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桜恋う月 月恋うる花

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 湯を使って綺麗になった千鶴ちゃんは、きちんとした、という土方さんが込めた意味を汲んで女物の着物を身に着けている。
 冬の夜の冷え込みと、女が新選組の屯所にいるのは拙いという気遣いからだろう、斎藤さんが頭から羽織を被せていたらしい。
 乾ききっていない濡れ髪は、まだ年若い少女を女らしく見せる。
 千鶴ちゃんの纏う艶に、平助君は顔を赤くしている。
 永倉さんも千鶴ちゃんが女の子だと判って唖然としている。

「女だったのかぁ。」

 ぽかんと口を開けていた藤堂君が呟き、永倉さんがうんうんと頷くのを、原田さんが呆れた目で見ている。

「二人とも気が付かなかったのかよ?」
「だってなぁ、左之。」
「まるっきりガキだしさぁ。」

 ポリポリと額を掻いて言い訳する藤堂君に、原田さんが可笑しそうに口元を歪める。

「二人とも、そんなんだから女性にもてないんだよ。」
「んだとぉ。だったら総司は判ってたのかよ?」

 沖田さんが横口を入れると、永倉さんがムキになる。

「当たり前じゃない。どう見ても女の子でしょ?」

 永倉さんの反論はあっさり沖田さんの反撃に合った。

「ガキとか言いながら、湯上り姿に見惚れてたじゃねぇか。」
「そ、それはっ……」

 原田さんの揶揄いに藤堂君が口籠る。

「やらしいよね、新八さんも平助もさ。女の子だって気付かない内はぞんざいだったのに、女の子だと判った途端に態度変えるんだ?」

 沖田さんが揶揄うのに、二人はたじたじになっている。
 ぽかんとしながらその様子に視線を奪われている千鶴ちゃんの髪は、湿り気を含んだままだ。

「千鶴さん、こちらへ」
「えっ?」

 呼び寄せるときょとんとしている。
 苦笑して軽く千鶴ちゃんの手を引き、私が坐していた位置に座らせ、その後ろに膝立ちになる。
 羽織を肩に掛けさせて、その上に綾乃から返して貰った羽織のポケットに入れたままにしておいたグラスファイバーのタオルを広げて、千鶴ちゃんの髪を下ろす。

「あ、あの……」
「すぐに済むわ。大人しくしていらっしゃい」

 戸惑う千鶴ちゃんを無視して、手櫛で千鶴ちゃんの髪を解きながら、水の精霊達に千鶴ちゃんの髪から離れるようにお願いする。
 いくらもしないで髪が乾いたので、首元で緩く纏める。
 タイミング良く、新選組の局長殿の姿が広間に現れた。

「おお。千鶴君。久し振りだなぁ」

 おおらかに千鶴ちゃんに笑い掛ける近藤勇に、千鶴ちゃんは行儀よく三つ指着いて頭を下げた。

「ご無沙汰を致しております。近藤さん」

 その所作の上品なこと。
 従妹の綾乃は猫被ってこういう所作をするけど、千鶴ちゃんは素でこうだからなぁ。
 流石は名門の姫だわね。
 町医者の娘というには上品に育て過ぎてる。
 内心で感心しながら千鶴ちゃんを眺めていると、近藤さんの視線が私に向いた。

「君が神矢静香君か。千鶴君を助けてくれたそうだね。俺からも礼を言うよ」
「恐れ入ります」

 苦笑して、千鶴ちゃんに引けを取らない所作で頭を下げる。
 流石に袴姿でも私を男と見間違うほどの間抜けはいないらしい。
 尤も男というには無理があり過ぎるから、言葉も敢えて男らしくしなかったし、いくらなんでも晒を巻いていない私を男と思うようでは間抜けを通り越してバカだろう。

「積もる話もあるが、今夜は流石にもう遅い。詳しい話は明日にしよう。千鶴君は今夜の宿がないと聞いたし、神矢君も夜道は物騒だ。二人とも泊まっていきなさい」
「部屋を用意しなけりゃならねぇが……」
「新選組は女人禁制なのでしょう? 明日の朝には千鶴さんも男装する必要がありませんか?」
「それよか静香ちゃん、どう見ても女だぜ?」
「そうだな、新八でも間違えないくらいだもんな」
「左之っ!」
「千鶴ちゃんが女の子だって判らなかった以上、新八さんはあまり大きな事言えないと思うよ」

 原田さんに続いて沖田さんがとどめを刺す。
 そういえば沖田さんと永倉さんは、千鶴ちゃんをちゃん付けで呼ぶんだっけ。
 溜息が出る。

「新選組は女人禁制なのでしょう?」

 繰り返す。

「呼び捨てや苗字呼びなら兎も角、名前にちゃん付けなんて、女の子扱いこの上ないのではありませんか?」
「あ……」

 永倉さんは初めて気付いたという表情だけど、沖田さんは肩を竦めてる。永倉さんは無意識、沖田さんは承知の上なのね。

「私の事はご心配なく。晒でも巻いて声色を使って所作を偽れば男に見えますよ。ちゃん付け呼びされたら元も子もありませんけどね」

 くすりと笑う。
 千鶴ちゃんが困惑しているのか眉を下げている。

「詳しい話は明日にして、今夜は近藤さんの仰る通り休むべきですね」
「客間があるんだが、布団は干してないから埃臭いと思うが……」

 土方さんは本当に千鶴ちゃんが大事なのね。

「今夜一晩くらいは我慢しますよ」

 ねぇ、と千鶴ちゃんを振り返って同意を求める。
 千鶴ちゃんは困惑しながらも頷いた。

「すまねぇが、そうしてくれるか?」

 土方さんが千鶴ちゃんに謝罪を入れる。
 本当に千鶴ちゃんの事、大事にしてるわねぇ。
 ここまで千鶴ちゃんに心を砕いている土方さんって、どうなんだろう。
 なんだか面映ゆい。


作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙