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MEMORY 尸魂界篇

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 一護が風呂を浴びて霊圧も回復した頃、隠れ家の天井を壊して侵入者が現れた。
 まだ乾いていなかった髪を拭いている一護を視界に認めた侵入者が呆ける姿に、一護は眉を顰める。

「阿散井恋次。随分と乱暴な登場の仕方すんじゃねぇか。」
「一……護……?」
「この髪の色見て、他の誰に見えるってんだ?」

 不機嫌に言い返す一護に、恋次は未だ呆けた儘指差している。
 恋次が指差す一護の姿は、湯上りで汗を拭く為に広げられた儘の襟から覗く華奢な鎖骨と、拭く為に掻き上げられた髪から覗く華奢な首筋。
 いくら年端もいかないとはいえ、男の風情ではない艶めかしさが窺える。

「お…ま……ま……おま…え……。」

 震える指で刺した儘どもりながら口を開いた恋次に、一護は首を傾げる。

「女だったのかよっ⁉」

 恋次の怒鳴り声は広い空間でも耳が痛くなるほど響いた。
 予想の付いていた岩鷲と反射神経の良い夜一は、耳を抑えたので難を逃れたが、正面で真面に音波を食らった一護と反応の遅れた花太郎は暫くの間聴覚に異常を来す羽目になった。
 驚愕のあまり大声で喚き続ける恋次の行動に業を煮やした一護が、堪忍袋の緒が切れて恋次の頭に蒼火墜を落として静かになるまで、浦原と夜一が造った洞窟の中に不協和音が木霊し続けた事を知るのは、被害者の四人のみである。

「テメェが鬼道が出来るなんざ、知らなかったぜ。」

 ぶすぶすと煙を上げながら、体のあちこちに焦げ目を残している恋次が呟く。花太郎が慌てて回帰術を施しているお陰で恋次の傷は深くはなく済んだ。

「反射的だから、加減が効かねぇ。鬼道は苦手なんだ。」

 使えないわけではない。寧ろ、一護の鬼道は強力過ぎて、周囲を巻き込み兼ねないのでうっかり使えないのだ。

「こんな所に隠れてコソコソ卍解の修業か?」

 六番隊牢を抜け出し、卍解の修業を出来る場所を探していた恋次は、一護の霊圧を感じて此処に近付いたのだ。
 聞き覚えのある科白に、一護は恋次を透かし見るように凝視する。確か、“記憶”に拠ると恋次はこの時点で具現化までは可能になっていて、卍解出来るようになれば白哉と真面に渡り合えると信じていたのだったか。
 警戒心を剥き出しにする岩鷲を余所に、一護は泰然自若の構えだ。夜一にしても恋次など物の数ではないという意識がある。

「別にオメェらをどうこうしようなんざ思ってねぇよ。俺も丁度卍解の修行出来る場所を探してたんでな。丁度良い、混ぜて貰うぜ。」

 宣言して恋次は場所を見つけに踵を返そうとする。勝手な言い分に一護は溜息を吐くが、恋次の足が止まった事に気付いて顔を上げる。

「テメェには報せておいてやるか。」
「………。」

 この展開には覚えがある、と一護は思った。
 その先の恋次の言葉は、一護少年を奮起させた言葉だった筈だ。

「ルキアの処刑が変更になった。明日の正午だそうだ。」
「明日、じゃと⁉」

 驚愕の声を上げたのは夜一で、花太郎は声も出ない。岩鷲は難しい顔をしている。反応を示すとばかり思っていた一護の声も聞こえない事を訝しんで振り向いた恋次は、腕を組み片方の手で顎を包んで考え込んでいる一護の姿を見つけて拍子抜けする。てっきり驚愕して焦りの表情を見せると思っていたのだ。

「一護………。」

 じり、と夜一が一護に歩み寄る。

「夜一さん。明日の昼、となると、封印を解くの間に合うのか、あの人は。」
「ギリギリ、といったところじゃろう。」

 夜一の答えに、一護はふうっと溜息を吐く。

「最悪、燬鷇王の破壊も私の役目か。」
「出来るか?」
「出来るよ。白哉の相手もしなきゃならんだろうし……。」
「ウチの隊長の相手は俺がするから心配要らねぇよ。」

 恋次の安請け合いに、一護は溜息を吐く。

「なんだよ、その溜息は。」

 聞き付けた恋次が眉を跳ね上げるが、一護は腕を組んで恋次を見て天井を見上げて溜息を吐くを繰り返した。

「一護……。」
「恋次は卍解習得がこれから、なんだな?」
「具現化までは出来てんだ。時間の問題だぜ。」
「……まぁ、習得してから話そうぜ。」

 一護はそう言うと、夜一に歩み寄る。

「一護…?」
「夜一さんの着替え、余分にあるかな?」
「儂の着替え、じゃと?」
「余分にあったら貸して貰えないかな、と。」
「まぁ、いくらでもあるが……。」
「胸とかは緩いだろうけど、落ちるほどじゃないだろうし。」

 ブツブツ言いながら、夜一の服を借りて着替えた一護は、上着は着なかった。

「一護?」

 借り受けた夜一の服で立った一護は、細く華奢な体のラインが丸判り状態で、これだけ華奢な身体で一角や剣八と渡り合ったなどとは信じられないくらいだ。

「転神体に必要な霊力は今日の分は尽きたんだろうけど、拳走鬼に必要な分はあるよな。」
「い、一護?」

 じり、とにじり寄る一護に、夜一がじり、と下がる。

「瞬歩使った白打の相手して。暫くやってないからかなり訛ってると思うし。」
「暫くとはどのくらいじゃ?」
「入学式の日以来。」
「なんじゃ、四か月もやっとらんのか。」
「浦原さん、面倒臭がって相手してくれないんだよ。」
「しようがないのう。」

 浦原の怠け癖を知っていた夜一は、浦原が単に怠けて一護の相手をしないのだと信じて疑う事なく白打の相手を承知した。
 夜一が自身で相手をしてみて、一護の体術はなかなかのものだと見て取った。
 浦原が教えて来たと聞いてはいたが、浦原の癖は付いていない。
 一護は、身軽く素早く俊敏で、打撃は強くないが鋭い。

「主の白打は強さがないが、鋭いからの。鬼道を載せるなり霊圧を載せるなり出来れば、かなり有効じゃの。」
「鬼道を載せる?」
「そうじゃ。まぁ、かなりの熟練度が必要じゃがの。」

 一護は“記憶”の中で夜一や浦原が使っていた技を、自分のものにすべく練習を続けてきている。筋肉の質が違う為に同じ動きが出来なかったり無理があったりしたので、同じ動きをしようとはしなかった。同じ技でも同じ技とは思えない形になったものもある。
 鬼道を載せた白打。“記憶”に拠ると、この時点で夜一は未だ使い熟しきれていると言い切れるほどではなかった筈だ。砕蜂は自力で辿り着いたばかりで技に名を付ける事も出来ていない頃だ。
 確か、『瞬閧』といった。肩と背中に凝縮させた鬼道を送り込み、それを炸裂させて手足に送り込んだ鬼道で闘う。
 “記憶”の中では、瞬閧を使えたのは夜一と砕蜂だけだったが、技の室から考えて、浦原にもテッサイにも使える代物だったのではないかと思う。
 自分の体の中で鬼道を巡らせて炸裂させるという理屈は、滅却師が自分の体の中に霊子を巡らせると同じ原理の筈だ。
 繊細にコントロールしようとすれば到底出来ないだろうが、瞬発的になら、自分にも出来るのではないか、と思った一護は、夜一相手なら左程遠慮をせずに使えると考えた。夜一は反鬼相殺を使いこなせる。
 藍染と対峙した時に、今の儘ではそれこそ記憶通りに横一文字に身を斬られる事になる。手札は多いに越した事はないのだ。

「夜一さん、反鬼相殺行けるよね。」
「? 当然じゃ。」
「うん。じゃ、遠慮なく。」
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙