魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
ラナはローストチキンを手掴みで豪快に食べている。小百合は感傷に浸っていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「……ラナ、食べるのは頂きますの後よ。それに手はやめなさい、行儀が悪いわ。ちゃんとナイフとフォークを使って食べるの」
「え〜、めんどくさいよ。それに、この方が美味しいし」
「駄目! いう通りにしなさい!」
「はぁ〜い」
「じゃあ頂きますするわよ、分からなければわたしと同じようにやって」
小百合が手を合わせるのを見て、ラナをそれを真似する。
「頂きます」
「いただきま〜す!」
それから食事の間に、小百合はラナの故郷について聞いてみた。
「その、あんたの故郷、魔法界っていったっけ? いつ頃帰るつもりなのよ?」
「魔法界にはもう帰れないと思うよ」
ラナは何事もないように言いながら、パンにポタージュを付けて食べた。小百合は食事をする手が止まった。
「帰れないってどういうことよ?」
「なんでかよくわかんないんだよ。駅に行ってマホカで魔法界に帰ろうとしたら、ピンポーンってなって、ナシマホウ界の魔法のドアに止められて、もうびっくりしちゃった」
「……あんたの言ってることは全然分からないけど、何か理由があって魔法界に帰れないことは理解できたわ。あんた一人でどうするつもりだったの?」
「何にも考えてなかったよ! 今は小百合に会えてラッキーって感じだね!」
「あんた、いくら何でも能天気すぎるわよ」
小百合は呆れかえって言った。しかし、内心ではラナをここに連れてきて本当に良かったと思っていた。明るく元気なラナが路頭に迷う姿など想像したくはなかった。
一方、ラナは食事をしながら周りを気にするような素振りを見せていた。
「ねえ、小百合、なんでおじいちゃんは一緒に食べないの?」
「……お爺様は、わたしと一緒に食事なんてしたくないでしょうね」
「なんでそんなこというの? そんなのおかしいよ」
ラナは難しい言葉が理解できない幼子のように首を傾げていた。ラナにとって、家族と一緒に食事ができないことは、それほどに疑問があったのだ。
「だから……今はやめましょう、楽しい食事がだいなしになるわ」
小百合はなにか言いかけてから話を切った。それから食事が終わるまでは静寂(せいじゃく)が続いた。
昼食の後、小百合はラナを連れて庭に出た。二人で屋敷の門まで続く桜並木をゆっくり歩き、やがて小百合は一本の桜の木に背を持たれて言った。
「ラナはわたしとお爺様の関係が気になるんでしょ」
「うんうん、すごく気になるよ!」
「あんたには話しておくわ。わたしのお母さんは、お爺様の反対を押し切ってお父さんと駆け落ちしてこのお屋敷を出たのよ。その時にお爺様に絶縁されたの。わたしはお爺様がいることすら知らなかった。お母さんが事故で亡くなって途方に暮れていた時に、お爺様がいきなり現れて必要な事はすべてやってくれたわ。それから、わたしのことも拾ってくれた。でもお爺様は、わたしにはとても冷たいの。それに、いつも怖い顔でわたしのことを見つめるわ。でも仕方ないわよね、わたしは絶縁した娘の子供だし、お爺様にとっては他人同然の存在だからね。それでも、例えお爺様に嫌われていても、拾ってもらった恩は返すつもりよ」
ラナは首を傾げて、またもや腑(ふ)に落ちないという顔をしている。
「何でおじいちゃんは小百合のことが嫌いなの? 嫌いって言われたの?」
「はっきりと嫌いとは言われていないけど……」
「それじゃ、小百合の勝手な思い込みだよ。孫が嫌いなおじいちゃんなんて絶対いないよ!」
「わたしにはそうは思えないわ……」
それから小百合は下を向いて黙ってしまった。
「小百合、元気なくなっちゃったね。じゃあこれからお散歩に行こうよ! 箒で空を飛べばきっと元気になるよ!」
小百合はそれを聞いた瞬間に、血の気が失せて引きつった笑いを浮かべる。
「嫌よ、あんたの箒には二度と乗らないっていったでしょ」
「大丈夫、今度は小百合に合わせて初心者用の箒くらい優しく飛ぶから」
「なんかすごく馬鹿にされてるような気がするんだけど……」
「はやくぅ、行こうよ〜」
ラナは幼子が母親に催促するように体を揺らした。ラナのそんな姿を見ると、小百合はどうにも断り切れない。ため息をついて、仕方なく承服(しょうふく)した。
「分かったわよ。準備してくるから少し待ってて」
「わたしも、箒とリンクルストーン持ってこなくっちゃ」
二人で小百合の部屋に戻り、小百合はリリンを大きな水色のポシェットに入れて腰に付け、ラナはリンクルストーンと黒い結晶の入った小さなピンクのポシェットを身に着けた。
「リリンも一緒に連れて行くんだね!」
「ええ、空を飛ぶんだもの、リリンにも素晴らしい景色を見せてあげたいわ」
それから二人で外に出ると桜の木の陰に隠れる。ラナは小さな箒を振って元の大きさに戻すと、誰にも見つからないように注意しながらラナは箒に跨り、小百合はラナの後ろに足を揃えて座った。
「よ〜し、行くよ〜」
「本当にゆっくり飛んでよ」
「大丈夫だよ、小百合は心配性だなぁ。キュアップ・ラパパ、箒よ飛べ!」
箒は二人の少女を乗せて、ゆっくり上昇を始めた。屋敷と庭が二人の下でどんどん小さくなっていく。遮るものが何もない上空で、強い春風が少女たちの瑞々(みずみず)しい髪を揺らす。小百合が大きく息を吸い込むと。微かに花と緑の香りを含んだ春の空気が胸いっぱいに広がっていく。その時に、小鳥の群がすぐ近くと通り過ぎていった。箒一本で空を飛ぶ魔法の素晴らしさと、宙にいるからこそ感じられる春の匂いに小百合は心の底から感動した。
「しゅっぱ〜つ」
ラナが片手を上げると箒は前に進みだした。
「すごいわ、街があんなに小さく見える。こんなきれいな景色初めて見たわ」
「小百合ったらなにいってるの、昨日も箒に乗って飛んだじゃん」
「昨日はとんでもない速さで飛んだから景色なんて見てる余裕なかったわよ!」
それから二人は空の散歩を続けた。小百合のポシェットから顔を出すリリンも心なしか楽しんでいるように見えた。
「ねえ、あのきれいな建物はなあに?」
ラナが指さした方向に、赤い屋根の3階建ての校舎があった。屋根には広いテラスがあり、そこには白い丸テーブルと椅子がいくつか置いてあって休息スペースになっている。校舎の右側には室内プールを完備したドーム型の体育館があり、右側には校舎よりも高いとんがり帽子の時計塔が建っている。そして広い校庭の周りは満開の桜の木で囲まれていた。町から少し離れた自然の中にあるその学校を小百合は良く知っている。
「あれは聖ユーディア学園、わたしが通ってる学校よ」
「へぇ、あれが小百合の学校なんだ。魔法学校とは全然違うんだね〜。あれも学校?」
ラナが今度は街の中にある校舎を指さす。
「あれは津成木第一中学校よ」
それから二人は公園に向かって降下していった。すると、上昇気流に乗って満開の桜から無数の花びらが舞い上がってくる。
「本当にきれいね」
小百合が感動している時にラナは公園の中に気になるものを見つけた。
「あれなんだろう、人がいっぱい並んでるよ!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ