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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 木の枝た幹にいくつもある窓のような形の隙間から妖精たちが顔を出す。それから、妖精の女王が大木の陰から姿を現す。
「まあ、チクルン!? お前はまた勝手にいなくなったりして! 今までどこに行っていたのですか!」
 女王が怒った顔で両方の人差し指を針のように突き出してチクルンに近づいてくる。
「女王様! お仕置きなら後でいくらでも受けるぜ! いまはおいらの話を聞いてくれ!」
 妖精の女王はチクルンの真剣な目を見て心を打たれた。
「チクルン、お前何だか大きくなったようにみえますね」
「なにいってんだ? おいら大きくなんてなってないぜ」
 チクルンがそんなことを言うと、女王は柔和な顔に微笑を浮かべた。
「お話を聞きましょう」



 ところ変わって、雪と氷に覆われた極寒のひゃっこい島。寒風の中で人の姿のフェンリルが背中に白い翼を開いて前方を飛んでいくアイスドラゴンを鋭い目で見ていた。アイスドラゴンのトカゲを思わせるフォルムの体は青くウロコの代わりに薄い氷に覆われて光沢がある。頭の上から首の後ろと尻尾の先の方に水晶のように透明な角が何本かはえていた。翼は自身の巨体を覆うほど大きく広く、それを動かして飛んでいく姿は勇壮だ。そんな姿かたちに似合わず目は優し気である。
「あいつだ」
 フェンリルは牙を見せて楽し気な笑いを浮かべた。彼女は翼を開き、一気に飛んでアイスドラゴンの前に立ちはだかった。腕を組んでいる細身の少女から放たれる異常な圧力を受けて、アイスドラゴンは宙に止まって翼を開き、大きく吠えて威嚇した。
「お前、飲み込んでいるな、闇の結晶を!」
 フェンリルは首飾りになっている闇の魔法陣のタリスマンを目の前にかざした。
「いでよ、ヨクバール!」
 タリスマンから闇の衝撃が発すると、それを浴びたフェンリルの顔が苦し気に歪む。タリスマンから浮き出た闇色の魔法陣がアイスドラゴンの頭上で大きく広がり、空が一瞬で暗雲に覆われる。魔法陣の中央にたたずむ竜の骸骨の目が光ると、闇の結晶を飲み込んでいた巨大なアイスドラゴンが成す術もなく竜のあぎとの奥に吸い込まれていった。
 魔法陣の竜の骸骨が現実のものとなって現れると、一気にその体が魔法陣の中から出てきた。体が青黒いアイスドラゴンよりも二回りも巨大になった怪物が翼を開いて吠えた。
「ヨクバアァーーーールッ!!」
 その手と足には鋭い氷の爪が異様に光り、頭や尻尾にある無数の角も太く恐ろしい凶器になっていた。
「こいつは使えそうだねぇ」
 フェンリルは猫の姿になってヨクバールの背中に降りると言った。
「いけ、ヨクバール!」
 フェンリルを乗せたヨクバールが大きな翼を羽ばたかせ、控えめに海上に漂う無数の浮島や、巨人が横たわるように厚く低く垂れこめる雲の間にある水平に向かって飛んでいった。


 
 薄い闇の中で玉座に座っていたフレイアが顔を上げる。
「バッティ」
「はっ!」
 バッティはどこまでも紳士的な態度でその場で身を低く主をあがめた。そんな彼にフレイアは静かに言った。
「小百合がセスルームニルを出ていきました」
「なんですって!? プリキュアにもなれないというのにバカなことを……」
「追いかけて、もしもの時は助けてあげて下さい。正し、本当に危なくなるまでは手出ししてはなりません」
「御意!」
 バッティは主をあがめる姿のまま消えていなくなった。



 小百合はまだあまり慣れていない箒で精いっぱいスピードを出して飛んでいく。闇の結晶をとにかく集めたいと思っていた。小百合は自分が無鉄砲だと分かっていたが、そうせずにはいられなかった。ラナを傷つけてしまった贖罪(しょくざい)として、自分の愚かさを戒めたくて、何かせずにはいられない。それは同時に今の小百合の気持を慰め、落ち着かせることにもつながっていた。
「何なのこの感覚は、まるで体の一部がないみたいだわ……」
 ラナが近くにいないことで、小百合はどうしようもない違和感に襲われる。ラナはいつも変なことばかり言って、小百合を怒らせたり困らせたりしているのに、それがなくなると途轍もなく空虚だった。ラナがいなくなって、自分にとってラナがどんな存在だったのか殴られるくらいの衝撃と一緒に小百合は理解した。
「ブラックダイヤが悲しんでるデビ」
 小百合の腰の大きなポシェットからリリンが顔を出して両手で持ったリンクルストーンを眺めていた。
「どうしてリンクルストーンなんて持ってきたのよ。プリキュアになれないんだから、余計な荷物になるだけでしょう」
 小百合の自分に対して苛ついている気持ちが出てついきつい言い方になっていた。
「そんなこと言っちゃだめデビ! プリキュアになれるとかなれないとか関係ないデビ! リンクルストーンはいつでも持ってなきゃいけないんデビ! それはプリキュアに選ばれた小百合の責任デビ!」
 リリンが眉を怒らせて言った。小百合はリリンに怒られるなんて思ってもみなかったので、たじたじになってしまった。
「わ、わかったわよ」
 それから小百合はラナのいない違和感の中で闇の結晶を一人で探し始めた。すると、すぐに小さな島にある大きな樹を見つけて近づいた。それは杖の樹だと小百合にはすぐにわかる。全ての杖の樹はほかの植物とは明らかに異なる雰囲気を持っていた。その感じ方は人によって違うが、まるで母親のような温かさを杖の樹から感じる。小百合はまるで子を抱こうとする母親のように枝葉を開いている大樹に吸い寄せられた。
「こんな小さな島にも杖の樹があるなんて……」
 人のいない場所に杖の樹があるのは珍しいことだ。杖の樹は魔法界の新しい命に魔法の杖という息吹を与える存在だ。だから人と共にあるのが普通だった。
 小百合は人のいない小島にある子の杖の樹が寂しそうに見えた。しばらくそれを見つめていると、春風にのって何かが聞こえた。
 ――あなたは酷い子だわ。
「だれ!?」
 ――大切な人を傷つけた、それは許されないこと……
 その不思議な声に、小百合は胸を鷲づかみにされる苦しさを味わった。
「あなたなの? おめがい、やめて……」
 小百合は杖の樹に向かって言った。声はまだ聞こえていた。
 ――あなたは優しい子、あなたは聡明な子、あなたは人の痛みがわかる子。だから、もう間違えないで……。
 小百合は杖の樹のささやきに耐えられず、箒に乗ってその場から去ってしまった。杖の樹の声は死んだ母親にそっくりだった。



 一人で箒に乗って空を飛んでいると、どうしてか体が震えてくる。リコはその奇妙な感覚に戸惑いながらも、その原因がみらいが近くにいないことは理解していた。
「わたしは怖いの? プリキュアになれないから?」
 リコが自分に問いかけ、薄い雲を突き抜けた時に、その問いかけは自分の心に正直でないと強く感じる。リコは心に穴が開いたような虚無感の中で訳の分からない恐怖の正体を悟った。
「プリキュアになれないとか関係ないわ。みらいが近くにいないから……」
 みらいがいない事と、みらいは永遠に目覚めないかもしれない現実が、リコに無意識の恐怖を与えている。リコがどんなに気を強く持っても体の震えが止まらなかった。
「リコ、やっぱり戻った方がいいモフ」