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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 小百合がラナを支えて前を見ると、壁が突き破られて石の破片が飛び散った。粉塵が煙る中に氷のように冷たい輝きの爪のある竜の手が、小百合たちの前に壁となって立ちはだかっていた。リリンが小百合の後ろに隠れて、小百合とラナはこの世の終わりのような顔になった。
「もう少しだっていうのに……」
 氷竜の背中に乗っているフェンリルが牙を見せて笑う。
「この状況でも変身しないということは、この塔の中では変身できないんだな。勝った!」
 その時、ヨクバールの左右を青い人影が通り過ぎた。フェンリルははっと見上げると、陽光の中で美しく輝く海のプリキュアの姿に目を見張った。
「何だと!!?」
 ミラクルとマジカルが急降下する。
「はぁーっ!」
「たぁーっ!」
 マジカルとミラクルの同時の蹴りがヨクバールの広い背中を打ち、巨体が下にずり落ちて塔に突っこんでいた手も離れた。
 小百合は目の前からいきなり障害物がなくなって、喜ぶより胸がざわつくような予感を覚えた。ラナと一緒に突き破られた壁から外を見ると、空中に立ってこちらを見ている二人のプリキュアと目が合った。
「ミラクルとマジカルだ! うわ〜、すっごいきれいなプリキュア! あんなプリキュアにもなれるなんて、うらやましいな〜」
「どうして……」
 素直に感動しているラナの横で、小百合はどうにも抑えきれない苦しい気持ちが胸に広がっていた。ミラクルを見ていると、その気持ちが強くなった。
「二人とも、今のうちに行くデビ!」
 ミラクルの姿を見ていたくない小百合は、リリンに従っていつまでも突っ立っているラナの手を引っ張った。
「うわっ!? いきなりひっぱんないでよぅ!」
 ラナは転びそうになりながら、小百合に引っ張られていった。
 ミラクルとマジカルは急降下して止まり、青黒い竜のヨクバールと向かい合った。彼女らの下には白い雲がくまなく敷き込まれた絨毯のように広がっていた。ヨクバールと共に塔を背にするフェンリルが言った。
「お前たち、どういうつもりなんだい? 宵の魔法つかいがお前たちに何をしたのか、忘れてはいまい。特にキュアミラクル! 生きるか死ぬかの憂き目にあったお前が、なぜ助けに入る!? わたしにはお前の事がまったく理解できん!! 憎くないのかい、宵の魔法つかいが!!?」
 フェンリルはミラクルへの不快感を隠さずにまくしたてた。するとミラクルは当然のように言った。
「わたしは小百合を恨んでなんていないよ」
「……そうかい」
 無表情で聞いていたフェンリルは、急に目の前に獲物が現れた猛獣のように狂暴な目になった。
「よーくわかったよ。お前が救いようのないバカだということがな! お前を見ているとむかついてくる! ここで消えろっ!!」
「ギョイィーーーッ!」
 ヨクバールがフェンリルの気持に応えて、竜の翼を開いて前に出る。その動きが予想外に速く、ミラクルとマジカルは避けられずに体当たりを受けてしまう。二人が悲鳴をあげて左右にはじけ飛んだ。フェンリルはミラクルの方を追撃し、ヨクバールの鋭い棘のついた尻尾を叩きつける。
「うあっ!?」
 吹っ飛んだミラクルが白い塔の外壁に叩きつけられ、壁が大きくへこみ放射状に亀裂が広がる。ヨクバールが口を開いて大きく息を吸い込む。
「はあーっ!」
 上からきたマジカルが拳をヨクバールの額に叩き込む。
「ヨクッ!」
 マジカルの攻撃に動じないヨクバールが頭を上げてマジカルを押し返す。
「く……あのフォルムだと、ベースはアイスドラゴンに違いないわ。やっかいなものをヨクバールにしてくれて!」
 マジカルが下に見ている敵に、ミラクルが向かっていく。ミラクルの回し蹴りが竜の首に決まるが、それとほとんど同時に氷の爪の一振りでミラクルは吹っ飛ばされていた。
「ミラクル!」
 マジカルが高速で飛び、ミラクルに追いついてその背中を受け止める。
「あのヨクバール、すごく強いよ」
 フェンリルがヨクバールを従えて、再び迫る。
「そんなへなちょこな攻撃などきかないね!」
 ミラクルとマジカルが真上に飛んで突っ込んできたヨクバールを避け、再び降下して今度は二人同時にヨクバールに向かう。気合の声と一緒に、二人同時のパンチをくり出す。それに対してヨクバールは目の前で大きな両翼を合わせて盾とした。二人の拳が同時に翼にめり込み、ヨクバールが力任せに翼を開くと、二人は押し負けて吹っ飛んだ。その隙にヨクバールの極寒の吐息が竜巻になってミラクルとマジカルを襲った。
『きゃーぁっ!』
 二人同時に悲鳴と一緒に竜巻に巻き上げられていった。



 小百合たちはついに塔の屋上にたどり着いていた。白い円形のスペースの真ん中に黒い線と赤い三日月と赤い星で魔法陣が描かれていて、その上に大きな赤い三日月が浮び、そして三日月の弧になっている下側の先端に赤い星が浮いていた。
 3人で魔法陣の上に浮くオブジェに近づいて見上げてみる。
「リンクルストーンはどこにあるの?」
 小百合がオブジェを見ても、周りを見ても、リンクルストーンらしいものはどこにもなかった。
 突然、吹雪に巻き上げられてきたミラクルとマジカルが塔の天上の上空に現れた。小百合たち知背が二人のプリキュアに釘付けになった。そのプリキュアたちのまえに、上昇してきたヨクバールが現れ、竜の骸骨の咢を大きく開いた。
「おや、お前たち屋上まできたのかい。リンクルストーンは見つかったのかい?」
 そう言うフェンリルに、小百合は何も答えずに黙っていた。
「その様子だとまだみたいだね。人間のままのお前たちを始末するのは簡単だ。だが、わたしには知りたいことがある。お前たちプリキュアの間には、どんな軋轢(あつれき)があろうと、憎しみが生まれないのか、もう一度確認する」
 フェンリルがミラクルを見つめて言った。
「キュアミラクル、お前の後ろには、お前を殺そうとした奴がいる。憎んでいないなんて嘘なんだろう? やっちまいなよ、今なら簡単だ、簡単に恨みがはらせる。奴は今ただの人間の小娘なんだ」
 ミラクルは振り向いて、一度小百合と目を合わせた。ミラクルの瞳は無風の湖面のように静かに澄んだ目をしていた。小百合はそんなミラクルの目をいつまでも見ていられなかった。小百合が目をそらすと、ミラクルはフェンリルに言った。
「さっきも言ったでしょう、恨んでなんかいない。小百合はとても大切な人のために戦っていたんだよ。ただ、大好きなお母さんに会いたくて頑張っているんだよ。どんな事があったとしても、そんな人を恨んだりなんてできない! わたしは小百合がお母さんに会えたらいいなって思ってる!」
「ミラクル……」
 マジカルは瞳が熱くなった。ミラクルの言葉は、まるで素晴らしい音楽の一小節のように響き渡った。
 小百合は下を向いて酷く苦しそうな顔をしていた。言いようのない嫌悪感と腹立たしさが同時にわいたが、それが誰に向けられているのか、小百合は自分でもよくわからなかった。
 ラナとリリンの瞳はミラクルの思いに当てられて輝いていた。そして、リリンが赤い星の宿る青い瞳で空を見上げて言った。
「ミラクルの心が広がっていくデビ」