魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「決まってるでしょ、ロキの一味と伝説の魔法つかいよ」
「やっぱりそっちも敵なんだね……」
ラナの言うそっちもというのは、伝説の魔法つかいの方である。
「あんたはまだ分からないのね。あの二人を敵と認めなければフレイア様の願いを叶えることはできないのよ」
「わ、わかってるよぅ」
小百合の言うことを頑張って分かろうとするラナだったが、なかなか心がついていかなかった。それから会話がなくなり、リンゴ村に向かってしばらく飛んでいると、小百合がずっと先の方に小さな二つ人の姿を見つけて言った。
「ラナ、上昇して」
「うん、上?」
「高度を上げて雲の中に隠れるのよ」
ラナが言う通りにすると、彼女たちのずっと下の方を箒に乗った二人組の少女が通り過ぎていく。
「みらいとリコだわ。あの二人を見つからないように追いかけて」
「う、うん……」
小百合がまた二人に何か仕掛けるつもらしいと分かってラナは心配になってくる。でも小百合を信用しているので言う通りにリコたちを上から追いかける。ラナの箒の技術なら二人に見つからないように追跡するのは簡単なことであった。みらいとリコは近くの無人島へと降りていった。
「追うのよ」
背後から声をかけられたラナは嫌な予感しかしない。
「どうするつもりなの?」
「あの子たちの闇の結晶を頂くわ」
「それってもう完全に悪役だよ、アニメだったら負けパターン入ってるよ」
「あんたのアニメ的考察なんでどうでもいいわ。わたしは目的のために出来ることをやるだけよ」
ラナにもう言葉はなかった。小百合がそうしたいと言うなら協力する。自分の中に戦いたくない思いや友達に申し訳ない気持ちなど色々なものがあるが、ラナを一番に突き動かすものは小百合に対する信頼であった。二人は家族と同じか、それ以上の絆で結ばれているのだから。
ラナが箒を急降下させて無人島へ。二人が地上に降りると目の前には高い木の生い茂る森があった。リリンを抱いている小百合とラナが森に入っていく。中は思ったよりも広々としていた。大きな木ばかりだし下草が短いので歩きやすい。異様な静けさの中で緑が強く香り、たまに鳥の鳴き声が聞こえてきたり、風が枝葉を鳴かせたりした。二人が注意しながら歩いていると、女の子が話し合っている声が聞こえてくる。小百合は一度止まってから声の聞こえる方に歩きだした。後ろからついていくラナは緊張していた。
「見つけたよ! そこの木の枝にくっついてた!」
「モフルンも見つけたモフ」
「リコの言った通り、闇の結晶があったね」
「だからあるって言ったでしょう、ねらいどおりだし」
みらいとリコの声がかなり近い。さらに緊張が高まるラナの足の先に何か当たった。見ると黒い石がラナの足元に転がっている。ラナが笑顔になってそれを拾う。
「小百合、闇の結晶みつけたよ〜っ!」
ラナの大声に前を歩く小百合はちょっとびくつき、みらい達も振り向く。
「小百合!?」
みらいが目を大きくして驚く。リコは逆に少し目を細めて身を硬くした。モフルンはみらいの足元で小百合が抱いているリリンと目を合わせていた。
小百合はラナの大声に少し驚かされたが、みらいとリコに見つかったことは何とも思っていない。最初から堂々と二人の前に現れるつもりでいた。後ろから来たラナが小百合の左側に立つと、小百合が左手を出して言った。
「変身するわよ」
「え? へ、変身!?」
「早く!」
「う、うん!」
ラナが小百合の左手に右手を重ねて握ると黒いとんがり帽子と赤い三日月のエンブレムが光る。
『キュアップ・ラパパ、ブラックダイヤ!』
リリンの胸の青いリボンに黒いダイヤが輝くと、リリンは二人に向かって飛んでいって手と手をつないで輪となる。
『ブラック・リンクル・ジュエリーレ!』
リリンの体に黒いハートが現れると、小百合たちの姿が闇色に包まれて消失した。すぐに地上近くに月と星の六芒星が広がったかと思えば、その上に二人の黒いプリキュアとリリンが召喚される。そして二人が魔法陣から跳んで地上に降りる。
「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」
「可憐な黒の魔法、キュアウィッチ!」
小百合とラナが変身し、宵の魔法つかいとして現れた時にプリキュアとしての圧倒的なパワーが空気を震わせ、生身の人間のリコとみらいの肌に痺(しび)れるような感覚を与えた。
――先手を取られてしまったわ!
リコは自分の判断の遅さを呪った。最低でも小百合たちの変身に合わせてこちらも変身するべきだったと思った。ダークネスとウィッチは目の前にいる。この距離では変身しようと動いた瞬間にやられてしまう。
リコがどするべきか考えていると、ダークネスが腕を組んで余裕を見せながら言った。
「今のあなた達から闇の結晶を奪うのは簡単だけれど、人間に危害を加えるのは正義の使者であるプリキュアの倫理(りんり)に反することよ。だからあなた達が変身するのを待って、正々堂々と戦って奪ってあげる」
「プリキュア同士で戦おうというの!?」
リコがダークネスに攻めるような調子で言った。
「ここは無人島よ、なくなったって誰も迷惑しないわ」
「そんな、ひどいよ! 人はいないかもしれないけど、鳥や動物はたくさんいるよ。それがなくなっても構わないだなんて!」
「あなたらしい言葉ね。鳥や動物の事まで心配するなんて、みらいは心の優しい良い子だわ。でも、どうしようもないお人よしね。あなたはその性格のせいで、きっと苦しむことになるわ」
ダークネスの言っている意味は漠然としているが、みらいの胸を圧迫するものがあった。もうすでにダークネスのいう苦しみは始まっているのかもしれない。
リコが周囲にだわかまる嫌な空気を追い出すように手を払って言った。
「何を訳の分からないことを言っているの!」
ダークネスは余裕を示す薄い笑みを崩さない。
「安心しなさい、この島がなくなったりはしないわ。危険なのはプリキュア同士が互角の力でぶつかりあう時よ。わたしたちが圧倒的にあんた達を上回るから何も問題はないわ」
「いったわね!」
負けず嫌いなリコが頭にきて叫んだ。リコは乗せられてはいけないと、冷静さを取り戻すように努力した。今どうすることが一番正しいのか。
「戦うのが嫌なら闇の結晶を置いて消えなさい。わたしたちにとってはその方がありがたいわ」
「闇の結晶はとても危険な物よ。あなた達の目的が分からない以上は渡せないわ」
リコのこの言葉でプリキュア同士の対決は決定的なものとなった。リコがみらいの顔を見ると、迷いがあるのが一目瞭然であった。リコはまっすぐにみらいの目を見つめていった。
「みらいの辛い気持ちはよく分かるわ。でも、闇の結晶を全部集めて浄化しないと、魔法界が危険なの。魔法界の平和のために一緒に戦ってほしいの」
リコに言われると、みらいは可愛らしい表情に凛々しさをそえて頷く。迷いがなくなったわけではないが、今はリコと一緒に戦おうと決心した。
みらいとリコが手をつなぐと、とんがり帽子と箒のエンブレムが輝く。二人は光の衣をまといもう片方の手をあげて呪文と唱えた。
「キュアップ・ラパパ!!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ