MEMORY 死神代行篇
期末考査に向けての勉強会でも、啓吾と水色は浦原に説明して貰えるレベルまで達する事はなく、拠って、二人は駄菓子を購入すると早々に引き上げていった。
浦原に理解らない処を教えて貰いながら、試験勉強に備えていると、伝令神器が虚の出現を告げてすぐに消えるという事態を繰り返すようになった。
不思議そうにするでもなく、焦るルキアを宥めて勉強を続ける一護の在り様は、浦原に違和感を抱かせた。
落ち着いているし、伝令神器の故障を疑う素振りもない。
「一体どういう現象なんでしょうねぇ。虚出現を報せるけどすぐにそれが消失する。」
「この伝令神器が故障しているという事ではあるまいな?」
「虚の気配は感じるぞ。すぐに消えるけど。」
真実に気付きながら嘯いてみせる浦原に、ルキアは本気で眉を顰めている。一護は感じる違和感の正体が虚だと判るようになっていて、その感覚をその儘告げる。
「そうッスねぇ。」
浦原が一護に同意すると、ルキアは二人の顔を見比べて考え込む。
「地区担当の死神である私以外に、この地区に虚を消す存在がいる、という事なのか?」
「虚が自分で消えるとか自然消滅するという事態がないなら、それ以外には考えらんないんじゃね?」
正解に行き着いたルキアに、一護は口端を上げて口元だけに笑みを浮かべる。
「しかし、一体何者が……。」
正体の見当が付かずに考え込むルキアに、一護は教科書を視線で追いながらどうでもいいという態度で口を開く。
「放っとけば? バランスが崩れるほど虚を消す力なんざないだろ。」
「しかし……。」
「死神にはバランサーとしての誇りがあるんだろうが、死神が絶対の正義のような考えは持つなよ。」
「一護……?」
「死神全員が正義の味方なんて考えるな。そうなら、浦原さんは今現在此処にはいないんだからな。」
一護の言葉に、ルキアは驚いて浦原の顔を見る。浦原は顔色を隠すように帽子の唾を引き下げ扇子で口元を隠す。
「浦原が此処にいる事と何の関係が………。」
言い掛けたルキアの言葉を遮るように伝令神器が虚出現を警告する。
が、それもまたすぐに消える。
一護は溜息を吐いて、教科書にシャープペンシルを挟んで閉じる。
「一護?」
「魂葬する必要がある整がいるかも知れないから行ってくる。」
一護の無言の合図にルキアが悟魂手甲で一護を死神化させる。
「ンじゃ、ちょっと行ってくる。」
一言言い置いて、一護は浦原の部屋の縁側から外へ出て駆けていく。
一護は未だ瞬歩を自由意思で使いこなせていない。記憶の所為で、使えた状態を感覚的に覚えているので、同じ感覚を意識して再現を試みている状態だ。
霊子で足場を造り空中を駆ける事は出来るようになっている。これくらいなら藍染に見られていても困る範囲ではないと判断しての事だ。
整を魂葬した記憶と微妙に位置がズレているが、対応出来る範囲だ。
無事に魂葬を終えてから、一護は感覚を研ぎ澄まして石田雨竜の気配を追った。すぐ近くに、身を潜めている。
ふん、と態と小馬鹿にしたように聞こえるように鼻息を吐いて一護は口を開いた。
「虚だけを消したって、魂葬しなきゃまた次の虚に狙われるだけだっつーの。」
一護は溜息を吐いて首を振る。
このやたら体が大きい割に気弱な整の魂葬をする時には石田雨竜はビルの上にいて見下ろしているのだったか。
「さーて、戻って試験勉強するか。」
一護は雨竜の気配を感じ取りながらも気付かぬふりでその場を後にした。
浦原商店に戻り、浦原相手に苦手な教科を教えて貰い、定期試験に備えるべく勉強に勤しむ。
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙