魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
二人の背後から薔薇(ばら)色の光の柱が立ち、それが螺旋に形を変えて流れていく。
「モフ―ッ!」
宙返りするモフルンのリボンに薔薇の光が吸い込まれて輝くルビーが生まれた。
『ルビー!!』
走ってきたモフルンと二人が手をつないで輪になると、
「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」
高速回転と同時に炎に包まれてその姿が消える。そして空中に垂直に立つ真紅のハートの五芒星が現れ、その前に炎と共にモフルンと赤い二人のプリキュアが召喚された。着地と同時にモフルンは離れていく。
「二人の奇跡! キュアミラクル!!」
「二人の魔法! キュアマジカル!!」
二人の背後に強烈な炎が燃え上がった。赤きプリキュアたちの姿を見て、ダークネスの笑みが端に吊り上がって大きくなる。
「そのスタイルでくるのね」
「もう一度聞くわ、本気で戦うつもりなの?」
マジカルの質問に、ダークネスはまるで下らないとでも言うようにうんざりした。
「躊躇(ちゅうちょ)する理由がないわ。わたしたちの勝利は確実なのだから」
ダークネスの言葉も態度も全てがマジカルの癇(しゃく)に障る。
「ウィッチも戦うつもりなの?」
ミラクルがラベンダーの瞳を悲し気に輝かせながら言うと、ウィッチは頬をかいて碧眼であさっての方向を見だした。
「う〜、本当は戦いたくないんだけど、ダークネスがやるっていうから。わたしはダークネスを信じてるから、やるからには本気だよ!」
「やるしかないんだね……」
「ミラクルはウィッチをお願い、わたしはダークネスの相手をするわ」
「うん。マジカル、気を付けて」
二人が身構えるとダークネスは組んでいた腕を解き、ウィッチもそれに合わせて構える。
「かかってきなさい」
ダークネスが言うのを合図にミラクルとマジカルが突出する。ウィッチも同時に前へと動き出すが、ダークネスは腕を下げて脱力した格好のままマジカルを待ち受けた。
「たあーっ!」
「とあーっ!」
ミラクルとウィッチのストレートの拳がぶつかり合う。ミラクルの拳から炎が揺らいでウィッチが一方的に吹き飛ばされた。
「ウキャーッ!? ダメだよこれ〜、ぜんっぜん敵わないよ〜っ!」
飛んでったウィッチが低い草の茂みの中に突っ込んで姿が見えなくなる。
「はぁーっ!」
マジカルはダークネスにキックとパンチの連携で攻める。ダークネスはそれを避けていたが、最後の回し蹴りは腕を十字に組んで防御した。ルビーの圧倒的なパワーで防御したダークネスの体が低空にはじけ飛ぶ。彼女の長い黒髪と背中の赤いマントが吹っ飛ばされる勢いに流されて水平に流れる。ダークネスは途中で地面を蹴って後方に宙返りし、後ろに迫った巨木を踏み台にしてから着地した。すぐ近くでウィッチがお尻をつきだした情けない姿でたおれている。上向きになっているレモンブロンドのポニーテールが動物の尻尾みたいだった。
「あう〜、全然かなわないよ、ダークネスぅ」
「パワーは向こうの方が圧倒的に上よ。正面から戦ったら勝ち目はないわ。しばらくは攻撃せずによけながら相手の動きを見ていなさい」
「え、攻撃しないの?」
「いう通りにやってみて、そうすればきっと分かるからね」
「うん、わかった!」
ウィッチが立ち上がり、ダークネスと並んで身構え、二人は少し前屈みになって走り出し、今度はこちらから向かっていく。そして、ミラクルとマジカルが構えて迎え撃つ。二人のキックとパンチのラッシュが始まった。
「うわ〜っ! こわい〜っ! すっごい風が〜っ!」
ウィッチがミラクルの回し蹴りをしゃがんでよけながら、まるで絶叫アトラクションで怖がっている子供のような声を上げていた。とんでもないへっぴり腰だが、それでも攻撃を避けている。ダークネスも嫌らしい薄笑いを浮かべながらマジカルのパンチと蹴りの連続をひょいひょいと避けている。モフルンとリリンは二人一緒で大樹の幹に隠れて戦いを見ていた。
「やめるモフ! どうして同じプリキュアなのに戦うモフ!?」
「リリンにもよく分からないデビ。悲しいことデビ……」
ミラクルはウィッチがあんまり情けない声を出すので手加減していたが、攻撃がまるで当たらない。少し本気になってもまだ当たらない。ついに全力の力で攻撃し始めるがそれでも当たらなかった。マジカルにも異変があった。
――攻撃が当たらない、全部読まれているの!? そんなことって!?
最初は怖がっていたウィッチが、先ほどのダークネスの言った意味が分かり始める。
「あれぇ、攻撃が見える!」
マジカルの気合と同時に放たれた右の拳がダークネスの左手で弾かれ、同時に懐(ふところ)に踏み込まれる。ダークネスの寸勁のような近距離のボディーブローがマジカルに決まった。
「くはっ!?」
マジカルは足下を引きずるようにして吹っ飛び、止まった場所で腹部を押さえて片ひざを付いた。
ミラクルも回し蹴りをウィッチによけられて、
「ほいっ!」
ミラクルが作った隙にウィッチの変な気合で放たれた蹴りが入る。
「キャアッ!」
「ミラクル!」
マジカルから少し離れた場所にミラクルが落ちて衝撃で地面が少しへこんだ。
「そろそろ理解できたかしら?」
ダークネスが笑みを浮かべながら赤い瞳に冷酷な光を映して言った。ミラクルはあまりのことに訳が分からなくなる。
「何で? どうして攻撃が当たらないの?」
「まさか……」
ミラクルが助けを求めるようにマジカルを見つめる。
「ダークネスとウィッチより、わたしたちの方が劣るってことなの?」
「いえ、力は互角だと思うわ、でも……」
「マジカルは少しわかってきたようね」
ダークネスが近づくとマジカルが立ち上がって身構える。ダークネスは少し距離をおいてミラクルとマジカルの中間あたりに立つと言った。
「あなた達は今まで、ダイヤとは別のスタイルになる事で単純にパワーアップできると思っていたんでしょう。ヨクバール程度が相手ならば気づかなくても仕方がないわ。でも、同じプリキュアを相手にした時にそれは一変して致命的な弱点になる」
「弱点? 弱点てなんなの!?」
底知れないダークネスに弱点などと言われて、ミラクルは少し怖くなっていた。
「分からないなら教えてあげるわ。プリキュアとしての総合的な能力はどのスタイルも一緒なのよ。スタイルが変化すると能力の割り振りが変わる。ルビースタイルはパワーが上がる代わりにスピードが下がっているわ。だから動きを簡単に見切ることができた」
「そんな、ルビーにそんな弱点があったなんて……」
「サファイアとトパーズがどんな能力を持っているかは知らないけれど、秀でた能力と引き換えに弱点が存在することをよく覚えておきなさい!」
ダークネスの確信に満ちた言葉がミラクルの胸に突き刺さり愕然とさせる。今までの敵では知りえなかったスタイルチェンジの弱点がダークネスたちと戦ったことで露見したのだ。ダークネスはマジカルの方を強く指さして言った。
「どんなにすごいパワーでも当たらなければ意味はないわ。そのスタイルになった時点で、あんたたちの敗北は確定している!」
「まだ勝負が決まったわけじゃないわ!」
マジカルが地を蹴り、そのパワーで靴跡が地面に深く刻まれる。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ