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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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「ああこれね。お母さんの形見のぬいぐるみを入れているの。片時も手放したくないから、ぬいぐるみ用に自分で作ったのよ」
「どんなぬいぐるみ? 見せて見せて!」
 ラナは幼子のように純粋な興味を抱いて両腕を開いた。その姿に小百合は思わず笑みをもらす。元気のよい妹ができたような気がしていた。
「大切なものだから汚したりしないでよ」
 小百合がポシェットを開けると、中から目を閉じて笑みを浮かべる穏やかな表情の黒猫のぬいぐるみが顔を出す。小百合はポシェットからぬいぐるみを取り出してラナに渡した。
「うわぁ、なにこのぬいぐるみ、可愛い! おもしろい! 背中に黒い羽が付いてるよー」
「ねこ悪魔よ。名前はリリン」
「ねこ悪魔のリリンかぁ、可愛いね!」
 小百合が一休みしようと玄関前の階段に腰を下ろし箒を傍らに置くと、ラナもその隣に座りリリンを抱き上げてよく眺めていた。全身のほとんどが黒で背中にはコウモリのような黒い羽が付いていて、手のひらと足の裏と耳の内側に当たる部分だけは桃色である。そして、首の下には青いリボンの飾りが付いていた。
「リリンはお母さんがくれた、たった一つの贈り物なの。お母さんはこのお屋敷を出てお父さんと一緒になったのだけれど、わたしが生まれてすぐに別れてしまったわ。それからお母さんは、たった一人でわたしのために頑張ってた。小さくても貧乏でお金が無いのは何となくわかったから、わがままなんて言えなかった。でも、街で見かけたこのリリンだけはどうしても欲しくて、口には出さなかったけれど、ずっとショーケースの中のリリンを見つめていたわ。そしたらお母さんが買ってくれたのよ、いつもいい子にしてるからってね。リリンはお母さんの優しさと思い出が詰まった大切なぬいぐるみなの。今ではリリンだけがお母さんとわたしをつなぐ唯一のものになってしまった」
 リリンを見ながらそういう小百合の姿は寂しそうだった。ラナは笑顔になっていった。
「優しいお母さんだね」
「優しいだけじゃないわ、本当に素敵で、心から尊敬する人よ」
「わたしのお母さんも優しかったなぁ」
 ラナはリリンの腕を、片方ずつ右手と左手で持って、適当に動かしながら言った。
「わたしはうんと小さかったけど、お母さんが優しかったのはおぼえてる。あと、花の海の棺の中で眠っていた事も。あの時は、もうお母さんには二度と会えないんだってわかって涙が止まらなかった」
「ラナ……」
 小百合は自然とラナに寄りそい肩を抱いていた。二人の少女は頬を寄せ合い目を閉じて、お互いの心が深く通じ合うのを感じていた。そんな二人を祝福するようにそよ風が吹き、桜の花びらと春の香を運んでくる。リリンは少女たちの間に穏やかな表情で佇んでいた。
「お嬢様、昼食の準備が整いました。さあ、ご友人の方も一緒にどうぞ」
 後ろの玄関の扉が開いて、白髪の男が声をかけてきた。どう見ても六〇を過ぎた人の好さそうな老人で、黒い背広に蝶ネクタイを付けた執事の姿をしている。
「わ〜い、ご飯だ! おなかすいた!」
 ラナは嬉しさのあまりバンザイすると、リリンを頭の上にのせて屋敷の中に駆け込む。
「ちょっと、ラナ、あんた食堂の場所知らないでしょ!」
 小百合が声をかけた時には、ラナの姿はもう屋敷の中に消えていた。小百合はため息をついた後に立ち上がり、目を吊り上げて執事の老人を見つめる。
「喜一(きいち)さん!」
「申し訳ありません。小百合様を見ていると、百合江(ゆりえ)お嬢様の事を思い出してしまいましてね」
「様もいらないわ、小百合でいいです」
「清史郎様のお孫様を呼び捨てにするわけには……」
「お爺様は、わたしを孫だなんて思っていないわ」
 小百合は無感情に言い放ち、喜一の顔も見ずに玄関から屋敷に入った。
「ラナ! どこに行ったの!」
 友達の名を呼んで階段を上がっていく小百合の後姿を、喜一は悲しげな目で見つめていた。

 食堂が分からずにさまよっていたいたラナを見つけた小百合は、とりあえず自分の部屋に連れて行って着替えさせた。
 小百合がベルスリーブの裾がフリルになっている黒いブラウスと純白のロングスカートの普段着に着替えた時、ラナは昨日とまったく同じ服に着替えていた。それを見た小百合は苦笑いを浮かべる。
「……あんた、その服はないんじゃない?」
「大丈夫だよ、同じの3着持ってるし、ちゃんとお洗濯してるよ!」
「そんな事は心配してないわよ! そんな恰好はおかしいでしょ、もっと普通の服を着なさい」
「これ魔法学校の制服だよ、普通でしょ」
「あんたの住んでいたところでは普通でも、こっちの世界では変なの! ああ、もういいわ、わたしの服をあげるから、何も言わずにそれに着替えて」
 小百合はタンスの一番下の段を開けて、いくつか服を引っ張り出す。
「わたしが小学生の時に来ていた服だけれど、あんたにはちょうどいいと思うわ」
 ラナは言われた通りに何も言わずに着替えると、壁に掛けてある楕円の鏡の前に立ってくるりと回ってみた。上は黄色い半袖フレアスリーブのブラウスで、襟元にピンクの花の飾りが付いている。下はフレアフリルのピンクのミニスカート、白いソックスにはワンポイントに黄色の花の刺繍が入っていた。
「うわぁ、可愛いお洋服だね〜」
「ちょっと子供っぽい服だけど、ラナにはよく似合ってるわ。おなか空いてるんでしょ、食堂に案内するわよ」
「うんうん、もうペコペコだよ〜」
「そりゃそうよね、朝ご飯食べてないんだから」
 ラナは食堂と聞いて、学食のようにざっくばらんに長机に椅子が並べてあるような場所を想像していたが、屋敷の食堂はそれとはまったく違っていた。広い部屋に白いクロスの敷いてある丸テーブルがいくつもあって、窓から入ってくる太陽の光が白いテーブルとほこり一つない磨き抜かれた石床を輝かせている。一つのテーブルに二人分の食器が用意してあり、花瓶に花までそえてあった。
「これ、食堂じゃなくてレストランだよ!」
「確かに食堂って感じじゃないわね。ここでの食事はどうにも慣れないのよね……」
 小百合はそう言いながら、ラナと一緒に食事の用意してあるテーブルに座った。すると、奥のキッチンの方からメイドが現れて、料理を乗せたカートを押してやってくる。
「あ、昨日のメイドさんだ。わたしラナっていいます、よろしくね!」
「わたくしは巴(ともえ)と申します。このお屋敷で働かせて頂いております」
 巴はラナに向かって丁寧に頭を下げて言った。それから巴は、銀の器からカボチャのポタージュを二人の皿に注いでいった。それからサラダやローストチキン、焼きたてのロールパン、デザートのプリンなどがテーブルの上に並んだ。
「うわー、すっごいごちそうだよ! これはファンタジックだよ!」
「確かにごちそうだわ。でも、母さんと二人で食べたご飯の方がずっと美味しかった。貧乏で好きなものは食べられなかったけれど、お母さんが一生懸命作ってくれた料理が一番だったわ」
 哀愁を漂わせて言う小百合の横で、ラナは勝手に食べ始めていた。
「わたしもおばあちゃんの料理が一番好きだけど、この料理もすごく美味しいよ、お肉最高!」