魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
ラナがもう小百合から言われたことを忘れて横槍を入れてくる。途端に周りで騒ぎになった。もう小百合は怒る気も失せて右手を額に置いて黙った。こうなったら成るようになれとやけになっていた。
「聖沢さんの家ってそんなにすごいの!?」
「すっごいよ! 初めて見た時お城かと思った!」
「じゃあ何で二人で一緒に寝てるの?」
また質問が戻る。するとラナは言った。
「小百合のおじいちゃんの許可がないと他の部屋使えないみたいなんだよ」
「そうなのよ! お爺様が厳しい人でね! そういうのうるさいの!」
期せずして出たラナのナイスフォローに小百合はすかさず乗っかった。するとツインテールの少女は言った。
「厳しいっていうより、けちなおじいちゃんね」
小百合は確かにその通りだなと思った。
今度はショートカットの活発そうな少女が言った。
「ラナちゃんはどこの国から来たの? アメリカ? イギリス? フランス?」
「魔法界!」
ラナが元気よく言うと、一瞬辺りが静まり返った。小百合の中ので嫌な予感が悪夢に変貌した。小百合はなんとか平静を保ちながら言った。
「嫌ねぇ、この子ったらアニメの見過ぎで時々おかしなこというのよ。みんなが混乱するから、もう魔法つかい用語を使うのはやめなさいって言ってるでしょ!」
後半の言葉は本気の怒りを含んでいて、ラナはびっくりしていた。
「で、結局どこの国から来たの?」
「ロシアよ、ロシアの地図にものっていないような小さな村に住んでいたの」
必死にフォローする小百合の前で、今度は小百合と同じくらい長い黒髪のメガネをかけた真面目そうな少女が言った。
「ロシアってすごく寒いんでしょ」
「寒くないよ、だって一年中春だもん」
ラナが当たり前のように言うと、メガネの少女は言葉もなかった。小百合は内心で怒りのボルテージを上げながら言った。
「みんな何を驚いてるのよ、一年中春の国なんてあるわけないでしょ! ラナは一年中春だったら素敵だなっていう希望を言っているのよ、ロシアは寒い国だからね!」
「そんなことないよ、本当にっ」
小百合は身を挺(てい)してラナの口を封じた。身を乗り出して手でラナの口を塞ぐ小百合の姿に、クラスメイト達は開いた口がふさがらない。クラス全体に小百合は物静かな少女だというイメージがすり込まれていたので、その驚きは非常に大きなものだった。
「さあ、もう休み時間は終わりよ、みんな自分の席に戻ってちょうだい」
「でも、まだもう少し時間あるよ」
ツインテールの少女が言うと、小百合はそれを睨む。ツインテールの少女は迫力に押されてひぃと小さな声を出した。
「終わりといったら終わりよ!」
小百合が怒鳴ると周りにいたクラスメイト達は恐れをなしてそれぞれ自分の席に帰っていった。
その後も休み時間ごとに小百合はラナの意味不明な言動のフォローをしなければならなかった。さらに授業のたびに居眠りをするラナを起こしたり、授業そっちのけで屋上のテラスで遊んでいるラナを連れ戻したりと、散々な一日になった。そして、最後の休み時間にはラナはさらに面倒なことを引き込んだ。
ラナは持ち前の明るさで、クラスの大半の生徒と顔見知りになっていた。中でも最初の休み時間に質問してきたツインテールの海咲(みさき)、ショートカットで快活な由華(ゆか)、ロングヘアでメガネっ子の香織(かおり)と特に懇意(こんい)になり、最後の休み時間にこの三人に提案した。
「今日みんなでお茶を飲もうよ、小百合の家で!」
「ちょっと!」
小百合が怒り出す前に、他の少女たちが大喜びする。
「いいね!」
「賛成!」
「わたしも聖沢さんの家を見てみたいわ」
こうなるともう断れなかった。小百合は仕方なく言った。
「……わかったわ、みなさんをご招待するわ」
もう下校するころには、小百合は精神的にも肉体的にも疲れ果てていた。
ラナを含めて四人の少女たちが仲良く下校するそのすぐ後ろを小百合が歩いていた。ラナたちはしばらくは四人で楽しそうにおしゃべりしていたが、やがて小百合の周りを囲んで歩き始める。
「聖沢さんって、もっとおしとやかな感じだと思ってたけど、ぜんぜんそうじゃないんだね」
由華が言うと、小百合は微笑を浮かべる。
「わたしはお嬢様なんかじゃないわよ。少し前まで普通の中学校に通っていたし、住んでいたのは六畳のアパートだったの」
「お話してみたら頼りになるお姉さんって感じで驚いちゃった」
海咲が言うと、香織が頷いた。
「怒った時はお母さんみたいに迫力があったわ」
「それは言わないで……」
小百合は女子同士でそんな他愛のない会話をしたのは久しぶりだった。どこか懐かしい心温まる感覚があった。母が亡くなる前は普通だったことが、今は特別なことのように感じられた。
屋敷ではラナが連れてきた友達を、メイドの巴と執事の喜一が笑顔で迎えてくれた。五人の少女は応接間に通された。その部屋の作りを見た少女たちは声も出なかった。扉を開ければ広い部屋の中央に木目の美しいテーブルがあり、その前に毛皮の敷いてあるソファーが置いてある。扉から向かって右手の壁に暖炉、左手には壁に数枚の絵画が、奥はほぼ全面窓になていて、レースのカーテンを通して柔らかな光が部屋全体を照らしていた。大理石の床の上には緑色の絨毯が敷いてあり、左奥には100インチの液晶テレビもあった。
「外から見たお屋敷もすごかったけど、これは何て言ったらいいんだ……」
「確かにラナちゃんのいう通り、お城みたいな家だね……」
由華と海咲が言った。
「わたしもこの部屋に入るのは初めてよ、お客さんなんて今まで来たことなかったから」
小百合も見た事もない豪華な部屋の作りに少々面食らっていた。その中で、ラナだけはさっさと部屋に入ってソファーに座っていた。
「うわ、すっごいよこれ、ふわふわだよ〜。小百合のベッドの100倍くらいふわふわかも!」
「あんたは余計なこというんじゃないの!」
それから少女たちはソファーに座ってテーブルを囲み、楽しいおしゃべりが始まった。小百合は積極的に参加はしなかったが、ラナたちのおしゃべりを聞いているだけでも楽しい気持ちになれた。
「失礼いたします」
巴がノックしてから部屋に入ってくる。
「本日は京から取り寄せた和菓子と干菓子がありますので緑茶にいたしました」
少女たちの前にもはや芸術といっていいレベルの細工が施された生菓子と、工芸品と見まごうばかりのきらびやかな干菓子が並んだ。
「うわぁ、すごい、きれい!」
そういうラナ以外は喜びを通り越して呆然としてしまっていた。
「玉露(ぎょくろ)でございます」
巴がお茶を出し最後にこういった。
「ご主人様にお話ししましたら、ぜひ皆様にお出しするようにと」
それを聞いた小百合は平手打ちされたような衝撃を受ける。
「お爺様が!?」
「孫おもいの優しいお爺様なのね」
そういう香織に小百合は何も答えられなかった。
巴が去り、由華と海咲が茶菓子を見ながら言った。
「これ、本当に食べていいのか?」
「こんなにきれいだと躊躇(ちゅうちょ)しちゃうわね」
「これ、すっごくおいしいよ!」
ラナはきれいな干菓子をばくばく食べていた。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ