魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「チクルンとやら、助けてほしいデビ」
「このままだとみらいとリコが危ないモフ」
「まってろ、いま助けてやるからよ」
チクルンはモフルンたちの後ろ側に回って縄の結び目に手をかけて解こうとするが、びくともしない。
「ぬくく、かてぇ……」
「キュアップ・ラパパ! 草よ巨人を捕えなさい!」
いきなり魔法の呪文の声が森に響いた。ボルクスの周囲の草が急に伸びて巨体に絡みつく。それは小百合が不意打ちで放った魔法だった。突然のことにボルクスは慌てる。
「な、なんだこりゃ!?」
「今よ、みらい、ラナ!」
みらいは走り、ラナは箒に乗ってボルクスを出し抜こうとする。
「そうはさせるか!」
ボルクスは全身に巻き付く草を引きちぎって立ち上がり、まず手をあげて上を飛んでいこうとするラナの進入を防いだ。ラナはボルクスの大きな手のひらにあたって跳ね返る。
「うわぁっ!?」
ボルクスの横をすり抜けようとしたみらいも、目の前にいきなり大きな手の壁が現れて慌てて止まる。
「この小娘ども!」
少女たちを捕まえようと二つの大きな手が伸びてきて、みらいとラナに迫る。
「キュアップ・ラパパ! 石よ飛んでいきなさい!」
リコの魔法で飛んだ複数の小石がボルクスの顔に当たって少しばかり彼の動きを止める。ボルクスにダメージはほとんどないが、当たってくる小石がうっとうしくて顔をしかめていた。その隙に小百合が魔法を使う。
「キュアップ・ラパパ! 枝よのびなさい!」
ボルクスの周囲の木の枝が激的にのびて、葉の付いた枝が左右から迫って巨体を絡めとる。枝はどんどん伸びて複雑に交差し、ボルクスを閉じ込める樹木の檻になった。
「キュアップ・ラパパ! 草よのびて!」
とどめとばかりにみらいが魔法を使い、地面の草が伸びてボルクスの足に厚く巻き付いた。ラナもひまわりの杖をだして振ろうとした。
「よ〜し、わたしも! キュアップ」
「あんたはダメーっ!!」
小百合が慌ててラナの手を押さえて魔法を阻止した。
「わたしにもなんかやらせてよ〜っ!」
「だったら箒で何とかしなさい!」
「むぅ、やってやる〜っ!」
ラナはほとんどやけになって箒にまたがると、急上昇して上をおおう葉の天井を突き抜けていく。小百合は予想外のラナの行動に卒然(そつぜん)となってしまった。小百合は気を取り直してまっすぐ前を見つめる。今はラナの謎の行動にかまっている暇などなかった。みらい、リコ、小百合がボルクスに向かって走り出す。巨人の横をすり抜けてモフルンとリリンのところに行こうとしていた。
少し離れて様子を見ていたフェンリルは苛々する。
「人間相手に何やってんだい! さっさとヨクバールを召喚しろ!」
「こんな小娘どもにヨクバールなどいらん! ぬおーーーっ!」
フェンリルの声が聞こえたのか、ボルクスが叫んで全身に力を込める。接近してきた少女たちの目の前でボルクスは剛力で枝の檻を引き裂いて吹き飛ばした。少女たちに折れた枝や葉っぱが降りかかって小さな悲鳴が上がる。さらにボルクスが片手を思い切り振ると、その手が起こした風圧で少女たちは吹き飛ばされた。3人は悲鳴をあげて草花の園に転がった。
「よし、いいぞボルクス、そのまま潰しちまえ!」
フェンリルが少女たちとボルクスの攻防に熱中している時に、チクルンがようやく縄の結び目を解いていた。
「よし、外れたぜ!」
モフルンとリリンを縛る縄がゆるんだ。
ボルクスは足元の草など意にに介せず、草の縄を断ち切って足を踏み出す。
「もう少しだったのに」
小百合が立ち上がって魔法の杖を構えると、みらいとリコもそれにならった。しかし、状況は厳しい。先ほどは不意打ちでボルクスにうまく魔法で攻撃できたが、今度はそうはいかない。
「覚悟しろ娘っ子ども……あれ一人足りねぇな。まあいいか」
ボルクスが大股で一歩踏み出した時、リリンが彼の肩の上あたりを飛んで越え、モフルンが彼の足元を横切っていく。
「モフ、モフ」
「デビ〜」
「リリン!?」
「モフルン!?」
小百合とみらいが同時に叫ぶ。
「なあにぃっ!? どうやって縄を抜けやがったんだ ぬいぐるみども!?」
ボルクスの巨大な手が2体のぬいぐるみに迫り、もう捕まる寸前だ。小百合たちにはどうしようもできない。
「このやろーっ!」
チクルンが飛んできて小さな白い花をボルクスの鼻に突っ込んだ。
「チクルン!?」
今度はリコが叫んだ。ボルクスは盛大なくしゃみをして鼻の異物とチクルンを吹き飛ばした。小百合とみらいがぬいぐるみに向かって走り出す。
「ええい、逃がすかーっ!」
ボルクスが両手を伸ばして走り出すと、その背後に箒に乗ったラナが葉っぱにまみれて降りてくる。
「とりゃ〜っ!」
ラナは箒の筆から星屑を噴射してとんでもない勢いで飛び出し、ボルクスの後頭部とラナの箒の柄先が激突し、ラナは箒と一緒に前に吹っ飛んだ。
「うわ〜っ!?」
ラナが小百合の真横に花びらを散らしながら転がり込んだ。同時にリリンは小百合の胸に飛び込み、モフルンはみらいに抱き上げられて元の鞘に収まった。
「あ〜、びっくりしたぁ」
頭の上に花びらを乗せたラナが起き上って見ると、ボルクスは後頭部を押さえてうずくまっていた。
「ぐおお……」
「あれ? おっきいおじさんどしたの?」
「ラナ、よくやったわね!」
「なんかわかんないけど、ほめられた〜」
「小百合、変身するデビ」
「みらいも変身モフ」
4人の少女が頷き、それぞれが左手と右手を結んで残った手を上に。
『キュアップ・ラパパ!』
4人の声が重なった。みらいとリコは光の衣を身にまとい、モフルンと3人で手をつないでゆっくりまわる。
『ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!』
モフルンの体に輝くハートが点滅すると、ダイヤからあふれた光が周囲を照らし、星とハートが降り注いだ。
小百合とラナは黒い衣を身にまとい、飛んできたリリンと手をつないで3人で輪になると、リリンの体で黒いハートが点滅する。3人は星降る闇の中に回転しながら落ちていく。
『ブラック・リンクル・ジュエリーレ!』
宙に星と月の六芒星とハートの五芒星が隣り合って現れ、その上に宵の魔法つかいと伝説の魔法つかいが召喚された。4人が魔法陣の上から同時に跳んで着地してからポーズを決める。
「二人の奇跡、キュアミラクル!」
「二人の魔法、キュアマジカル!」
「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」
「可憐な黒の魔法、キュアウィッチ!」
四人のプリキュアが現れ、それを見たチクルンが目を丸くする。
「なんだ、数が増えてるぜ!?」
離れたところ様子を見ていたフェンリルは呆れてしまった。
「ボルクスめ、あそこまでお膳立てしてやったのに失敗するとは……」
その時に巨体の影が4人のプリキュアにおおいかぶさった。
「プリキュアめ、俺の力を思い知るがいい!」
『はーっ!!』
4人同時の跳び蹴りがボルクスに炸裂した。
「ヌオ――――ッ!?」
巨体が折れ曲がって超速飛行して、屈強な体で激突した樹木を次々とへし折ってから大の字に倒れた。ボルクスは完全に目を回していた。
「いくら力自慢のオーガでも、4人のプリキュアが相手じゃそうなるわな……」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ