魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
ウィッチはダークネスの左側に下りてきて右手を出す。二人の間にもう言葉など必要ない。ダークネスは当たり前のように左手でウィッチの右手を強く握った。つないだ手を後ろにウィッチが左手とスタールビーを前に、そして二人のリンクルストーンが共鳴して輝きだす。二人は心の底からあふれる魔法の言葉を声に出し力に変えた。
『プリキュア・ブレイオブ・ハートシールド!』
スタールビーがブラックオパールに力を与え、黒いシールドに7色の輝きが現れて巨大なハート型に変化する。二人のプリキュアが力をあわせた防御の魔法がヨクバールの光弾をいとも簡単に跳ね返した。そして、巨大な光弾は来た軌道を逆にたどってヨクバールに迫る。
「ヨクッ!?」
光弾がヨクバールの体に激突して爆炎が上がった。その爆発で校庭の真ん中に大穴があき、穴の中心でヨクバールが全身から煙を吹いて動けなくなっていた。
ウィッチは嬉しくなって右手を上げてジャンプする。
「やったぁ、大成功!」
「今度こそ倒すわよ!」
「よ〜し、今度はどのリンクルストーンを使う?」
ウィッチがそんなことを言うと、ダークネスが信じられないという面持(おもも)ちでそれを見つめる。
「あんた、まだやるつもりなの!? もうこれ以上の失敗は許されないわ、学校が危険に晒(さら)される。オレンジサファイアとローズクォーツの魔法を使うわよ」
ダークネスの声には反論を許さない厳しさが込められていた。するとウィッチは、ダークネスの前で手を合わせて頭を下げた。
「お願いします、あと一回だけ! これでだめだったらあきらめるよ」
「ウィッチ……」
新しい魔法の創造に固執(こしつ)するウィッチに、ダークネスは心の中に何かひっかかるものを感じた。必死と言ってもいいくらいに一生懸命に頭を下げるその姿には、なぜか胸を苦しくさせるような哀愁(あいしゅう)がある。ウィッチの気持ちに答えてあげたい、ダークネスは心底そう思い、失敗したら自分が全ての責任を負う覚悟で彼女はいった。
「わかったわ。でも、今度はわたしがチョイスするから」
「うん、ありがとう、ダークネス!」
「ジェダイトとインディコライトで行くわよ!」
「よ〜し!」
ダークネスは右手を、ウィッチが左手を横一文字に呼びかけた。
「リンクル・ジェダイト!」
「リンクル・インディコライト!」
ウィッチがインディコライトの輝く左手を高く上げる。
「箒よ!」
ウィッチの頭上に現れた箒が高速で回転しながら落ちてくる。ウィッチがジャンプして箒の柄の中心を掴み、空中で箒に跨り、ダークネスが高く上げた左手を掴んで二人で急上昇、ヨクバールの頭上でウイッチは箒から飛び降りる。二人のプリキュアが空中で手と手を繋ぎ輪になって、回転しながらヨクバールに向かって落ちていく。
『二つの魔法を一つに!』
プリキュア達の言葉に反応して、それぞれのリンクルストーンが強く輝く。そして二人は空中で離れ離れになり、ヨクバールの左右に降りてブレスレッドに宝石が宿る手で地面を叩いた。二人の手からヨクバールの方へと魔法陣が広がり大きくなっていく。そして二つの魔法陣が完全に重なった時、円の半分が緑、もう半分が青、円の中で緑と青の正三角が重なって六芒星となり、その中心に緑の三日月が、周囲には六つの青い星、ヨクバールの足元に色鮮やかな月と星のヘキサグラムが完成した。
『風と光の星降る魔法!』
二人のプリキュアが立ち上がり、リンクルストーンの輝く手を高く上に、ヨクバールの足元にある大きな魔法陣から風が吹き上がり瞬間に凄まじい竜巻となった。
『プリキュア・スターライトニングストーム!』
二人の強い魔法の言葉で魔法陣から上空に向かって何本もの青い稲光が走った。風と雷(いかずち)が一体となり、途方もない嵐となってヨクバールの巨体を空中へと巻き上げていく。
「いっくよ〜」
ウィッチが跳躍すると、さっき空中で手放した箒が落ちてくる。それを手にしたウィッチは再び箒に乗って飛んだ。彼女はヨクバールの目の前を通り過ぎて大回転し、一度宙に止まって狙いを定める。同時にインディコライトが輝きを増し、ウィッチの全身が青い輝きに包まれた。箒から小さな青い星が大量に噴射され、一気に速度を上げてウィッチ自身が青い彗星(すいせい)と化してヨクバールに突撃、そしてすれ違い、ウィッチの軌道上に残った青い光と星々がヨクバールを包み込む。星と光は集まって巨大な青い星となりヨクバールを封じ込めた。
「ヨク……バール……」
ウィッチは箒に乗ってウィンクとVサイン。
「フィニッシュ!」
ヨクバールを襲っていた竜巻が細くなり、それに合せて地上から天へ昇っていた数本の稲光が一つに集まる。そして風が消えた時、強烈な雷が地上から天を突きさす青い剣となって星に閉じ込められているヨクバールを貫いた。大きな青い星から電流が飛び散り、小さな無数の星が花火のように広がると、その中から淡い光に包まれた闇の結晶と拳銃が飛び出してくる。ダークネスが闇の結晶をつかみ取り、拳銃は校庭に落ちて転がった。ヨクバールが消え去ると破壊された場所が元の姿を取り戻していった。
「とってもきれいな魔法だったデビ」
いつの間にかダークネスの足元にいたリリンが感動して目を輝かせていた。
ダークネスの元に戻ってきたウィッチは、箒から飛び降りてダイレクトにダークネスに抱きついた。
「ウィッチ!?」
「やった、やった! すごいよ、新しい魔法できたよ!」
ウィッチの突飛(とっぴ)な行動に驚いたダークネスだったが、ウィッチの喜びように感化(かんか)されて自分も何だか嬉しいような気持ちになった。
プリキュアの戦いの一部始終を見ていた由華たちは、興奮を抑えきれない様子でいった。
「すごい、化物を倒した!」
「正義の魔法つかいかっこいい!」
「わたしファンになっちゃうわ!」
由華と海咲と香織が騒ぎ出すのと一緒に、校舎から歓声と拍手が爆発的に起こった。それにはダークネスもウィッチも驚かされた。
「さ、さすがに目立ちすぎたわね」
「どうも、どうも〜」
ウィッチはのんきに両手を振って歓声に応えていた。
「手なんて振ってる場合じゃないわ、もういくわよ!」
「は〜い」
ダークネスは足元にいたリリンを抱いて、それから二人のプリキュアは一気に校舎の屋根まで跳んで、そこからまた跳んで学校の裏手にある林の中に飛び込んでいった。あとに残されたボルクスは、また地団駄を踏んで悔しがった。
「ちくしょうまたやられた! プリキュアどもめ、覚えてやがれ!」
彼は指を打ち鳴らしその姿を消した。
下校する頃には正義の魔法つかいの噂がかなり広範囲にまで広がっていた。下校中の小百合たちの間でもその話で持ち切りだった。
正義の魔法つかいの話で盛り上がる由華たち3人の後ろを、小百合とラナは並んで歩いていた。笑みを浮かべるラナの様子からは、嬉しくて仕方ないという気持ちがよく表れていた。
「新しい魔法が二つもできてよかったね!」
「きわどい勝利だったわね、学校が守れて本当によかったわ……」
「小百合、わたしのお願い聞いてくれて、ありがとう」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ