MEMORY 尸魂界篇
浮竹が目から鱗と言わんばかりに目を瞠る。
「藍染の奴、虚の死神化も実験してたって事は、虚と意思疎通してたって事だろ?」
「逃亡先が虚圏だと想像が付いたって事かい?」
京楽も口を出してくる。
「そう。いくらなんでも死神に、そんな簡単に黒腔が開けるとも思えないし、なら大虚が反膜を降らせるしか残らねぇ。ルキアの処刑に双殛が使われるって判った時点で、双殛の丘が待ち合わせ場所だって見当が付いた。大隷書回廊で浦原さんが開発した魄内封印した異物を取り出す方法を掴みながら、態々恋次とルキアを双殛の丘に戻したから確実だと思った。」
「………。」
浮竹と京楽は、この手応えを前に経験したような気がして思いを馳せ、それが浦原相手にしていた時だと思い出す。
なるほど、一護は色々な意味で浦原の弟子なのだと納得した。
「流魂街に出られたら……。」
懸念を口にする冬獅郎に、一護は苦笑する。
「護廷十三隊を出し抜いた事で悦に入ってる藍染が、態々流魂街まで足を延ばす理由があるとも思えないんだけど。それに瀞霊壁が降りたままじゃ、流魂街へ出ようとすれば即座に補足されるじゃん。」
乱暴な言い様だが、一護の言っている事は事実だ。
「崩玉を、どうするか。」
一護は手の中で崩玉を弄びながら口を開く。
「藍染は、崩玉を死神と虚を瞬時に融合させる物質って言ってたけど、それは浦原さんがそういう物質の心算で作ったってだけ、なんだよなぁ。」
「どういう意味じゃ、黒崎一護?」
「ん~~。多分、実際は、浦原さんが創ろうとしたのとは違う代物が出来ちゃったんだと思う。」
「何が、出来たと申す心算じゃ?」
「確証はないんだけど、多分、この物質は、周囲にある強い思いを叶える力があるんじゃないかな、と。」
「なんじゃと?」
「何でもかんでもってわけじゃないと思うけどね。」
そう言って、一護は思い付く事を上げていく。
戌吊で、乳飲み子で捨てられたにも拘らず、ルキアは生き延びた。
ルキアが、ほんの僅かに残った霊力で一護の封印を簡単に解いた。
封印が解けてからの一護の能力の延びは異常なまでに早かった。
ルキアを助けに尸魂界に乗り込むと決めて浦原に付き合って貰った修行は十日間。その間に卍解にまで至った。
断界で出会う筈のない拘突に出会いながら、一週間早くずれて尸魂界に着地した。
瀞霊廷に入ってからも、一護が対峙した死神は、旅禍を捕え殺す事よりも斬り合う事を楽しむ者が多く、例外だった恋次は本心ではルキアを助ける事を望んでいた。
燬鷇王を止めたり磔架を破壊したり出来たのは兎も角、卍解修得して五十年余りの白哉に、案外あっさり勝ってしまった。
「極めつけが、市丸を止める為に反膜を放つ大虚を攻撃したら、一撃で倒せた。」
実力以上だろ?
肩を竦めて見せる一護に、一同言葉もない。
「い、一護っ!」
声を上げたのは夜一だ。
「夜一さん? 何?」
小首を傾げる一護に、あ、可愛い、何て内心で思ったのは、一護に好意的な者だけではなかった。
「卍解を習得しておったなら、何故、言わんかったのじゃ。」
「え、浦原さんから聞いてなかった?」
「聞いておらぬわっ!」
ルキアの足許に腰を下ろしている夜一が、振り向いて一護を見上げながら、噛み付く勢いで口を開く。
「え~? 浦原さんなんて言ったわけ?」
「『瀞霊廷に乗り込んでから、時間が取れたら卍解の修行に付き合ってやってくださいネん♪』」
この場で浦原の口調を模写すれば緊張感に欠ける。
「……卍解を習得させてやってくれ、じゃなかったんなら、浦原さんも夜一さんに嘘吐いたわけじゃないじゃん。」
「じゃが、主が卍解が出来るなぞ一言も……。」
「言ったら信じた?」
「む……。」
「白哉もそうだったけど、自分の眼で見なきゃ信じられないじゃん。だから言わなかったんだと思うけど?」
肩を竦める一護に、夜一も黙るしかない。
浦原との修行内容がどれほど濃縮されたものかは知らないが、一護は死神の力を手に入れてから二か月余りしか経たない内に卍解を修得した事になる。如何に霊圧高く生まれつく真血でも有り得ない早さだ。
言葉を失くした死神達の中で、敢えて他の事に意識を向ける事で元柳斎が立ち直った。
「お主の言う通りじゃとすると、崩玉とやら申す代物、扱いに困る代物のようじゃの。」
「これ、封呪が掛かってて、の状態でそれだからねぇ。」
う~ん。
唸って考え込んだ大多数を余所に、剣八がのっそりと口を開いた。
「おい、一護。」
「ん?」
「オメェ、俺とやった時にも、それを持ってやがったのか?」
「うんにゃ。あの時は夜一さんに預けてた。」
「そうか。ならまた俺と……。」
「断る!」
「てめぇ……!」
「あんたとやるくらいなら総隊長とやる方がましだ!」
「この……っ!」
「い~や~だ~! 手合いならまだしも、命を賭けて遊ぶなんて神経持ち合わせてない!」
零れないながらも、涙目になっている一護の瞳が、うるうるとしながら剣八を睨む。
一護の涙目に剣八すら一瞬怯み、その隙に剣八と一護を遮るように卯の花が割り込む。
「更木隊長? こんなに可愛らしい女の子に、死合いを無理強いしてはいけませんわね。」
おっとりと柔らかな笑顔を浮かべているが、卯の花に逆らう事は即命に関わる事は周知の事実。剣八本人ですら命ぎりぎりの殺り合いを楽しむ為、四番隊には世話にならざるを得ないのだ。
チッと舌打ちして引き下がった剣八に、一護はほっとする。脱力して力の抜けた一護に、ルキアと織姫が両側から慌てて支えた。
「大丈夫か、一護⁉」
「いちごちゃん。」
「い、命拾いした。」
「いちごちゃんてば、更木さんて優しいよ?」
自然に言ってのける織姫に、死神達の視線が集中する。
「姫は、剣八の中で、守るべき存在って認識されたんだろ。」
苦笑する一護に、織姫は首を傾げる。
一護の言葉に、弓親が納得したようにポンと手を叩く。
「そういえば、隊長は副隊長に攻撃されても怒りますもんね。」
「ああ……。」
一角が剣八とやちるを見比べ、織姫と一護を見比べて深く頷く。
「なるほどなぁ。」
釣られて感心している隊長格達を眺めて、姿勢を正した一護は溜息を吐く。
「ん~。ルキアの魂魄から抜き取ったのは失敗だったかもなぁ。」
「何を言う。そのような代物、裏切り者の手に渡しては……!」
「だってこんな扱いに困る代物、手元に置くより敵の手にあるとはっきり判ってるなら、その心算で対処すりゃ良い事じゃん。こっちの手にあれば守りに入る分、後手に回り易いぞ。」
ルキアの反論に、一護はケロリと言う。
「豪気だな。」
ボソリと言った浮竹に、京楽は苦笑する。
「安全な隠し場所となると、現段階じゃ霊王宮くらいしかないなぁ。けど、基本的に霊王宮は瀞霊廷に不干渉だし。」
「瀞霊廷は安全ではないと申すか?」
元柳斎の言葉に、一護は溜息を吐く。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙