魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
リリンが木の上の方に飛んでゆくと、小百合は周りを警戒した。学校の裏庭で人が少ない場所だったので、リリンが誰かに見られるような心配はなさそうだ。やがてリリンは闇の結晶を持って降りてくる。ラナがポシェットを開け、リリンはその中に結晶を入れると小百合が言った。
「これで四つ目よ。学校内だけでもこれだけ闇の結晶があるなんて」
「放課後も公園とかでさがしたほうがいいよね」
「そうね、今日から放課後も闇の結晶を探しましょう」
そして昼休みが終わり、次の授業は数学だった。このぐらいになると、リリンは鞄の中でじっとしてるのが退屈になってきていた。
「夕凪さん、この問題を解いてもらえるかしら?」
「はい!」
担任のメガネの先生にさされてラナは元気いっぱいに手をあげて出ていく。小百合もラナの動向に注目した。その時にリリンが鞄の中からはい出していることには気づかなかった。ラナは白いチョークをとり堂々とした態度で黒板の前に立った。そこでラナの動きが止まる。
「夕凪さん、どうしたのかしら?」
「先生、ぜんぜんわかりません!」
クラス全体が失笑する。全てが堂々としているラナの態度がとても面白かった。小百合だけはあきれ顔でラナを見ていた。その時に、ラナと先生の視線があらぬ方に集中した。先生は羽の付いた黒い物体が後ろのドアから教室を出ていく瞬間を目撃した。
「あ、でてった」
「今のは一体……?」
あっけらかんとしているラナに対し、先生は呆然と立ち尽くす。二人の妙な様子に小百合の嫌な予感が頭をもたげてくる。ラナが小百合の顔を見て笑顔でウィンクして親指を立てて見せた。その時に小百合は自分のロッカーを見返した。鞄の中にリリンの姿はなかった。
――何を喜んでるのよ、馬鹿なの!?
小百合はラナの意味不明な行動に激怒し、リリンがいなくなったことで冷や汗が出てきた。
「……気のせいよね」
先生はそういって授業を再開する。
ラナが席に戻ってくると、小百合は小声て言った。
「すぐに探しにいくわよ」
「授業中だよ、どうするの?」
「わたしのいう通りにやって」
それから二人は密やかに話し合い、ラナが急に騒ぎ出した。
「痛い痛い! 急にお腹が!」
「どうしたのラナ! とにかく保健室へ!」
小百合はうむをいわさずラナを引き連れ、教室を出る時に言った。
「先生、この子を保健室に連れていきます」
「はあ、気を付けて……」
小百合が教室から出ていく時に、先生の間の抜けた声が後ろから聞こえた。
二人は廊下に出るとすぐに走り出す。
「手分けして探すわよ、早く見つけないと大変なことになるわ」
「うん! じゃあわたし向こう探すね!」
二人が必死になって学校中をかけずり回っている時に、巨躯の異様な男が校門から校庭に入ってきていた。
「闇の結晶のにおいがするぜ」
オーガのボルクスであった。ボルクスが校内に侵入すると、体育の授業中だた生徒たちがその恐ろしい姿に気づいて騒ぎ始めた。すぐに何人かの教師も彼の姿に気づき、警察を呼ぶ事態にまで発展した。
リリンは校内を好き勝手に飛んで楽しんでいた。
「学校は楽しいところデビ、もっと色々見てみたいデビ」
リリンは理科室のある方に向かって飛んでいた。一方、小百合とラナは、一年生から三年生までの教室はあらかた回って合流していた。
「あと残っているのは特殊教室のある四階ね」
「急ごう!」
二人が四階への階段を駆け上がってたころ、リリンは理科室の前を通りかかった。その時、いきなり教室のドアが開いた。
「いいですか皆さん、絶対にここから動いてはいけませんよ。わたしは職員室にいって状況を確認してきます」
その白衣の髪の長い女性教師が教室のドアを閉めて振り向くと、目の前でリリンが飛んでいた。
「……え?」
「デビ?」
理科の先生は目の前にいるのが何なのか理解できずに固まっていた。リリンの方も小百合に見つからないようにと言われていたことを思い出して動かなくなった。互いにどうしたらいいのか分からない状態で数秒が過ぎた。そこへ小百合とラナが走ってくる。
「うわ、もうだめだよ、見つかっちゃってるよ!」
「とにかく何でもいいからごまかすのよ!」
小百合にそう言われるとラナは全速力で走って現場に飛び込んでいく。
「ああ、わたしの超高性能ネコ悪魔ロボットのリリンがこんなところに!」
リリンは時が止まったように急に動きを止めて落下した。それを小百合が走り込んできて受け止める。理科の先生は唖然としたまま動かなかった。
「大変だわ、電池が切れてしまったわ!」
「うわあ、大変! 電池さがしに行かなきゃ!」
「先生、どうもお騒がせいたしました!」
小百合は理科の先生に頭を下げると、ラナと一緒に走り去って階段の方に曲がって姿を消した。理科の先生は二人がつむじ風のように消え去った後に言った。
「……最近の技術革新はすごいわね」
何とかリリンを見つけることができた二人は、屋上に続く階段の途中で息を荒くして座っていた。小百合はリリンを抱きしめたまま言った。
「われながら酷い言い訳だったわ」
「でも何とかごまかせたね!」
「二人とも、無茶しすぎデビ」
「原因を作ったあんたがそれを言う!?」
その時、近くの教室から騒ぎが聞こえてきた。それに続いて、何人かが廊下を走ったり階段を上がってきたりと、明らかに異常な空気が漂っていた。
「外になんかすごいのがいる!」
そんな声を察知した小百合が言った。
「何だか様子がおかしいわ、屋上にいってみましょう」
三人が屋上のテラスに出ていくと、校庭でとんでもない騒ぎが起こっているのが見えた。数人の警察官が途轍(とてつ)もない大男を囲んで拳銃を構えていた。
「あれ、公園で襲ってきたオーガだよ!」
「闇の結晶を奪いにきたんだわ」
校庭では警察官たちが極限の緊張状態でボルクスに近づいていた。
「貴様、そこを動くんじゃない!」
「うるせぇぞ人間ども、俺の邪魔をするんじゃねぇ!」
ボルクスが闇のにおいをたどって顔を上げる。すると、屋上にいる少女二人が目に飛び込んできた。
「あれはこの前のガキどもじゃないか! ちょうどいい、闇の結晶を頂くぜ」
それからボルクスは鼻をひくつかせ、一人の警官に目を付けて近づいた。
「おめぇからも強い闇のにおいがするぞ、うんん?」
「ひ、ひいぃっ!」
ボルクスに迫られた警官は情けない悲鳴をあげる。この時にボルクスは彼が手にする拳銃に黒い結晶が付いてるのを見つけた。
「そんなところに闇の結晶が! ようし!」
ボルクスは拳を合わせ、野太い腕を天に向かって突き上げる。
「いでよ、ヨクバール!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ