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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 白猫はみらいの想像できない素早い動きで跳んで、みらいのショルダーバッグにしがみ付いて中に頭を突っ込んだ。それはほんの一瞬のできごとで、みらいが気づいた時には目の前で白猫が黒い結晶を口にくわえていた。
「その黒い結晶は、わたしのバッグの中からとったの!?」
 白猫フェンリルは首を振って近くの桜の木に黒い結晶を投げつけた。桜の木の太い幹に結晶がくっつくと、フェンリルは猫の手でタリスマンを触っていった。
「ロキ様から頂いた闇の魔法とやらを使ってみるかねぇ」
「闇の魔法!?」
 みらいにとって信じられない言葉がフェンリルの口から出てきた。座っていたフェンリルは四肢で立ち、頭を低く地面に前足の爪を突き立てて、相手を威嚇するような態勢になって叫んだ。
「いでよ、ヨクバール!」
 フェンリルの声に反応しフェンリルのタリスマンから闇の波動が広がる。その瞬間、フェンリルは苦しそうに顔を歪めた。フェンリルのタリスマンから魔法陣が浮き出て、それがゆっくり回転しながら空へと上昇してゆく。同時に魔法陣は見る間にその面積を増し、ついに上空に巨大な闇の魔法陣が刻まれた。そして、闇の結晶を宿した桜の木が恐ろしい吸引力で闇の魔法陣に引かれ、地にはった根っこごと引きはがされた。桜の大木と闇の結晶が魔法陣の中心に吸い込まれると、竜の骸骨が現れて巨大な口を開く。竜の骸骨が魔法陣から離れると、同時に闇の魔法陣から恐ろしい影が引き出されていく。その黒い影があれよという間に形を成す。影が長く伸びて両手両足となり、人のような姿になっていく。唐突に影が晴れると頭が竜の骸骨の木人が現れた。
「ヨクバアァーーーールッ!!」
 その凄まじい声でみらいの体が震えた。突然現れた化物の姿を見て、辺りにいる人々が声を上げて逃げ出していく。みらいだけがその場から動かずにヨクバールを見ていた。体そのものが凹凸のある樹木そのもので、頭と背中から無数に突き出る枝から桜の花を咲かせ、竜の骸骨はときどき青い炎を吐き出す。そして、何もないドクロの目の中に異様に輝く赤い光が現れてみらいを睨んだ。
「こ、これがヨクバール!? こんなの見たことない……」
 目の前にいるのは、みらいがかつて戦ったヨクバールとは次元の違う怪物であった。みらいは心底怖くなって後ずさった。プリキュアであった頃なら強く立ち向かえたが、今はその力は失われているのだ。
 フェンリルが歩いてきてヨクバールの足元に座った。
「命が惜しければ、あんたが持っている闇の結晶をおいて立ち去りな」
「闇の結晶って……」
「あんたのバッグにしこたま入ってるだろ」
「これ、闇の結晶っていうんだね」
 みらいはバッグを抱き込んでフェンリルと対峙する。彼女の強い気持ちがラベンダーの瞳の輝きに現れていた。
「どうしたんだい、さっさとそいつを渡しな」
「これは絶対に渡さない!」
「なんだって? あんた命が惜しくないのかい?」
「あなたが何者かも知らないし、これが何なのかもわからない。でも、あなたが悪者で、これを悪いことに利用しようとしていることはわかるよ。だから、これは渡さない!」
 フェンリルは目を細くして侮る笑みを浮かべる。
「まったく人間てのはよくわからない生き物だね。まあいいさ、渡さないというなら奪い取るまでだ」
 みらいが走り出すと、バスケットの中のモフルンがもう少しでこぼれ落ちそうになった。それに気づいたみらいは、バスケットを捨ててモフルンもバッグと一緒に抱えて逃げる。
「逃げられるものか、行けヨクバール! あの娘から闇の結晶を奪い取れ!」
「ギョイ―ッ!」
 竜骨の仮面をかぶった異様な木人が一歩ごとに地鳴りを起こしながら動き出す。みらいはときどき後ろを振り返りながら走り続けていた。そして急に曲がって、一本の桜の木の陰に隠れる。ヨクバールはみらいの姿を見失って竜の骸骨を左右に振った。フェンリルがヨクバールの巨体を素早く駆け上がって肩に乗り、辺りを見渡しつついった。
「隠れたって無駄さ、人間ごときがヨクバールから逃げ切れるはずがない」
 フェンリルは桜の木の陰にみらいの姿を見つけると、口の端を歪めて牙を晒し、怖い笑みを浮かべる。
「そこだ!」
 敵に見つかったことを悟ったみらいは、公園の道を全力で走り出した。フェンリルは遥かに高い場所から逃げてゆくみらいの背中を見つめていった。
「ちょこまかと面倒くさい、ヨクバール、一気にやっちまいな!」
「ヨク――ッ!」
 ヨクバールが竜の咢を開き、その奥にある黒い渦を巻く空間に急激な勢いで空気が吸い込まれていく。同時に間近にある桜の木から花まで根こそぎ引きちぎって飲み込んでいく。まるで後ろ髪を引かれるような異様な空気の動きを感じたみらいは、一瞬後ろを振り返ると、大口を開けてこちらを睨むヨクバールの姿が目に飛び込んできた。みらいは全力を振り絞って走り続けた。
「ヨクバァ―――」
 ヨクバールが奇妙な雄叫びと共に、渦を巻く花吹雪をみらいに向かって吐き出す。美しい見た目とは相反する常識では考えられない威力の竜巻がか弱い少女に襲いかかる。唐突に背中から暴風を受けたみらいは、成す術もなく桜吹雪の竜巻に巻き込まれて上空に吹き上げられる。
「ひゃあぁ―――っ!?」
 そんな状態でもみらいはショルダーバッグを放さずにしっかり持っていた。
 フェンリルは強烈な竜巻に巻き込まれて螺旋状に昇っていくみらいを見上げて言った。
「いいかげんに闇の結晶を渡しな! このままじゃ、あんた本当に死んじまうよ!」
「絶対にいや!」
「なんて強情な娘なんだい!」
 フェンリルは舌打ちをして考えた。
――人間の小娘ごときを殺してまで闇の結晶を奪うんじゃあさすがに後味が悪い。そこまでしなくても、闇の結晶を奪うのはわけもない。いったん攻撃を止めさせるかね。
 荒れ狂う花吹雪の中、みらいは凄まじい風圧でろくに息もできないような状態だった。首から下げているピンクのペンダントは強風で空を舞い、次第に腕の力が失われ、ついにモフルンがみらいの腕から離れて花吹雪と一緒に巻き上げられてしまう。
「モフルン!!」
 みらいは離れていくモフルンに向かって必死になっていっぱいに手を伸ばすが、モフルンは無数のはなびらと一緒に、それよりもはるか高い上空へと飛ばされていく。
「モフルン……」
 みらいはもう一度その名を呼んだ。ただの少女でしかない今のみらいでは、どうにもしようがなかった。みらいには、こんな時に助けてくれる親友がいる。しかし、彼女がここに現れる可能性は万に一つもない。みらいにはそれが嫌というほどに分かる。このままではモフルンと離れ離れになってしまう、そしてそれはもう避けられない事実となりつつあった。絶望的な状況にみらいのラベンダーの瞳が潤み、涙が滲んだ。もうみらいは何も考えられなくなり、周囲の音まで感じなくなった。あるのはただ、大切な大切な家族のモフルンが失われるという絶望感だけだった。