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桜恋う月 月恋うる花

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「私の事もしずかで。字は『静香』ですけど『静』と書いてもしずかと読みますし。『静君』か『しずさん』とでも」
「あ、上だっけ。う~ん、じゃあ。『しずさん』て呼ぶよ。俺の事は平助で良いぜ」
「では平助君と呼ばせて頂きましょう」
「呼び捨てで良いぜ?」
「私の立場は隊士でもありませんし、平助君は幹部でしょう? 苗字で呼ばれる事はお好きではないようですから妥協案ですよ?」
「何で知って…………」

 驚くような事かしら?

「見ていれば判りますよ?」

 納得いかないって表情ね。千鶴ちゃんは兎も角、私は不審人物のままなのに、その私に名前呼びを要求する時点で苗字呼びをされる事を嫌っているって丸判りだもの。
 はんなりと笑って話を逸らす。

「平助君はこれから何か御用でも?」
「あ、ああ。俺、これから源さんと朝食の準備をしなくちゃなんだよ。持ち回りの当番でさ」
「なら、千鶴と一緒にお手伝いしましょうか? 私は仕事の都合上あまり家事をしないのですが、包丁と味付けならある程度できますよ」
「え、いいのか?」
「はい。泊めて頂きましたし」

 千鶴ちゃんを振り返ると、千鶴ちゃんも心得たように大きく頷いた。
 嬉しそうな平助君の後をついて厨まで行くと、源さんがお釜でご飯を炊き始めていた。


「おはよう、源さん」
「ああ。おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」

 振り返る事もなく平助君に返事をした源さんは、続いた私と千鶴ちゃんの声に驚いて振り向いた。

「……ああ。おはようさん、二人とも。昨夜はよく眠れたかい?」
「はい」
「お蔭様で。心強い警護が二人も付いて下さいましたからね」

 千鶴ちゃんは素直に、私は『警護』という言葉に『監視』の意味を込めて答えた。
 気付いたのだろう源さんは苦笑している。

「それでどうしたんだね?」
「お手伝いに来ました。泊めて頂きましたし、実は昨日の夕餉を取り損ねたのでお腹空いてます」

 あっけらかんと言うと、源さんは呆気に取られた表情になり、次いでくすりと笑った。

「大らかだねぇ。しかし、助かるよ」
「千鶴は炊事は出来るでしょう?」
「はい」
「私は火を扱うのがあまり得意ではなくて、煮炊きがイマイチ自信がない。味付けなどには自信があるのだけどね」
「そうなんですか?」
「そう。なのでその辺はよろしく」
「判りました。お手伝いします」
「で、献立は何ですか?」

 サクサク千鶴ちゃんとの連携を確約し、源さんに向き直る。

「献立というほどのものではないんだよ。納豆と味噌汁くらいしかできないんだが………」
「食材は何がありますか?」
「豆腐と納豆と、ネギと大根と青菜くらいだよ」
「若布わかめか昆布か海苔、ありますか?」
「若布ならあるが…………」
「じゃあ。お豆腐と若布の味噌汁、納豆には大根卸とネギを添えて、青菜のお浸し、大根と青菜の浅漬け、でしょうか」

 千鶴ちゃんの顔を見ると、思案顔だった千鶴ちゃんも頷いた。

「出汁は煮干しですか?」
「うん」
「もう下準備しちゃいました?」
「いや、これからだよ」
「じゃあ。使う分の煮干し出して下さい」
「「「?」」」

 三人揃って不思議顔。
 不思議そうにしながらも、源さんは煮干しを数本出してくれた。
 案の定だわ。
 煮干しが少ない。
 これだけじゃ出汁っ気が足りなくて私は美味しくないよ。

「擂鉢ありますか?」
「あるよ」

 出して貰った擂鉢は普段使われていない証拠に埃っぽい。
 これじゃ、洗わなくちゃ使えないわ。

「私は擂鉢を使えるようにしますから、千鶴、お浸し任せます。湯を沸かす時、ついでにお味噌汁の分の湯も一緒に沸かして。平助君、煮干しを芳ばしい香りがするくらいまで乾煎(からいり)して下さい。焦がしたり燃やしたりしないように」
「それじゃ、私は大根卸でもしようかね」
「お願いします」

 平助君が源さんに訊きながら煮干しを乾煎りしてくれる。擂鉢を丁寧に洗い、精霊に頼んで水を払って乾かす。

「乾煎りできたぞ」
「ありがとう。頭と内臓取れる?」
「どうやんの?」
「こう」

 平助君の目の前で丁寧に実演してみせる。平助君は目にした通りに器用に頭と内臓を外した。煮干しをむざいて擂鉢に放り込む。

「平助君。これを丁寧に磨り潰して。出来るだけサラサラの粉状になるようにして下さい」
「おう」

 若布の塩抜きをしている間に豆腐を小さく切る。その間に平助君が丁寧に磨り潰してくれた煮干しに、千鶴ちゃんが沸かしたお湯を入れて、擂鉢を漱いで鍋に移す。火にかけて煮立ててから、豆腐を入れて火を弱める。

「煮干しを丸ごと入れてしまうのか」

 源さんが感心したように言う。

「本当は鰹節の使い方なのですけどね。出汁が薄いと美味しくないし、でも贅沢は出来ませんから」

 肩を竦めて答える。
 源さんが大根卸を作った残りの大根を一口大に薄く切り、塩を掛けて軽く揉む。千鶴ちゃんが手早く湯通しした青菜の一部を細かく切る。大根に味が着いたら青菜と混ぜて浅漬け風。
 一応、一汁三菜の膳が出来る。
 平助君を付けて千鶴ちゃんに広間へ膳を運ばせる。
 声が聞こえないくらい離れてから源さんに声を掛けた。

「井上さん。私は連れと一緒に食事をした方が宜しいでしょう? 沖田さんと斎藤さんもそちらの方が都合が宜しくないですか?」
「……そうだねぇ。勇さんは嫌がるかも知れないが……」
「今朝だけで済むかも知れませんし」
「まぁ。交代で、という事になるかも知れないが……」

 源さんは苦笑しながら膳を持ったので、三人がいる部屋まで案内してくれる心算だろうと踏んで、私も膳を持った。
 後に続くと案の定、三人の気配がする方へ進む。
 案内された先は本来は斎藤さんの部屋だという。斎藤さんが土方さんと一緒に私の監視に就いて部屋を空けたので三人に宛がわれたらしい。
 和麻さんは沖田さんから借りた着物を着ていたし、綾乃と煉は斎藤さんから借りた着物を身に着けていた。

「おはよう、三人とも。昨夜は眠れた?」
「まぁ、私と煉はなんとか。和麻は眠れなかったでしょうけど」
「和麻さんの気配は一晩中強かったものね。沖田さんが殺気を放っていた?」

 小首を傾げながら沖田さんを振り返ると、沖田さんが微かに唇を歪めている。

「私の監視の方に沖田さんと斎藤さんだと思っていたのよ。どうせ眠れない同志なら土方さんの方が和麻さんとは良いかなって。土方さんがこちらに来たから、和麻さんには気詰まりだったかしら」
「沖田が綾乃を揶揄うから大人しくさせとくのが大変だったかな」
「綾乃は揶揄うと面白いでしょうからねぇ。沖田さんの気持ちも理解るけど」
「ね~え~さ~ま~~~ぁ!」
「大きな声を出さないのよ。綾乃。貴女は未だここにはいない事になっている身なのだから。それに新選組は女人禁制。姉様なんて呼び掛けをこの中でするんじゃないの」

 しれっと言ってのけると綾乃が言葉に詰まって息を呑む。

「兎に角食事。こちらに膳を運ぶから、沖田さんと斎藤さんもご一緒にこちらでどうぞ、というかこちらで摂って下さい。私もこちらに参りますから」
作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙