魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
あんな恐ろしいお告げを聞いても平常なリズに水晶は驚いていた。まるで校長が目の前にいるようだと、彼女は思わずにはいられなかった。
校長は部屋の中に死屍累々と遺体が積みあがっている状況を想像していたが、足を踏み入れた巨大なドームの部屋には何もなかった。
「人の存在を消すなど造作もないということか。この部屋で命を絶った者は幸運だったのかもしれぬ。恐らく、痛みを感じる間もなく消されたことだろう」
今まで校長が見てきた遺体には、明らかに苦しんで死んでいった痕跡(こんせき)があった。
部屋の一番奥に大きな扉が見えた。校長がそれに向かっていくらか歩んだ時に、円形の石床全体に巨大な魔法陣が刻まれていることに気づいた。それはあまりに大きく全容を把握するのに少し時間がかかった。そして校長はそれの正体に気づくと声をあげた。
「これは!!?」
六芒星の周りに赤い六つの星が配置された途方もなく大きな魔法陣、そして六芒星の中心にある六角形の中に、伝説の魔法つかいを現す五芒星魔法陣が描かれていた。ただ一点違うところがあり、五芒星の中央に赤い三日月が入っている。つまり、伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいを現す二つの魔法陣を合わせた形になっていた。それを見て校長は、自分が求めている答えがここにあると確信した。
彼は扉に速足で近づいた。長い歴史を感じさせる重々しい黒い扉の中央には、白い線で宵の魔法つかいの六芒星の魔法陣が描かれていた。校長はその扉の前に立つと、それを待っていたかのように扉の魔法陣が赤く輝く。重い扉が内側に開いていくと中央に漆黒の線が入り、扉の動きと共に向こう側にさらなる闇が現れる。校長の召喚した強力な光でもその闇を食い破る事ができない。まるでそこに黒い壁があるかのような異様な空間が扉の向こうに広がっていた。
扉が完全に開ききった刹那、校長は身を押しつぶすような空気に襲われる。かれは反射的に杖を前に出して叫んだ。
「キュアップ・ラパパ! 光よ守りたまえ!」
校長の前に白き光の壁が現れるのとほぼ同時に、真っ黒いものが襲いかかってきた。さながらドラゴンの体当たりのような強烈な圧力が光の壁に押し寄せ、校長は凄まじい衝撃で杖を構えた状態のまま光の壁と一緒に後退した。
「ぬううっ!!」
床がくつ底を削り、白い煙があがる。校長の目の前が漆黒(しっこく)に染まっていた。襲いかかってきたのは黒い炎の塊(かたまり)だった。弾かれた校長は、壁の手前で踏んばった。光の壁にはね返された黒い炎の玉は、獣の姿に形を変えて宙を走り、半円を描き、開いた扉によって創造された闇をさらけ出す四角の空間の上で二つの炎に分かれ、床に燃え移った。燃え上がる2本の黒い火柱が急速に形を変えて人型になった。
「これは一体!?」
漠然とした人型の黒い炎はさらに形を整えていった。二人が影のように黒い顔を上げた時、校長は目を見張った。一人はすらりと背が高く、もう一人はそれと比べると頭二つ分は低い。二人の細くしなやかなシルエットは少女のものだと分かる。背の小さい方が小さめのとんがり帽子をかぶっている事だけは、その形から分かった。
「これがみなの命を奪った闇の正体か。なんということだ、この姿はもしや……」
二人の黒い少女が同時に床を蹴り、獣のように素早く走って校長に迫る。
「キュアップ・ラパパ! 光よ盾に!」
校長の杖の前に白い魔法陣が広がる。それの中央には太陽の中に座す猫の姿があり、その外側には相対した太陽と三日月の紋章がある。その魔法陣に黒い影の二人が右と左の拳を同時に打ち込んでくる。その衝撃に校長は歯を食いしばって耐えた。
「はああぁーっ!!」
校長の一括で光の魔法陣から衝撃が広がり、二人の影を吹き飛ばす。二人は宙返りして態勢を整え、二人並んで着地した。
「この息も乱さぬ連帯、そして完璧な拍子での攻撃、間違いない! 彼女らはプリキュアだ! なぜプリキュアがあのような姿に!?」
校長は黒く燃え上がる二人のプリキュアと対峙する。
「一つだけ確かなことがある。彼女らは誰かのためにここを守っているのだ。この場所を犯すことこと自体が間違いなのかもしれぬ。しかし、そうだとしても引けぬ! わしは何としてもこの先へ行かねばならぬのだ!」
校長が強靭な力で杖を石床に突き刺した。
「光の秘術、生命転魔!」
校長の足元に純白の魔法陣が現れ、校長自身の体が光明を帯びる。
「ゆくぞ! キュアップ・ラパパ! 光よ闇を切り裂け!」
校長の杖に巨大な光球が現れ、放たれる。それに対して闇そのもののような少女たちは後ろで固く手をつなぎ、一方の手を前へ。すると二人の前に大きな黒いハートが現れる。盾となったそれに校長の光球が叩きつけられる。ハート型の闇の盾と光の魔法がせめぎ合い、白い光が炸裂して部屋の中に暴風が吹き荒れた。無数の光の粒が混ざる白い煙の中から二つの黒い影が跳ぶ。闇の少女たちは全く同じ態勢で空中から空を切る鋭い蹴りを同時に放ち、急降下する飛行機のような勢いで校長に向かってくる。校長が前に飛ぶと、彼が元居た場所を二人の急降下蹴りが穿(うが)つ。二人の足が石床に足首ほどまでめり込み、大きく陥没して亀裂が広がる。飛翔した校長は部屋の中央辺りでふわりと着地する。そこへ二つの黒い影が攻め込んでくる。身体能力の強化と防御の魔法を同時にかけていた校長は、空を裂いて襲いくる蹴りや拳の連続を少しずつ後退しながら紙一重で避けていく。小さい影の回し蹴りが校長の頬をかすめ、長い銀髪の一部を断ち切る。そして長身の影の鋭いパンチに校長は右手を広げ、そこから輝く円盾を出して防ぐ。その強力なパワーに押され、校長は再び立ったまま後方へ弾かれる。そして闇少女二人が跳躍、それぞれ右腕を左腕を引いて力をためる。校長は上から襲ってくる彼女らに杖を向けた。
「キュアップ・ラパパ! 光の盾よ!」
杖の先端から白い魔法陣が広がり、それに二人の拳が同時にぶつかった。凄まじい衝撃があり、校長の両足が石床に沈み、彼の周りがクレーターのように陥没した。
「はあっ!!」校長は気合と共に少女たちの攻撃を押し返し、同時に力ある呪文を唱えた。「キュアップ・ラパパ! 光よ貫け!」
校長の魔法陣から噴き出した白い光の流れが竜の形となって螺旋を描く。光の竜が大きく口を開け、空中にいた二つの影をくわえ、プロミネンスのような雄大な弧を描いて地面に衝突する。瞬間に光の爆発が起こり、白い輝きがドーム状に広がっていく。強力な魔法を連続で使い、校長は苦しそうだった。
「どうだ……」光が消えて煙が渦を巻くと、校長の左右にいきなり気配が現れた。間近にある黒い気配に校長の体が凍り付く。「しまった!?」
二人同時の回し蹴りが校長の腹を痛烈に打った。
「ぬおっ!?」校長は靴底を引きずりながら踏みとどまり、止まったところで腹を押さえて片ひざをついた。その時に、校長の体をおおっていた光の守りがガラスが割れるような音をたてて崩れ落ちた。二人の何もない暗黒の顔が校長を見ている。二人とも体中から煙を吹いていた。彼女らは大きなダメージをものともせずに校長に反撃してきた。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ