魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
若い男性の言葉を聞いた二人は公園で何が起こったのかすぐに理解する。
「きっとヨクバールが現れたんだわ。ラナ、行くわよ!」
「うん!」
小百合が走って公園に逆戻りすると、ラナは食べかけのイチゴメロンパンを口にくわえながら付いていった。
二人のプリキュアとヨクバールがにらみ合っている間に、フェンリルはヨクバールの体を駆け下りて地上に立った。相手がプリキュアでは一方的な展開は望めそうにない。戦いが激しくなれば、ヨクバールの近くにいるのは危険だと判断したのだ。
「プリキュアが現れたのにはちょいと驚いたが、ここで倒しちまえばいいだけのこと。行けヨクバール! プリキュアどもを叩き潰しな!」
「ヨクバァーーールッ!」
獣の咆哮に近い声が公園中に響き渡る。その姿を見ながらマジカルは言った。
「なんなのよあのヨクバールは、今までのとはぜんぜん違うわ」
「ちょっと怖いよね……」
ミラクルは竜頭の骸骨に睨まれて少しばかり怯んでいた。それから二人は表情を引き締めると同時に地を蹴ってヨクバールに迫っていく。
『たあーーーっ!』
「ヨクーッ!」
突っ込んでくるマジカルに対して、ヨクバールは樹木で創成された体を軋(きし)ませながら、歪(いびつ)な節のある大きな拳を振りかぶる。そして、マジカルのしなやかな拳とヨクバールの凸凹のある拳がぶつかりあった。
「ヨクバールッ!」
雄叫びと共に、ヨクバールはマジカルを力でねじ伏せて拳を振り抜く。一方的に力負けしたマジカルは簡単に吹き飛ばされた。
「キャァーッ!?」
地上に墜落したマジカルは、その身で地面を削りながら蛇を思わせるように長い埃の道を生み出す。
「マジカル!?」
ミラクルはマジカルを心配しつつも、怯まずにヨクバールに向かっていく。
「このーっ!」
ミラクルの飛び蹴りがヨクバールの腹部にめり込むが、それだけでヨクバールは意にも介していなかった。
「ええっ!?」
ミラクルが驚いてまごついている間に、ヨクバールの巨大な手が迫り、ミラクルを捕まえてしまう。ミラクルは脱出しようともがくが締め付けてくるヨクバールの手はびくともしない。異様な浮遊感と激しい重力の変化の末に、ミラクルは地面に叩きつけられた。ミラクルのか細い体の下で地面が砕け、粉塵が巻き上がる。
「くうぅっ……」
もうもうと吹き上がる土埃の中でミラクルが苦しそうにうめいた。
小百合たちは、まさにこの瞬間に戦いの場へと駆けつけていた。叩きつけてくる暴風と土埃を桜の木の陰に隠れてやりすごし、小百合とラナは太い幹から顔を出し、リリンも小百合の鞄から体半分はい出してくる。
「怖そうなヨクバールデビ」
「誰かが戦っているようね」
「うそ!? だれだれ!?」
と言った後に、ラナはパフっと残り半分のイチゴメロンパンにかぶりつく。それを見て小百合は呆れ顔になった。
「あんた、まったく緊張感がないわね……」
ヨクバールが樹木の体から奇妙な音をたてながら足を上げる。その影が倒れているミラクルにかぶる。ヨクバールがミラクルを踏みつぶそうとすると、風を切り花びらを巻いて走ってきたマジカルが跳んだ。
「たあーっ!」
マジカルの跳び蹴りがヨクバールの骸骨の眉間に炸裂、これは少し効いた。片足を上げていたヨクバールはよろけて後退し、上げ足を引いた。だが引いた足を地面に付き、踏ん張りを効かせて平手を打つ。空中にいて無防備なマジカルは腕を十字にして防御の態勢をとるのがやっとであった。ヨクバールの平手で叩き落とされたマジカルは、近くの桜の樹に激突し、樹齢数十年の太い樹の幹を真っ二つにへし折った。マジカルは全身を痺れさせるような衝撃を受けて、折れた樹の幹に体を預けながら辛そうに片目を閉じていた。マジカルは体の痛みを押してミラクルに駆け寄って助け起こす。
「ミラクル、大丈夫?」
「ありがとう、マジカル」
ミラクルはマジカルの手を取り立ち上がる。そして二人のプリキュアが再びヨクバールと対峙する。
「以前のヨクバールとは段違いの強さだわ」
「攻撃が全然効かないよ、マジカル、どうしよう……」
「アッハハハハ! わたしのヨクバールを倒すにはパワー不足だねぇ」
遠巻きに悠々(ゆうゆう)と戦いを見守っているフェンリルがあざ笑う。しかし、ミラクルもマジカルも諦めている様子はなかった。
この時に、小百合とラナはヨクバールと戦っている者の姿をはっきりと見た。ラナは驚いて声もないという様子だったが、小百合は特に何も感じていないような無表情である。
「あれは……」
「プリキュアデビ」
「そうだよ、プリキュアだよ! わたしたち以外にもプリキュアがいたんだよ! やられてるみたいだから助けてあげようよ!」
「ダメよ! 敵か味方かも分からないのに助ける事なんてできないわ」
「そんな、どうして!? 味方に決まってるよ、わたしたちと同じプリキュアなんだよ!」
「はっきりとしたことが分かるまでは軽率(けいそつ)な行動をするべきではないわ。それに、わたしたちが助けるまでもないわよ」
「ええ〜、だって、やられてるじゃん。あの二人って、わたしたちより弱いんじゃなあい?」
「そんなことはないと思うわ。一対一で戦ってるから負けてるだけよ。ヨクバールは一人でどうにかなる相手じゃないの」
「え? そうだったの? わたしぜんぜん知らなかった!」
「……あんたもヨクバールとガチンコ勝負してぶっ飛ばされてたじゃないの」
「あ〜、前にそんなことがあった気がするね」
「それがあったのは昨日よ!」
小百合はすっかりラナにペースを乱されてしまったが、とにかく気を取り直して見知らぬプリキュア達を見守る。
ミラクルとマジカルは顔を見合わせて頷く。それで十分だった。この二人は互いに何を考えているのか手に取るようにわかる。
ミラクルとマジカルが同時に走り出す。二人は大きく弧を描き交差して、そして跳ぶ。
「何度やっても結果は同じさ」
フェンリルが余裕しゃくしゃくで尻尾をやんわり動かしていると、同時に跳躍した二人の拳が気合の一声と共に同時に骸骨の眉間にめり込み、後頭部に衝撃が突き抜けると同時にヨクバールの仮面にひびが入る。
「ヨク、バール!?」
ヨクバールの巨体が傾(かし)いで地鳴りと共に背中から倒れ込む。余裕を見せていたフェンリルの様子が一変した。
「なにぃ!?」
ヨクバールが起き上ってくると、ミラクルの目の前に不思議なステッキが現れる。それは柄の部分がピンク、ステッキの部分が白、先端にハート型のクリスタルが付いていて、中央にはダイヤのリンクルストーンが入っていた。
「リンクルステッキ!」
ミラクルはステッキを手に取り、それを高く頭上に。
「リンクル・ガーネット!」
ミラクルの魔法の言葉に反応して、中央のリンクルストーンがダイヤからオレンジ色の宝石に入れ替わる。すると、立ち上がったヨクバールの足元が歪んでまるで海上の波のように揺らいだ。バランスを崩されてその場から動けないヨクバールにマジカルが突進し、腹部に拳を叩きつける。しかし、この一発では効果がない。
「これならどう!」
マジカルのラッシュ、拳の連撃で衝撃を与える。最後に一度着地して跳躍。
「はあっ!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ