MEMORY 尸魂界篇
どれだけ熱くなろうと刀の形を保つ理性を手放す事なく戦う為に、一護は本能を御さなくてはならないのだと、自分にも天鎖にも理解らせる必要があるのだ。
色の反転した斬月を手にした天鎖と、斬拳走鬼で渡り合いながら、一護は解号を呟く。
「駆けろ、天鎖。」
瞬時に、一護の手の中の斬魄刀が二刀一対に形を変える。
見守る三人には意味も理解らぬ儘、一護と天鎖は刃を交わし合う。
斬月を揮い、大きな出刃包丁のような刀を振り回す天鎖の攻撃を、一護は二刀で軽々と躱し反撃していく。
斬り下ろしてくる天鎖の刀に、一護は左手の小刀を投げ素手で刃を掴んで止める。
『ヘッ!』
停められた事で引こうとしたが、指先での技にも拘らず、一護はどういう力加減でか天鎖の刃を抜かせない。天鎖が舌打ちをして刀から手を放して身を引いた次の瞬間、天鎖のいた位置に一護が投げた小刀が落ちてくる。一護は天鎖が握っていた斬月を引き取り、落ちてきた小刀も手にして、斬月を天鎖に突き付ける。
『! チッ! テメェの覚悟は本物ってこったな。認めてやるよ。』
天鎖の姿が空間に溶けるように消え、次いで色の反転した斬月も掻き消えた。
ふっと息を吐いた一護が始解を解いて歩き出す。
「い、一護さん?」
恐る恐る声を掛ける花太郎に振り向き、一護は無表情のまま求めているだろう答えだけを返した。
「風呂、入ってくる。」
「あ、ああ、はい。」
頬を赤くして返事をする花太郎を見届けて、一護は踵を返した。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙