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MEMORY 死神代行篇

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 門限で一旦帰宅した一護は、ルキアの「たぬき」の手紙を見る。記憶の中と寸分違わぬ置手紙に苦笑して、心配で騒ぐコンを掴んでピアノ室へ籠る。

「お姉ちゃん?」

 風呂上がりの遊子と顔を合わせてしまった一護は苦笑する。

「暫くピアノ室に籠るから邪魔しないでよ?」
「……はぁい。」

 一護がピアノ室に[籠る]時は考え事を邪魔されたくない時だと言い含められてきた遊子は、不服そうにしながらも素直に頷いた。

「遊子、いい加減に姉離れしなよ。」
「夏梨ちゃん。お姉ちゃんはあたしのお姉ちゃんだもん。」
「高校生にもなって小学生の妹の子守をしなきゃならないんじゃ一姉も大変だよね。友達と遊ぶよりあたしらを優先してくれてるのに、遊子はまだ足りないのかよ。」
「そんな言い方しなくたって……。」

 記憶があった所為で、妹達を気に掛けるよりも自分を鍛える事に力を注ぐ事を優先してきた一護だったが、夏梨は兎も角遊子は母親がいない分一護に依存している節がある。
 真咲が亡くなってから、自分の事に精一杯で、母親から教えられた事を妹達に伝えていなかったのだと気付いた一護は内省する。記憶に拠れば、崩玉の件が片付いたら一護は一度は霊力を失う時期がある。その間に、遊子と夏梨に、真咲から教えられた大事な事を伝えよう、と一護は心に決めた。
 その為に尸魂界に行って無事に戻って来なくてはならない。
 決意を固めた一護は、先走りたがる心を鎮める為にピアノに向かった。
 日付が変わる頃、ピアノ室の窓の外からガラスをコツコツと叩く音がして、視線を向けた一護は肩に夜一を載せた浦原の姿を見つける。

「浦原さん。」
「尸魂界から来た朽木サンのお迎えはもう既に現世に降り立ってますよん。」
「現在地、解るよね?」
「勿論ッス。」
「流石に今夜は虚は出ないか。」
「昨日あれだけ纏めて片付けましたからねぇ。」

 肩を竦める一護に浦原は苦笑する。

「来てるのって、ルキアの義兄貴達?」
「……はい。」

 浦原の肯定に、一護は一瞬唇を噛み締めたが、覚悟を決めたように真っ直ぐ視線を上げる。

「理解った。」

 一護は窓を閉めて鍵を閉めると自室へ戻って窓を開く。
 浦原は屋根伝いに一護の部屋の前に移動した。

「コン、留守番してろ。夜明け前に戻れたら窓から入るから鍵閉めるなよ?」
「……判った。」

 一護が自分で死神達の居場所を把握出来るまでの道案内を浦原にさせると、死神達の傍に雨竜の霊圧を感じた一護は、浦原に視線を向けて頷き一人で走り出した。
 浦原は一護を見送ってスピードを下げる。
 一護に遅れる事数歩で着いた浦原は、物陰から様子を窺った。
 苛立ちの儘に雨竜を攻撃する恋次の姿に、一護は眉を顰めている。

「とどめだぁっ!」

 宣言した恋次の刃が雨竜に届く前に、一護の晶露明夜が閃き吹き荒れた強風が恋次の体を吹き飛ばす。

「うおっ⁉」

 霊風で吹き飛ばされた恋次が体勢を立て直して着地した場所に立ち上がると、風が吹き付けてきた方向を向く。
 恋次の視線の先には、晶露明夜の刀を構えた一護が立っていた。
 一護が身に纏っているのはTシャツとジーンズとダンガリー・シャツで、髪の短い一護は少年にしか見えない。

「なんだ、てめぇ…!」

 ドスを効かせた恋次に、一護は雨竜と恋次の間に立つ。

「……見たところ、死神だね。何かな? 最近の死神は、現世の生き人でも気に入らないって理由で殺すのかい?」
「関係ねぇだろうがっ! 引っ込んでろっ!」
 
 叫ぶと共に、恋次が刀を振り、一護に斬り掛かる。
 一護はあっさりと恋次の刀を受け流した。

「! てめぇ…っ!」

 あっさり受け流された事が気に入らずに更に斬り掛かる恋次に、一護は眉を顰める。

「『碧星』、『木魂』。」

 一護が小さく呟くと刀が碧い光を帯びる。
 一護の中に、ルキアを助ける術もなく中央四十六室の命令に唯々諾々と従うしかない恋次の怒りが流れ込んでくる。
 恋次の葛藤は、“記憶”と同じだ。
 ルキアとの関係も、経緯も、“記憶”と変わらない。
 剣戟を交わしながら、一護は恋次の心と記憶の一部を読み取っていく。
 必要な情報を読み取ると、防戦一方に徹していた間合いを拡げる。

「逃げてんじゃねぇっ! オラオラオラァ!」

 始解もせずにいる恋次が調子に乗っているのは、一護の霊圧が上がっていない所為だろう。

「……ったく! しつこいぞ、赤髪野郎っ!」

 一護は言い様素早く距離を縮めて恋次の胴に鋭く一本撃ち込んだ。

「てめぇっ!」
「私が邪魔をしたのは、そこに倒れてる生き人を、死神のあんたが殺そうとしてたからだっ!」
「なっ! テメェ、なんで死神を知ってやがるっ!」

 一護が恋次の言葉に顔を顰める。

「あまり、現世の人間を莫迦にしない方が良いんじゃね?」
「あ?」
「流魂街出身の死神が出るくらいだ。現世の生き人でも霊力の強い者はいると考えるのが妥当だろうに。」
「!」
「現世の人間は、見えていても見ないふりしてる連中も多いんだよ。」
「貴様……。」

 白哉が口を挟んでくるのに振り向いた一護は、白哉越しにルキアを視界に捉えるが素知らぬふりだ。

「そこにいるのはうちのクラスメイトだけど、死神となんか関係あるわけ?」
「クラスメイト?」
「同級生だよ。取り敢えず、女の子のクラスメイトが男二人掛かりで追い掛け回されてるのを見て見ぬ振り出来ない奴を殺そうとしてる死神見つけたら、私は邪魔するさ。」
「このっ!」

 一護の言葉にいきり立って刀を振り回す恋次に、一護は身軽く躱している。
 見ていた白哉は、一護が躱したり防いだりするだけで、自分からは一切攻撃していない事に気付き、瞬歩で移動して恋次の手を止める。

「隊長っ⁉」
「そやつが止め立てしようとしているのは、お前が現世の生き人を殺す事だけのようだ。」
「あいつは副隊長である俺の邪魔をしようってんですよっ!」
「足元にも及ばない相手を嬲り殺しにするのが、副隊長の品格だとでも言う心算なのか?」
「! てめぇっ!」
「否定したいなら行動で示せって言ってんだよっ! あんたの隊長さんも止めてんじゃねぇか!」
「っ! チッ!」

 ルキアを唯のクラスメイトとして扱おうとする一護に、雨竜は今にも失神しそうな意識の中で様子を窺う。

「下手に霊圧上げられて虚が寄ってきたら迷惑なんだ。」

 無表情だった白哉が微かに目を瞠る。
 一護は、悟られた事に気付く。

「『瑠璃月』、『旋風』! 『金紗』、『晶露』!」

 晶露明夜から旋風が起こり、雨竜と一護の体を霊球が包み強風で舞い上がる。

「やろうっ!」

 追い縋ろうとする恋次を白哉が止め立てし、ルキアを引き連れて穿界門を開いて潜っていく。

「黒……さ…き……。」
「喋んな。ったく、無茶しやがって。」

 白哉達が穿界門を潜るのを見届けて、一護は霊球を地面に降ろした。

「危ないとこだったッスねぇ。」

 肩に夜一を載せて近付いてきた浦原に、一護は晶露明夜を解いて、雨竜を地面に降ろした。

「浦原さん、石田の手当てしてやって。」
「了解ッス。」
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙