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MEMORY 尸魂界篇

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 断界に突入した一行は只管走った。
 拘流は霊子に反応するので、うっかり霊圧を上げるわけにはいかず、一護はなるべく霊圧を上げないように気を付けながら走っていたが、予想通り雨竜のマントが巻き込まれ足手纏いになった。

「破道の四『白雷』!」

 一護は雨竜のマントを掴んで唱え、指先から走らせた雷撃でマントを切り裂くと、雨竜の体を茶渡に向かって押し遣る。茶渡に目配せをして雨竜を頼み、織姫に手を伸ばし、夜一を拾い上げて肩に載せた。

「え?」
「お?」
「なんっ!」

 戸惑う織姫と驚く夜一と、仰天する雨竜の声が重なる。

「スピード上げるよ!」

 有無を言わさぬ一護の掛け声に、茶渡は無言で脚を速める。
 織姫は手を取る一護に並ぶように脚を進め、夜一は一護の肩の上でバランスを取る。
 茶渡に担がれた雨竜は女性である織姫が自力で走っているのに男の自分が担がれる事に抵抗した。

「あんたが一番足が遅いって言ったろ!」
「んなっ⁉」
「私は100m12秒3。姫は?」
「あたし? 12秒9だよ。」
「……ム。12秒8だ。」
「石田は?」
「………14秒。」

 雨竜も茶渡が走る邪魔にならないように暴れる事を諦め、後ろを眺めていて、やがて何かが近付いて来るのに気付いた。

「拘突じゃっ! 七日に一度しか現れん奴が選りにも選ってこんな時にっ!」

 一護に手を引かれながら振り向いた織姫は、見えてきた明かり、おそらく出口だろう其処と拘突の迫るスピードを素早く計算して、間に合わないと判断し言霊を叫びながら振り返り、三点結盾を放った。
 予想していた一護は、肩の上の夜一はその実力から気にせず、織姫を庇い体制を整えて三点結盾の上に載った。茶渡は三点結盾の上で膝立ちになり、雨竜は四つ這いになり、夜一は俯せになり、一護はよろけながらも三点結盾の上で立ち織姫を支えていた。
 落ちた所は西流魂街の治安の良い所だ。が、旅禍の存在は全ての禍を齎す者と信じられている為、誰も姿を現さない。
 浦原が穿界門を開けるのは関わりの深い土地に対してのみ。確か、“記憶”の中の情報に、藍染から齎された知識だ。

「夜一さん、瀞霊壁が落ちてくるまでの所要時間は?」
「三分といったところじゃな。」
「折角今ないからと思ったけど、それじゃ間に合わないか。」

 一護が残念そうに呟くと聞き付けた雨竜が不思議そうに一護を見る。それに気付いた一護が上空を指差し、上を見上げた雨竜は凄いスピードでやたら大きな物が落ちてくる事に気付いた。
 みるみる大きくなったそれが、流魂街とは造りの違う街並みを囲むように建ち並んだ。

「やはり間に合わなんだか。」
「まぁ、私と夜一さんだけなら間に合うけど、みんなを置いて行くわけにはいかないし。」
「僕達が足手纏いだとでも言う心算かっ⁉」

 絡んでくる雨竜に、一護は溜息を吐く。

「一々絡むな石田。あんたの重要任務は姫を護る事だと思っとけよ。」
「なっ! どうして僕が井上さんを護らなきゃならないんだ。」
「嫌ならチャドに頼むけど?」
「…っ、別に嫌とは言ってない。」
「よぉし。石田が一番冷静だからな。姫に言い負けない頭持ってんのも石田だけだし。」
「頭?」
「姫が無茶な提案しても拒否出来るだろ。私やチャドじゃ言い負ける。」
「なるほど、それなら僕が適任だね。」

 一護に言い包められた事にも気付かず、雨竜は機嫌よく織姫の守護を引き受けた。

「おぬし、なかなか策士だの。」
「伊達に浦原さんの弟子じゃないし。」

 肩の上で一護にだけ聴こえるように呟いた夜一に、一護はくすりと小さく笑って答えた。

「此処、白道門の門番は兕丹坊じゃ。三百年門を破られた事がない強者じゃからの、作戦を練らん事には………。」
「そういう強者とのお話し合いは、力づくって相場が決まってるよ。」
「莫迦を言うでない、奴は……。」
「夜一さんこそ莫迦言わない。」

 一護はびしゃりと夜一を遮る。

「ルキアを助け出す為には、隊長達に勝たなくちゃならないんだ。門番一人に手古摺ってたら到底無理だろ。」
「しかし……。」
「心配要らないよ。」

 一護は悠々と白道門に近付いて行く。

「いちごちゃん!」
「心配要らないよ。下がって見てて。」

 追い縋ろうとする織姫と茶渡にウィンクして、一護は悠々と白道門に近付いた。尚も追い縋ろうとする織姫と茶渡、雨竜に、一護は足を停める。

「此処で、私一人で何とか出来ないようじゃ、ルキアを助け出そうって事自体、土台無理なんだよ。」

 一護の静かな瞳に、茶渡が小さく息を吐く。

「本当に大丈夫なんだな、一護?」
「大丈夫だよ。」
「黒崎っ!」

 言い募ろうとする雨竜に、一護は溜息を吐く。

「一つ、教えてやる。」

 雨竜を振り返った一護の瞳は冷たいほど鋭い。

「大虚を撃退した時、私は始解もしてなかった。けど、浦原さんとの特訓に費やした十日間は、三回休憩入れただけで始解状態全開でぶっ通しだったんだよ。」

 瞳に込めた力を緩める。

「黙って見てろ。」

 一護は宣言した通り、あっという間に兕丹坊との勝負を付けた上に、門を開けた事を咎めた三番隊の隊長の凶刃から兕丹坊を護ってみせた。
 尤も、市丸の思惑通り白道門の外へ押し出されてしまった。一護毎門の外へ押し出された際に兕丹坊は宙に放り出された為に落ちて傷を負ってしまった。織姫が傷を治した事で、門から突破する事は出来なくなった代わりに、流魂街の住民の信頼は得られたようで、概ね好意的に受け入れられた。
 夜一が一番驚いたのは、織姫が能力で兕丹坊の傷を治せると言った時に、一護が少しも驚かなかった事だ。

「喜助から聞いておったのか?」
「ん? ああ、姫の能力の事?」
「そうじゃ。」 
「拒絶だって聞いたよ。」
「何?」

 織姫に任せておけば兕丹坊の心配は要らないと見て取った雨竜も話に加わってくる。

「浦原さんからは、姫の能力は拒絶だって聞いたから、事象の拒絶かなって見当が付いた。」
「事象の拒絶って、それだけでどうして傷まで治せるなんて……。」
「事象の拒絶って事は、攻撃の拒絶だけじゃなくて、怪我した事象も拒絶出来るって事じゃね? 死すらも拒絶出来そうだから、使い方間違えりゃとんでもない事になるな。」

 雨竜の疑問に当たり前のように答え、織姫の能力の危険度も理解している一護に、夜一は無言になる。

「だから、石田、あんたに姫の守護を頼むって言ったんだよ。」
「どうして僕なんだ?」
「あんたは冷静だから、無理はしても無茶はしないだろ? そういう奴が傍にいれば、姫も無茶はしないし、感情で突っ走る事を止めてやれるだろ?」
「……判った。」

 茶渡の知り合いだという少年が現れ、織姫が兕丹坊の傷の手当てをするに辺り、暫し休憩となった。
 雨竜は長老の家の一室を借りて敗れたマントの繕いを始め、茶渡はシバタユウイチ少年と出掛けて行った。

「夜一さん。」
「何じゃ、一護。」
「他の方法で瀞霊廷に侵入するって、どんな手段に出る心算なんだ?」
「使えるかどうかは、頼んでみん事には判らんからな。」
「……もしかして、斯波空鶴、か?」
「! 一護、お主。」
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙