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桜恋う月 月恋うる花

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「いいか? では、始めっ!」

 開始の声と共に沖田さんが素早く踏み込んでくる。
 鋭い横薙ぎが走るけれど、こんなもの余裕で躱せる。次いで息も吐けぬ速さ(らしい)で面、胴、小手が撃ち込まれる。それらを悉く軽いステップで躱しながらも攻撃は加えない。
 見せて貰おうじゃない、三段突きとやらを。
 沖田総司を天才と呼ばせた神業呼ばわりされた技。
 鬼には掠りもしなかったという三段突き。いくら鬼が人間離れしているとはいえ和麻さんの速さには敵わないでしょうけど、膂力では和麻さんに勝る筈だから、それを防ぐには相当な速さが必要になる。だから掠りもしなかった沖田さんの三段突きの速さを確認したい。
 殺気と勘は確かに人並み外れて良いけど、天才呼ばわりは永倉さんが書いた手記で大袈裟に褒め称えているだけじゃないの?
 隙だらけじゃないの。態と負けるにしても、こんなに未熟なんじゃ、負けてあげる気にもなれない。
 小さく舌打ちして態と隙を作る。
 勿論足を滑らせて出来た隙のように装って。
 案の定、簡単に誘い込まれて三段突きを撃ち込んできた。仕方ない。三段とも木刀で受け止めて流す。
 目を瞠ってる場合じゃないわよ。もう少し根性入れた撃ち込みをしてちょうだい。
 沖田さんの耳に届く程度の舌打ちをする。

「これで本気を出してる心算? これじゃあ負けてあげる事も出来ないじゃない」

 鍔迫り合いをしながら囁くと、沖田さんが目を瞠った後、視線を鋭くする。
 瞬時に、剣のスピードが増す。
 なんだ、やっぱり力を抑えていたのね。
 神業と称えられていようと、所詮はこの時代の日本人の運動能力の域でしかないという事なのかしらね。
 現代に置き換えれば、剣道を嗜む一般人よりは強い、というくらいだ。
 全国大会優勝クラスの和麻さんを相手に鍛錬した経験がある私にとっては、楽な相手でしかない。
 尤も、和麻さんと比べる事自体が無茶なんだけど。
 それでも、このくらいじゃ、負けてあげるわけにはいかないわね。

「百五十年の時間の流れは伊達じゃないのよ。沖田さん」
「え?」

 驚いて一瞬止まった沖田さんに、五段突きをお見舞いする。
 但し切っ先が当たる程度。
 はっとして慌てて飛びずさった沖田さんに、飛んだ方向から横薙ぎに剣を振る。

「一本、神矢!」

 スパン!と小気味のいい音がして胴が入ったのと、土方さんの判定の声が上がるのが同時だった。
 私の勝利を周囲が認識したのは、沖田さんが膝を着いてからだった。
 起きたのは歓声ではなくどよめきだ。
 当然だろう。
 新選組は最強軍団と自負し、そうあるよう鍛錬をしてきただろうし、平隊士は沖田さんのしごきで簡単に沖田さんに伸されているのだろうから。ぽっと出の若造に負ける沖田総司など、新選組の沽券に関わるだろう。
 5,6人が木刀を振り翳し、2,3人が真剣を抜いて一斉に掛かってきた。
 さては一番組で沖田さんの下に就いている隊士達ね。
 仕方ないな。
 乱取りの心算で隙だらけの隊士達を叩きのめしていく。
 この程度の事で真剣を抜くような冷静さに欠ける輩は況して隙だらけだ。
 ヒュ~♪
 楽しげに和麻さんが口笛を鳴らす。

「腕を上げたな、静香のやつ」
「兄様、何を呑気な。いくら静香姉様でも……」
「大丈夫よ、煉。静香姉様ったら遊んでるわ」

 綾乃が呆れたように言うと、煉も冷静になったらしく慌てていた声が平成に戻った。

「静香姉様、剣は得意ではないと仰ってませんでしたか?」
「あいつは実戦向きだからって截拳道を使うからな」
「この時代に截拳道を持ち込むとタイムパラドックスが起きるんじゃ……」
「そのままじゃな。だが、勝つ為には手段を選ばないってのは新選組の真骨頂だろう。少しくらいなら使っても問題はないだろうさ」

 和麻さんは流石常に冷静よね。
 仰る通り、截拳道を使っても、土方さんの喧嘩剣法と然して変わらないだろうと踏んでいるけど、それは平隊士や沖田さん相手に出すほどの代物ではないわ。平隊士如き、私の剣道で十分よ。
 一斉に掛かってきた連中を全員、床に沈めて見回すと、呆気に取られた土方さんと目が合った。 
 肩を竦めると、土方さんははっとしたように息を吐いて声を上げる。

「何をやってやがる! 恥晒しな真似してんじゃねぇっ!」

 顔色を変えて後に続こうとしていた平隊士達の脚が止まる。
 くすりと笑いを漏らすと、隊士達の視線が集中する。

「鍛錬の時に、沖田さんに乱取りで簡単にあしらわれている人達が、沖田さんに勝った私に敵うと本気で思ったのですか?」
「貴様……っ」

 ダンッ!
 土方さんが手にしていた木刀で床を打つ音が響く。

「俺ぁ、恥晒しな真似をするんじゃねぇと言った筈だぞ」

 低い声がどすを効かせて響く。

「お前もだ、神矢。うちの隊士を挑発せんでくれ」
「この程度の挑発に簡単に乗るようでは、いざという時に役に立ちませんよ」

 握ったままの木刀を軽く振って言葉を紡ぐ。

「いざという時?」
「沖田さんはご自分の腕に自信がおありになる所為か、相手の力量を見極める力が不足しているようですね」

 言いながら沖田さんを見遣ると、沖田さんは悔しそうではあるけれど不思議そうではない。
 流石に打ち合って力量差を認めざるを得なかったかしらね。

「土方さん並に強い方は、気力で実力以上の力を引き出してしまわれる事もありますけど、本番で実力以上の力を出せるなんて早々出来る事ではないんですよ。相手の実力を瞬時に測り、対応するだけの力量を発揮するにはどうしたらいいか、自明の理でしょう?」

 嘗て、赤穂浪士が吉良邸に討ち入りし、死者を出す事無く吉良上野介を討ち取る事が出来たのは、一人に対して数人掛かりで立ち向かったからだ。堀部安兵衛は吉良家の家臣の中で一番の剣客とされた清水一学と一対一で対戦しているが、それも清水一学が他の志士と対して体力が落ちた後の事だ。

「数で掛かれば力量差があっても討ち取れる、なんて頭から決めて掛かっているなら認識不足もいいところです」

 土方さんが深い溜息を吐く。

「一々尤もで耳が痛いな」
「精進あるのみでしょうね」

 肩を竦めると、土方さんに斎藤さんが歩み寄っていく。

「副長。神矢との試合、俺にもさせてもらえませんか?」
「あ、あ~、神矢?」
「……構いませんよ。幹部の方全員抜きをしますか?」
「自信満々だな」
「沖田さんと斎藤さんが、私にとっては難関なので。お二人を抜く事が出来れば後は何とでも」
「言うねぇ」

 永倉さんが好戦的な表情になる。

「無理に挑発してんじゃねぇよ、まったく」

 和麻さんが苦虫を噛み潰した表情で呟く。
 煉ははらはらと見ているようだけど、綾乃は不審そうな表情になっている。綾乃から見たら私の行動は不審でしょうね。
 この時代で余分に目立つのは命取りだと言っている私が、新選組の幹部をごぼう抜きなんてやらかしたら間違えば記録に残ると思うでしょうから。でもね? 新選組の幹部を叩きのめす者がいようといまいと、日本の歴史に影響はないのよ?


作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙