となく反芻する内に、主観的ではなく客観的に見られるようになって気付いた事もある。永い時を過越し変化に貧しい死神達は、現世を生きる子供の素直さ一途さに変えられた。規律を重じるなら堕落と言えるだろうが、一護の目には彼等の変化は柔軟性と寛容さを増したように見える。
 少年一護と一護の違いは視野だろう。自己評価の低かった“ー護”と違い、一護は自己卑下はしていない。

「気分が良いとか悪いとかの為に、有効活用出来る存在を無視するなんて勿体ないよ。藍染の作った虚と関わって生き延びた以上、確実に駒にしようと目論でいる筈なんだから否応なく巻き込まれる。だったら藍染の知らない手札を少しでも多く持った方が良い。」

 真っ直ぐで潔い一護の瞳に正面から見裾えられて、ー心は数えるのが億劫になってきた溜息を吐いた。

「浦原に繁ぎを取るのは避けたいんだがな。虚除けのグッズを依頼するってのじゃ駆目か?」
「お父さん、私、真血なんだよね?」
「! そんな事まで知ってんのかよ。」
「お母さんが、私の力を封じていたんじゃない?」

 この娘は、その記憶とやらの所為で、要らぬ知識を得て聡くなってしまったようだ。

「浦原に、その記憶がある事まで話すのか?」

 まさかと思いつつ問うと、一護は苦笑して首を振る。

「未だ起きてないし、私の記憶は予知能力じゃないもん。確実な情報じゃないよ?」
「だが‥‥。」
「私がお母さん似で良かったね? 娘にしてやられて喋らされたのは嫁莫迦な所為だって思って貰えるよ。」
「‥‥‥はぁ。霊力が上がってるのは確かだしなぁ。俺は死神に戻ってねぇから、霊力のコントロール教えてやってくれって泣きつく事にするか。」
作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙