魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
小百合たちの真下に二つの大きなピンク色メロンパンが屋根になっている可愛らしい車があり、その前に人の列ができていた。店舗の上にはカラフルな文字で「MofuMofuBekary」と看板が立っていた。
「あれは移動店舗よ、イチゴメロンパンを売っているの。津成木町の名物らしいわ」
「イチゴメロンパン!? なにそれ美味しいの?」
「さあ、食べたことないから分からないわね」
「食べたい食べたい!」
ラナはイチゴメロンパンが食べたい気持ちを箒ごと体を揺らして表現する。
「ちょっと、揺らさないでよ! 危ないでしょ!」
「ねぇ、行こうよぅ、イチゴメロンパン食べたいよ!」
「誰もいないところに降りるのよ、箒で飛んでるところなんて誰かに見られたら大騒ぎになるわ」
「うん、わかった! イチゴメロンパ〜ン!」
二人は急降下して地上に降りる。ラナは小百合を置いてさっさと走って行ってしまう。小百合は後からゆっくり歩いていった。そして小百合がお店の近くまで来ると、人の列に紛れていたラナが小動物を思わせるすばしっこさで戻ってきてから両手の握りこぶしを胸のところに置いて言った。
「一個150円だって!」
「……お金持ってないのね」
ラナは力強く何度も頷いていた。
「もう、ちょっと待ってなさい」
そして二人でしばらくお店の前に並んでいた。その頃、怪しすぎる男が公園の中を歩いていた。3メートル近い背丈の男の肉体は屈強で、体中のあらゆる筋肉が盛り上がり、緑色の体全体が岩のようにごつごつしている。黒いズボンに先の尖った革靴をはき、上半身を覆う服はボロボロの赤いチョッキ一枚、頭に白いターバンをかぶり、尖った耳に見開かれた目は赤く不気味だ。公園にいた人々は、彼の姿を見るなり逃げ出していた。
「におうぜ、強烈な闇のにおいだ。このボルクス様が闇の結晶を頂くぜ」
異様な男は足音を響かせながら店の方に近づいて行った。
「二つください」
小百合は苺メロンパンを二つ買って一つをラナに渡す。メロンパンを見つめるラナの目はすごく輝いていた。二人は近くのベンチに座って同時にメロンパンを一口食べる。すると、ただでさえ大きいラナの瞳が、感動でさらに大きく開く。
「おいしい! イチゴメロンパン、最高にファンタジックな味だよ!」
「本当においしいわ。クッキーの部分はサクサクで苺のいい香りがするわね。微かに酸味もあって、クッキーの生地に本物の苺を練り込んであるんだわ。パンもしっとりとして柔らかで、口の中で苺味のクッキーとパンが溶け合って、舌の上で見事なハーモニーを奏でているわ」
「なんか小百合ってむずかしいこというね、普通においしいっていえばいいと思うよ」
「別に難しくないでしょ、舌で感じたことを素直に言葉にしただけよ」
二人でそんな会話をしながらイチゴメロンパンを食べていると、辺りがざわついた。人の悲鳴があがり、続いて周りにいた人や店の前に並んでいた客たちが蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げ出した。メロンパン屋の店員は店舗の中で呆然と立ち尽くしている。
「なに?」
小百合が辺りの様子がおかしいのに気づいた。地鳴りのような足音に驚いて二人が前を見ると。異様な姿の大男が近づいてきていた。
「ねえ、あれも魔法界の人?」
「えっと、人っていうか、魔法界生物の教科書で見たことあるかも……」
男は二人の目の前で止まった。小百合もラナもそのあまりの巨体に驚き、逃げるのを忘れて口をあけっぱなしにして見上げた。
「お前らから闇のにおいがプンプンするぞ! 闇の結晶を俺に渡しやがれ!」
巨人の怒号で二人は悲鳴を上げて逃げ出した。その時に、ラナのポシェットから黒い結晶が一つこぼれ落ちた。
逃げた二人は桜の木の後ろに隠れていた。
「な、何なのよあれ!? どう見ても人間じゃないわ!」
「思い出した、あれはオーガだよ。魔法界にいる人種で、体が大きくて力持ちだけど、気が弱くて人の前には滅多に姿を現さないって教科書にかいてあった!」
「気が弱いですって!? どう見てもあれは狂暴よ!」
オーガのボルクスは小百合たちの姿を探していた。
「逃げたって無駄だぞ、闇のにおいでわかるんだからな」
ボルクスが足を踏み出そうとすると、足元に黒い結晶が転がっているのを見つけた。
「おお、闇の結晶みつけたぜ」
ボルクスがそれを拾い上げた時、近くで震えている白い子犬が目に入った。ボルクスの顔が歪み、気味の悪い笑顔になる。
「ちょうどいい、真の闇の魔法を見せてやるぜ!」
ボルクスは闇の結晶を子犬に投げつけてくっつけると、大きな拳を胸の前で打合せてから屈強な右腕を天に向かって突き上げる。
「いでよヨクバール!!」
あたりが暗くなり、小百合とラナは木の後ろから出て上を見上げた。上空に異様な漆黒の魔法陣が現れていた。六芒星魔法陣の中心に今まさに獲物を飲み込まんとするように口を開く狂暴な竜の頭が描かれ、六芒星と円の間にある隙間に六つの異様な文字が刻まれている。そして魔法陣の外側にも一回り大きい円があり、その外円と魔法陣の間にルーン文字に似た奇妙な形の文字がびっしりと刻まれていた。
「キャンキャン!」
子犬と闇の結晶が魔法陣の中に吸い込まれていく。
「ああ、子犬が!」
ラナが叫んだ。小百合は何が起こっているのか理解できず呆然と異様な魔法陣を見上げるばかり。
二人の前で闇の結晶と一つになった子犬が黒く染まり、それを覆うように竜頭骨の仮面が現れる。子犬の体がどんどん大きくなっていく。四肢は異様に肥大し、全ての爪が鎌のように鋭く長く伸び、全身の毛が逆立つ。変容した体から闇が晴れた時、体は犬、頭は竜のドクロの巨大な化け物が現れた。ドクロのアイホールの中心が赤く輝き、大きく開いた竜の口から青い炎が噴き出す。
「ヨクバアァーーーールッ!!」
甲高い声で人の言葉を発してはいるが、それは獅子の叫び声に近かった。小百合とラナは、その凄まじい咆哮(ほうこう)に思わず耳を塞いでいた。
「子犬が化け物になっちゃったよ!?」
「な、な、何なのよあれ!?」
小百合はラナの手をつかんで走り出す。
「とにかく逃げるわよ!」
二人は桜の木の陰に逃げ込んでから、そこから箒に乗って上昇した。飛んでいく少女たちを見上げてボルクスは言った。
「ほう、魔法つかいかよ。だが、この俺からは逃げられないぜ! 追えヨクバール! あのガキどもを捕まえろ!」
「ヨクバァール!」
ヨクバールとなった子犬の背中に白い翼が広がる。巨大な翼の羽ばたきが起こす風圧が、近くにある桜の木を何本かへし折った。そして、ヨクバールが小百合たちの追跡を始めた。すると後に残されたボルクスが慌てて言った。
「おい、こら、まて、俺をおいていくんじゃじねぇ!」
ボルクスは走ってヨクバールの後を追いかける。その後ろ姿がどうにも間抜けであった。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ