魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
ダークネスは前屈みに跳躍して弾丸を追い抜き校舎の前に立つ。そして目の前に迫っていた青い弾丸を右手で弾き飛ばした。その弾丸は弧を描いて校庭の隅に着弾し爆炎をあげる。ヨクバールは続いてウィッチに向かって弾丸を発射した。青く光る弾がまっすぐにウィッチと三年一組の教室に向かっていき、ダークネスが叫んだ。
「ウィッチ、止めなさい!」
「うわあ、やばい、どうしよう!?」
慌てるウィッチ、その間にどんどん光弾(こうだん)が迫る。ウィッチは覚悟を決めてえいっと前に出て自ら光弾に飛び込んだ。途端に爆発し、ウィッチは煙を上げながら情けない恰好のまま箒と一緒に墜落した。
「あうう」
「まったく、馬鹿なことしてるからそんな目に合うのよ! 気合入れて戦いなさい!」
「ごめんなさぁい……」
弾にぶつかるやらダークネスに怒られるやら散々なウィッチであった。
「いくわよ!」
ダークネスがスタールビーの光る右手を上げると、手のひらから赤く光る球が二つ出てきて、それぞれダークネスとウィッチの胸に吸い込まれて消えた。それから二人の体全体が淡い赤光を放つ。ダークネスは体の中に湧き上がる力を感じた。
「これはもしかすると」
ダークネスが空を切りながら走り、ヨクバールに向かっていく。
「ヨクッ、バール!」
ヨクバールが近づいてきたダークネスに、黒光りする長い爪の付いた巨大な右手を叩きつける。それにダークネスは拳で応戦する。
「はぁっ!」
化け物の巨大な手と少女の細い拳がぶつかりあい、ヨクバールの右手が大きく弾かれた。一方的に力負けして衝撃を受けたヨクバールの体制が崩れる。その隙にダークネスは回し蹴りを叩き込む。ヨクバールは校門付近まで吹っ飛んで砂の粉塵(ふんじん)が舞い上がった。
「とんでもねぇパワーだ!」
ボルクスが赤い目をむいて叫ぶ。
「すごい! ダークネスってこんなに力持ちだったんだね!」
そんなことを言うウィッチにダークネスは呆れかえった。
「スタールビーが力を与えてくれたのよ、状況を見ればわかるでしょ」
「そうだったんだ、じゃあわたしも!」
今度はウィッチがヨクバールに突っ込んでいく。
「とあーっ!」
「ヨクッ、バール!」
先ほどとまったく同じ状況が再現された。ウィッチの小さな拳とヨクバールの巨大な手がぶつかり、ウィッチの方が力負けして吹っ飛ばされた。
「キャーッ!?」
飛んできたウィッチはダークネスの足元に落ちてきた。
「……強力な魔法なだけに、長続きはしないようね」
「あうう……」
気の毒そうに言うダークネスの足元で、ウィッチはうつ伏せにお尻を上に突き出した情けない恰好で倒れていた。そこへリリンが飛んでくる。
「ウィッチ、とってもかっこ悪いデビ」
リリンにそんなことを言われると、ウィッチは負けじと飛び起きてヨクバールに向かって青い宝石の輝く左手を出す。
「まだまだ! これならどうだ!」
ウィッチの左手から青い閃光がほとばしり、ヨクバールを直撃する。
「ヨクッ!?」
ヨクバールの周囲で青い光がスパークした。
「インディコライトは電気ビリビリだ!」
ウィッチは新しいゲームソフトで遊ぶ子供のように興奮していた。彼女は今まで知らなかった様々な魔法をいとも簡単に使えるのが楽しくて仕方がないのだ。
強烈な電流を受けたヨクバールは動きを止めていた。それを見ながらダークネスがいった。
「今のうちに倒してしまいましょう」
「よ〜し、新しい魔法を使うよ!」
「え、新しい魔法?」
「そうだよ! わたしたちには二つの魔法を合わせてすごい魔法にするファンタジックな力があるんだよ、いろいろ試さなくっちゃ!」
「学校が危ないからできるだけ早く片付けたいわ、オレンジサファイアとローズクォーツの魔法でいくわよ」
「やだやだ! 新しい魔法やるの!」
駄々をこねはじめるウィッチにダークネスは苦笑いする。
「わかったわよ、じゃあどうするの?」
「オレンジサファイアとインディコライト! 絶対かっこいい魔法でるよ!」
「本当かしら……」
ダークネスは何だか嫌な予感がしたが、ウィッチに駄々をこねられるよりはましだと思って仕方なくやってみることにした。
「じゃあ行くわよ。リンクル・オレンジサファイア!」
ダークネスのブレスレッドにオレンジ色の宝石が宿る。ウィッチのブレスレッドには既にインディコライトが輝いている。二人は右手と左手を後ろでつなぎ、二つのブレスレッドを頭上で重ね、二人で力ある言葉を。
『二つの魔法を一つに!』
炎と電撃、二つの魔法が重なった時、二人のリンクルストーンが輝きをおびて、二人のブレスレッドの間でクラッカーが弾けるような音がして魔力が暴発(ぼうはつ)した。
「キャアッ!?」
「うあっ!?」
ダークネスとウィッチは衝撃を受けて声を上げる。
「あっつい!」
「びっくりした! しびれたよ〜」
彼女らの間抜けな姿に、校舎の方から失笑すら聞こえてくる。教室から見ていた海咲はいった。
「何だか頼りないね、正義の魔法つかい」
「ああ、大丈夫なのか……?」
と由華がいった。すごく心配そうに見守る海咲達であった。
ダークネスはウィッチと顔を見合わせた。
「この組み合わせはだめみたいね……」
「うん、そうだね……」
二人のプリキュアが喜劇(きげき)を演じている時に、ボルクスが歓喜(かんき)の声を上げる。
「何だかよくわからねぇが、自滅したぞ! 今だ! やれ、ヨクバール!」
「ヨクバァールッ!!」
ヨクバールが口を開けると、銃口に青い光の球が現れ、それが次第に大きくなっていく。
「何かまずい感じがするわ、校舎からはなれるのよ!」
ダークネスが言うと、ウィッチが頷く。二人の背後には校舎がある。ヨクバールがプリキュアを狙うのなら、二人が移動すれば学校への危険は少なくなる。しかし、ボルクスは恐ろしいことを考えつき、二人のプリキュアをあざ笑った。
「そうはいくか! ヨクバール、プリキュアの後ろにある建物の方を狙え、これで奴らは逃げられん!」
「何ですって!?」
「ヨクバール、フルパワーで行け!」
「だったら、攻撃を止めるしかないわ」
ヨクバールの銃口の光はすでにヨクバールの頭部を覆い隠すほどに巨大になっていた。ダークネスは右手を上げて力強く叫ぶ。
「リンクル・ブラックオパール!」
ダークネスの腕輪に7色の輝きが宿る黒い輝石が現れる。ダークネスがその手を前に出し、円形の黒いシールドが展開された時に、ヨクバールは絶叫と共に巨大な光弾を放った。それは地面を削り、土煙の嵐を起こしながらまっすぐにダークネスに向かってくる。そして、黒いシールドと青い光弾がぶつかった瞬間、凄まじい衝撃を受けたダークネスの両足が地面にめりこんだ。
「ま、まずいわ、耐えられない!」
苦し気に表情をゆがめるダークネスの目の前で、黒いシールドにひびが入る。そのすぐ近くでウィッチがあたふたしていた。
「大変だ! どうしよ、どうしよ、うう〜。あ、そうだ!」
ウィッチは名案と言わんばかりに指を鳴らし、それから左手を高く上げる。
「リンクル・スタールビー!」
その左手に赤い宝石を宿し、ウィッチは跳躍して空中で一回転。
「一か八か、やるしかない!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ