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桜恋う月 月恋うる花

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「心配要らん。お前なら普段通りにしてりゃばれやしないだろ」
「か~ず~ま~っ!」

 常もの調子で追い駆けっこを始めそうな綾乃の首根っこを掴んで引き戻す。

「和麻さん。綾を揶揄うのは構いませんけど、時と場所を選んで下さい」

 軽く睨み付けながら言うと、和麻さんが肩を竦める。
 相変わらず和麻さんは緊張感がない。
 和麻さんの態度に再度切れそうな綾乃の掴んだままにしていた首筋を引く。

「綾もいい加減にする」
「だって……」
「だってじゃありません。そんなだから、いつまでも和麻さんの玩具にされるのだといい加減学習しなさい」

 不満顔の綾乃を宥めながら和麻さんに視線をやると、和麻さんはどこ吹く風で飄々としている。
 ふうっと、思わず溜息が出る。

「八神は総司と同じ性格してるのか?」

 土方さんの呟きが聞こえてしまって、思わず噴き出した。

「土方さん?」

 沖田さんが威圧を込めて土方さんを呼んだけど、土方さんは沖田さんの声を聞き流す。

「あんたも苦労しているようだな」

 斎藤さんの労いの声に振り向いて苦笑する。

「土方さんほどじゃありません。和麻さんが揶揄うのは綾だけですから」

 軽く肩を竦める。
 斎藤さんは片眉を僅かに上げただけで言葉はなかった。

「話を戻してもいいか?」

 幾分不機嫌そうな土方さんの声がして、みんなの意識を集める。

「失礼致しました」

 姿勢を正して向き直ると、土方さんは眉間に皺を寄せながら口を開いた。

「新選組としちゃあ、身元も不明な存在に重要機密事項を掴まれている上で自由にさせとくわけにゃいかねぇんだ。俺達の監視下に置かせて貰う」
「まぁ、当然の処置でしょうね。尤も私達の言い分が正しい以上、この時代に私達の存在の証拠はないから、身元の証明は付かないわけですが」
「監視なんて面倒な事しないで斬っちゃえばいいんだよ」
「……総司」

 土方さんの眉間の皺が深くなる。
 安易に斬る斬ると嘯く沖田さんに、土方さんの機嫌が悪くなっている。
 私達としても沖田さんの不穏な発言は嬉しくない。
 これを黙らせるのには、やはり実力を見せつけるしかないのかしらねぇ。内心溜息を吐きながら、あれこれ思考を巡らせる。

「で? 立場としてはどうなるんですか?」
「どう、とは?」
「まさか四人纏めて監禁というわけにもいかないでしょう?」
「まぁ、そうだな」
「千鶴さんの手前もある。私達を葬って千鶴さんの不信を買うのは得策ではないでしょうし、唯監禁状態に置くには場所も人手も足りない」

 土方さんの眉間の皺がより深くなる。
 笑いが漏れそうになるのを無理矢理抑え込む。

「土方さん、そんなに眉間に皺を寄せていると、年より老けて見えますよ?」
「余計な世話だ」

 声に苦味が混じる。揶揄う心算はなかったけれど、結果としては揶揄ったような形になってしまったかしら。

「平隊士の手前があります。唯の客人というわけにはいかないでしょう? かといって、隊士にはなれませんし」
「腕に自信があるんじゃないのか?」

 沖田さんを挑発した言葉を聞いていての皮肉かしらね。

「新選組に入隊して戦力になってから、いきなり私達が元の時代に戻れたりしたら御迷惑でしょう?」
「戻る方法が理解っているのですか?」

 山南さんが驚いたように訊いてくる。戻れる方法が理解っているのにここに留まる理由があるなら、それを新選組に対する害意と考えるのかも知れないわね。

「何時、戻れるかは判りませんけど、切っ掛けになるだろう事態は見当が付いています。その切っ掛けを掴む為にも、新選組に関わり続ける必要があるんです」
「なに?」
「私達は未来から来ていますからね。新選組が辿った運命は、私達にとっては歴史です。その、私達にとっては決定した過去に、現在進行形で関わりを持っている。求められているのは、歴史の修正と受け取るのが正解なのだと思いますよ」
「歴史の修正……?」
「政変をひっくり返すなんて事までは求められてはいないと思いますけど」
「そんな事まで求められるのは理不尽だと思うがな」

 和麻さんが溜息混じりに呟く。

「当然、そこまで求められてはいないでしょう。歴史が変わってしまったら、私達の帰れる世界ではなくなってしまう可能性の方が高くなる」
「百五十年の時間が流れる中で修正可能な程度で、大きく歴史が変わらない程度に干渉しろって事か」
「だと思うけど? しかも私達がこの時代に出現した時期と地点を考えれば、確実に千鶴さんか新選組の援護を要求されてるとみるべきね」
「歴史が変わらない程度に、ね」 

 和麻さんが苦笑しながら肩を竦める。

「具体的には?」

 綾乃が困惑顔で口を開く。

「そうねぇ……」

 具体的な事件を列挙するわけにはいかない。山南さんは計算高い人物だから、具体的な情報を早く与えてしまうと歴史を変えられる恐れがある。

「精々、新選組が苦戦していた事態を重症人が出ても死人が出ない程度に援助するとか、新選組が見逃した為に大惨事になった事を新選組の活躍で防ぐとか、そのくらいかしらねぇ」
「新選組に政変を起こせるほどの影響力があったか?」

 和麻さんが思案顔で口を開く。

「動き次第ではね。まぁ。今更無理だけど」
「政変とは、討幕ですか?」

 山南さんが重々しく口を開く。
 少し考えれば思い付く事態よね。

「どう思われます?」

 意味深な笑みを口元に浮かべて山南さんに向ける。

「しずか……っ、さん。今っていつなんですか?」

 煉が詰まりながら訊いてくる。
 強引だけど話を逸らす必要があると感じ取ったみたい。こういうところ、煉はやはり敏いわ。

「文久三年師走。1863年年末ね」
「何故、言い切れる」

 突っ込みどころはそこですか、和麻さん?

「千鶴さんが京に来て『羅刹』に襲われ掛けていたから」
「なるほど」

 この説明で納得するのは、ここが物語の舞台だと言ってあるから、だろうね。史実と創作が絡み合った世界だから、史実だけで判断出来ないと理解ってる。


作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙