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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 魔法商店街の中央の広場に向かってオッドアイの美少女が鼻歌混じりに歩いていく。彼女の姿とそこから漂ってくる匂いが商店街の人々の視線を釘付けにしていた。フェンリルが両手に乗せている銀の大皿の上に巨大なステーキが乗っていた。ほのかに温かいミディアムレアの大肉は一口大のサイコロ大に切ってあり、特製のソースと焼けた肉の合唱する香りが人々をたまらない気持ちにさせた。フェンリルがその立派なステーキをどこにもっていこうとしているのか誰もが気になった。
 フェンリルが中央の広場に姿を現すと、街のシンボルの猫の像の周りに集まっていた猫たちが騒ぎ出す。
「来たにゃ」
 ロナが言うと、他の猫たちがフェンリル様、フェンリル様と口々に叫ぶ。その言葉が理解できるのはフェンリルだけで、周りで見ている人間たちにはニャアニャアとしか聞こえていない。
「ようお前たち、待たせたね」
 フェンリルが猫の集団の中に銀のさらを置くと、周りで見ていた人々は仰天した。猫にやるくらいなら自分に食わせろと思った人は一人や二人ではなかった。猫たちは夢中になって肉を食べて食べて食べまくる。その様子に見ていた何人かが唾を飲み込んだ。
「フェンリル様、こんなごちそうもらっていいのかにゃ? このごろは闇の結晶がぜんぜん見つかっていないのにゃ」
 ロナがフェンリルの足元に座って言った。
「これは今まで頑張ってくれたお礼さ。お前も遠慮しないで食べろ」
「はい、いただきますにゃ!」
 フェンリルは無数の猫の鳴き声を聞きながら夢心地な気分になった。猫の鳴き声がフェンリルの耳には、美味しい美味しいという言葉に聞こえる。彼女はそこに宝物があるとでもいうように、大事そうに胸に両手を置いて言った。
「ああ、なんだこの気持ちは、美味しいと聞くたびに胸の辺りが温かくなる。料理って楽しいなぁ」
 猫たちに餌をやった後は、読書の時間になった。フェンリルはプリキュアたちの訳の分からない行動を理解しようと、人間たちの本を読みあさっていた。
 彼女は広場のベンチに座って猫たちに囲まれながら本を読んでいる。子猫がフェンリルの体をよじ登って頭の上に乗っかった。それにも気づかないフェンリルが、片手に持った本を勢いよく閉じるとパンと音がなる。
「愛してるだの友情だの書いてあるかと思えば、やれ恨めしいだの憎いだのと意味が分からん。どっちなのかはっきりしろ!」
 フェンリルは本を横に置いて考えた。
「人間の本を読んでいる限りだと恨みや憎しみで協力して敵を倒せるとは思えない。しかし、あいつらはやりあっていたぞ、憎み合っているってことじゃないのか? けど、それじゃあ協力はできないしな……」
 考えた末に、フェンリルは頭を抱え込んだ。
「あーっ、もう、わからん!! ……もう少し人間の書いた本を読んでみるか」
 この時にフェンリルは頭の上に子猫が乗っているのに気づくと、小さくてふわふわの体を両手で包んで静かに下に置いてから立ち上がった。
「ほら、お前たちどきな、踏みつぶしちまうよ」
 フェンリルはそう言いつつ、集まっている猫たちを踏まないように気を付けて歩いていた。

「ただいま〜っ!」
「ただいまデビ!」
 家に帰ると小百合は相変わらず勉強に打ち込んでいた。二人が入ってきても気づかず黙ってペンを動かす。
「小百合がんばりすぎだよ〜、少し休もうよ」
 小百合は無言で教科書のページをめくる。
「お〜い、小百合っ!」
 小百合はペンを動かしノートに何事か書き込み始めた。ラナの声などまったく聞こえていない。ラナはまるで無視するような小百合の態度に「ぷうっ!」と頬を膨らませた。
 ラナはキッチンの方に行くとガチャガチャやり始める。そして小百合の目の前、教科書の上にリンゴジュースの入ったコップをドンと置いた。
「はぁっ!?」
 無心に勉強していた小百合がペンを放して声をあげる。面食らって目を丸くしている小百合をラナがふくれ面で睨んでいた。珍しく小百合の方がラナに怯んだ。
「な、なによ……」
「小百合ったら、さっきから呼んでるのに全然気づいてくれないんだもん!」
「わるかったわね。集中すると周りが見えなくなる質なのよ、あんただって知ってるでしょ」
「見えなすぎだよ! わたしさびしいよぅ……」
「わ、わるかったって言ってるでしょ」
「じゃあ、お休みしよう! 一緒にお茶のもう!」
「仕方ないわね……」
「罰として今日はお勉強禁止だから〜」
「なんでそうなるのよ!?」
 ラナは小百合の意見など聞かずに、キッチンにいって自分の分のジュースを持ってきて小百合の正面に座った。そしてにぱっと笑顔になると、小百合は文句がいえなかった。ラナのあまりにも無邪気な笑顔の前に小百合は敗北したのだった。
「はぁ……」
 すっかりラナのペースにはまった小百合はため息をついた。仕方ないと思って小百合がリンゴジュースに手を伸ばすと、ラナはしゃべり始める。
「さっきね、チクルンを魔法学校まで送ってあげたんだよ」
「魔法学校に?」
「大丈夫だよ、みらいやリコとは会ってないから」
 慌てて言うラナを小百合が見つめる。そこへリリンが小さなコップを持ってきて飛んでくる。小百合が自分のコップのジュースをリリンの小さなコップに注ぎ分けてあげる。
「ありがとうデビ!」
 それから小百合が言った。
「別にそんなこと心配してないわよ。あの蜂みたいな妖精はみらいとリコとも知り合いなのよね?」
「チクルンだよ。モフルンとすごく仲がいいみたいなんだ〜」
「ふうん」
 小百合は興味なさそうに言った。それからラナは次から次へとおしゃべりしまくった。最初は勉強を邪魔されて少し機嫌の悪かった小百合だったが、ラナの話を聞いているうちにいつの間にか楽しくなっていた。

 ラナから今日の勉強を禁止されてしまった小百合は、それならばとエリーの家へとおもむいた。
 エリーの指導の元に小百合はだいぶ箒で飛ぶのがうまくなっていた。彼女にとってまったく出来ない事があるのは屈辱で、ものすごく努力したのだ。
「いいわよ小百合ちゃん! その調子よ!」
 箒にまたがる小百合の下からエリーの声が聞こえる。それで下を見た小百合は足がすくんだ。下から見上げているエリーとラナの姿は豆粒くらいになっている。
「うう、こ、この程度の高さで何を怖がっているの! もっと気合を入れなさい、小百合!」
小百合は叫びながら思い切ってさらに上昇する。春風に打たれて恐怖を感じて体が震える。普通の精神状態なら心地の良い風だが、小百合にとっては自分を箒から落とそうとする狂風だった。
「ひいぃっ!? こんなに高く飛ぶんじゃなかった!」
 弱音をはく小百合を下から追い抜いてきたラナが周りをグルグルまわる。
「すごいよ小百合、こんなに高く飛べるなんて!」
「くうっ、目障りな……」
 今の小百合はそういうのが精いっぱいで、怒ったり怒鳴ったりする余裕などない。今度はエリーが箒に乗って飛んできて、小百合のすぐ隣に止まって言った。
「やったわね、小百合ちゃん。ここまで出来ればもう大丈夫よ」
「エリーさん、本当にありがとうございました」