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桜恋う月 月恋うる花

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 千鶴ちゃんと平助君が広間と四往復する間に、私は源さんと三人のいる部屋まで二往復した。

「あの、静香さん?」
「ん?」

 厨に取って返すと、千鶴ちゃんがおずおずと声を掛けてきた。
 源さんが同伴してくれて、斎藤さんの部屋と二往復したのだけど、和麻さん達の分を運んでいる事を千鶴ちゃんに悟られないように、広間に膳を運ぶ千鶴ちゃんと平助君が厨に戻る頃には、膳の盛り付けをしていた。

「膳の数が足りないのですけど……」

 広間に運んだ膳の事だろう。

「私は別部屋で沖田さんや斎藤さんと食事を頂きます。いくら貴女を助けた経緯があるとはいえ、新選組にとっては私は身元不明の存在ですからね。処遇が決まるまでは別ですよ」
「え……」
「京の治安を預かるという事は容易い事ではないのです。敵もあるのですから警戒しない方がどうかしていますよ」
「……はい。そうですね」

 まだ幼さを残すとはいえ、本来はとても敏い娘。余分な説明も言い訳も必要ないのは助かるわ。
 土方さんや近藤さんと親しい知り合い関係を築いている千鶴ちゃんが、幹部達に警戒されるとも思えないし、沖田さんの苛めに遭う可能性があるなら沖田さんをこちらで引き受けてしまえばいいもの。
 準備をしながら片付けていたので、後片付けは食器と鍋を洗うだけで済むようにしてある。

「神矢は未だここか?」

 斎藤さんが顔を覗かせる。

「ああ、丁度良かったです、斎藤さん。後二膳、あちらへ運ばなければなりません。ついでに手伝って下さい」

 立ってる者は親でも使え、という諺があるくらいだ。自分より年下の男を使って悪い事はあるまい。

「……承知」

 何やら思うところはあるようだけれど、無駄口を叩かない男は行動に出る。
 硬いとこはあるけど、斎藤さんの真面目で頭の良いところは大好きだわ。

「え?」

 無言の心算だったけど、声に出していたらしく、斎藤さんから反応が返る。

「声に出ていましたか? 失礼。貴方の真面目過ぎるところが晩生に繋がるけれど、かなり理想的な殿方だと、好ましい気性だと思いまして」
「そうか?」
「ええ」
「そうか」

 少し照れたように微かに頬を染めている辺り純情さんだよね。
 誠実で真面目でいざという時は精悍で攻撃的にもなれて、余分口は叩かず必要な時は口も回る。少しくらい女遊びもして余裕を持てば実に理想的だわ。尤も生真面目で固いところがあるから、女遊びなんて出来ないだろうけど。
 そんな事をつらつらと考えていると、斎藤さんの部屋、つまり三人と沖田さんがいる部屋に着いた。
 着いてみると、まだ誰も手を着けていなかった。

「あら、待っていて下さいましたか。お待たせしましたね」

 私が運んできた膳を沖田さんの前に置き、その隣に斎藤さんが座る。
 味噌汁が冷めないように精霊達に頼んで於いた命を解き、私も席に着く。
 パン!っと、一拍柏手を打つ。

「「「「「「いただきます」」」」」」

 勢いに呑まれたように声を揃えて箸を持った。

「! 美味い……」

 一口食べるなり斎藤さんが口を開いた。

「私と千鶴がお手伝いしましたからね」
「へぇ……」

 沖田さんが感心半分、揶揄半分の声を上げた。

「静香姉様は料理出来たんですね」

 煉の感心したような声に、私は苦笑してしまう。

「煉、新選組では『姉様』呼びはやめなさい。何の為の男装だと思っているのですか?」
「あ……すみません」
「呼び捨てでも構わないから。……料理は惣菜程度なら何とかなりましたが、この時代の竈での火加減は未だ覚えていませんから、出来るうちには入りません」

 溜息混じりに答えると、綾乃が不思議そうな表情をする。

「火加減が出来ないって……あ、そうか」
「綾、忘れていましたか」
「はい、ごめんなさい」

 素直に謝るから許さざるを得ない。
 不思議そうな表情をしている新選組の二人には今の会話の意味が理解ろう筈もない。

「それにしても、私達、どうなるのかな?」
 
 綾乃がぽつりと不安そうに口を開く。

「秘密を知られたからといって、安易に殺害して葬ろうなんて考えで纏まるなら、反撃すればいいだけでしょう?」
「そうだけど、新選組の人達、普通の人達なんだし……」
「『羅刹』は魔の力で作り出された存在だけど?」
「干渉しちゃ駄目だって言ったの、静香」
「害意を向けられた場合は、容赦の必要を感じません」
「うわっ! 和麻並に過激」
「殺して良いとは言ってません。和麻さんも、綾乃を守る為でも殺意を向けられたからって彼等を殺さないで下さいね」
「敵と見做されて攻撃されるなら、容赦する必要は感じないが?」
「力の差が歴然としています。少なくとも和麻さんは、幹部並の人達百人が束になっても、一瞬で勝負着けられるじゃないですか」
「お前もだろうが」
「一瞬じゃ無理です。綾乃や煉と違って、相手が人間だからって躊躇はしませんけど、和麻さんほど速くはないですからね」

 沖田さんの顔に、プライドを傷付けられたという表情が浮かんでいるけど、知らぬが華、彼は私達の力を知らなさ過ぎる。

「随分と自信があるみたいだねぇ。大口を叩くからには腕にさぞかし覚えがあるんだろうから、手合せ願おうかな」

 頬を引き攣らせながら余裕そうな声を出している。
 昨夜腕の差を示したのに、あれじゃ足りなかったのかしら。

「あら」
「あら、じゃありませんよ……静香…さん。無理に挑発しなくても良いのに」

 煉が溜息を吐きながら説教してくる。
 煉は本気で新選組を慮っているようだけれど、綾乃も和麻さんも私が態と彼等を挑発した事に気付いているわね。
 綾乃は何を企んでいるんだろう、とでも言いたそうな表情をしているし、和麻さんは面白がっている。

「手合せなら喜んでお相手致しますよ。千鶴の手前、この三人を宿から呼び寄せたという体裁を繕ってからならね」
「その事なんだが……」

 廊下にあった気配は、声を掛ける前に会話に割り込んできた。
 障子が開き、土方さんと山南さんが顔を覗かせる。
 膳を隅に押し遣り、上座を譲る。二人は当然のようにそこに陣取り腰を下ろした。

「そういえば、今朝の食事は雪村君と貴女が主体で整えてくれたそうですね。美味しかったですよ、御馳走様」
「お粗末様でございました」

 山南さんの労いに頭を下げる。
 笑みを浮かべる山南さんをチロリと横目で見て、土方さんはコホンと咳払いした。

「あんたらの処遇だが、取り敢えずは屯所にいて貰う。新選組は女人禁制だから、神矢と、綾乃といったか? 二人には男装をして貰わなきゃならねぇんだが、その辺は承知してくれ」
「男装って……」
「袴姿で、髪を高く結うくらいで良いのではない?」
「それって男装になるの?」

 綾乃が不思議そうに小首を傾げる。それは普段の仕事の時の私の服装だから、綾乃にしてみれば男装とは感じられないのかも知れない。

「綾。時代考証を忘れてる。この時代の女性の服装は着物で、髪は日本髪か首の高さで結うか。私達の時代なら身軽に動く為に男装なんて珍しくないけど、この時代は、ね」
「服装だけでばれないもの?」

 眉を顰めている綾乃に、和麻さんがにやりと笑う。
作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙