魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
『魔法つかいプリキュア!』
突然に現れた黒いプリキュア二人に驚くミラクルとマジカルだが、ミラクルはこの二人を見るのは初めてではなかった。
「キュアダークネス!?」
「キュアウィッチ!?」
ミラクルとマジカルがそれぞれ驚きながらその名を口にする。そしてマジカルがミラクルのことを見つめていった。
「この二人ってもしかして」
そういうマジカルにミラクルは頷いた。
唐突な展開に戸惑う二人の心境を考えてダークネスはいった。
「わたしたちは宵の魔法つかい」
「宵の魔法つかい……」
ミラクルがその言葉を口にしてみると、何だか不思議な感じがした。この二人が自分たちにとても近い存在だということを感性で捉えていた。
「聞きたいことは色々とあるでしょうけど、それはヨクバールを始末してからね」
「ヨクバール、覚悟! とりゃ〜っ!」
「あっ、ちょっとあんた!」
ダークネスが止める間もなくウィッチはジャンプしてミラクル達を跳び越えて向こうのヨクバールに突っ込んでいってしまった。
「しまった、勝手に突っ込まないように釘を刺しておくべきだったわ……」
もうウィッチとヨクバールの戦いが始まっていた。それにもかかわらず、ダークネスは動かない。そんな状況でミラクルは黙っていられる性格ではなかった。
「早く助けなきゃ!」
「止めた方がいいわ、あの子に合わせようとすると大惨事になりかねないから。すぐにやられて帰ってくると思うから、魔法でサポートしてもらえるとありがたいわ」
ミラクルにとってダークネスの態度は理解し難いものがあった。パートナーが戦っているのに見ているだけで何もしないなんて冷たいと思う。そして、マジカルにはそういうミラクルの気持ちが手に取るように伝わっていた。
「ミラクル、彼女のいう通りにしましょう。わたしたちと同じように、ダークネスはウィッチのことを誰よりも理解しているはずよ。その上で最善の選択をしているんだわ」
「その通りよ。ウィッチはちょっと変わった子で、普通の人じゃ理解できないところもあるから、無理に合わせちゃダメなのよ。帰ってきたら落ち着かせるわ」
ウィッチは空中でヨクバールの腕にパンチの連打を浴びせている。ヨクバールはもう片方の腕を引き、ウィッチに強烈なパンチを叩きつけた。
「うきゃ〜!」
ぶっ飛ばされるウィッチ、それを見ていたミラクルはリンクルステッキを頭上へ。
「リンクル・アメジスト!」
空中で弧を描いて吹っ飛んできたウィッチは、目の前に現れた魔法陣に吸い込まれ、瞬間にもう一つ花屋のビニール屋根の上に現れた魔法陣から吐き出された。尻から落ちたウィッチは、ビニール屋根の上に乗って跳ね返され、緩やかに着地することができた。
「おお、すごい! いまなんかワープした!」
ウィッチはダークネスのところまで走ってきていった。
「わたし、瞬間移動の魔法を覚えちゃった!」
「あんたの魔法じゃないわよ! このおバカ!」
「わたしが魔法で助けたんだよ」
ミラクルがいうと、ウィッチの目が夜に瞬くきら星のように輝く。ウィッチはミラクルの手を握ってブンブンふりまくりながらいった。
「ありがとう! えっと……」
「キュアミラクルだよ」
「ありがとう、ミラクル!」
つぎにウィッチはマジカルの手を握って。
「よろしく!」
「キュアマジカルよ……」
「よろしく、マジカル!」
異常に高いテンションのウィッチに、ちょっとついていけないマジカルであった。
「ウィッチ、落ち着きなさい。あんたがそんなんじゃ、ヨクバールを倒せないわ」
「ごめんごめん、嬉しくってつい〜」
そんな風に喜んでいるウィッチを見ていると、ダークネスは思わずため息が出てしまう。彼女は気を取り直していった。
「四人で力を合わせましょう。そうすればあのヨクバールは倒せるわ」
ダークネスがいうと全員が頷く。その様子を上空から見下ろしていたフェンリルは、新たなプリキュアの登場に驚いたが、それ以上に奇妙な不快感を抱いていた。
「なんだあの黒いプリキュアどもは? この嫌な感じはなんなのだ?」
この時にフェンリルの本能がダークネスとウィッチを倒せと訴(うった)えかける。
「なにをしているヨクバール! 全員まとめてぶっ潰しちまいな!」
「ギョイーーーッ!」
フェンリルの命令を受けてヨクバールが変形していく。機械質の腕や鳥の足が車の内部に収納され、トラックそのものに黒い翼の生えた姿になり、竜の骸骨は全面のフロントガラスへと移動する。それを見ていたウィッチがいった。
「変形した! ちょっとかっこいいかも!」
「バカなこといってないで、気合いれなさいね!」
「は〜い」
ダークネスにウィッチはまったく気合のない返事をする。それを見ていたマジカルは少し心配になってきた。ヨクバールがタイヤを高速回転させ、アスファルトとタイヤの摩擦(まさつ)で煙を吹き出しながら爆進してくるとマジカルは身構えて叫んだ。
「くるわよ!」
「ウィッチ、あんたは上ね! わたしたちがヨクバールを止めるから、その隙におもいっきり攻撃して」
「了解したよ! とーっ!」
ウィッチはダークネスにいわれた通りに、おもいきって上にジャンプする。
「さあ、あいつを止めるわよ!」
目前にヨクバールは迫っていた。ミラクル、マジカル、ダークネスの両手を前に出して突進してきたヨクバールを受け止める。その瞬間に3人は足下でアスファルトを穿(うが)ちながら数メートル後退するが、そこで踏んばってヨクバールを完全に止めた。
「ヨク!」
タイヤの回転がさらに速くなり、四輪からもうもうと白い煙があがり、三人に凄まじい圧力が押し寄せる。そして、ヨクバールが少しずつプリキュア達を押し始めた。
「ウィッチ!」
ダークネスが叫ぶのに合せるように、天高く跳んでいたウィッチがヨクバールに向かって落ちてくる。
「ウィッチ、スーパーストライク!」
ヨクバールの脳天、運転席の屋根の上に空から落ちてきたウィッチの渾身の蹴りがめり込む。その衝撃で前輪がアスファルトに埋没(まいぼつ)し、後輪が浮き上がる。
「おお、決まった! わたしかっこい〜」
ヨクバールが怯(ひる)んだ瞬間、ヨクバールを止めていた三人のプリキュアが呼応する。
『隙あり! だあーっ!』
三人同時、一分の狂いもないタイミングでヨクバールを蹴り上げる。すると、ウィッチがヨクバールの上でもたもたしていたので、一緒なって吹っ飛ばされていた。
「ヨクバール!?」
「きゃ〜っ!?」
「あんたまで一緒にぶっ飛ばされてどうするのよ!!」
突っ込むダークネス、ミラクルとマジカルは口をポカンと開けてヨクバールと一緒に飛んでいくウィッチを見ていた。
ヨクバールが落ちて地面を揺らし、その近くにウィッチも落ちてくる。
「ふぎゅっ!」
ウィッチはうつ伏せに地面に落ちて、お尻を突き出した情けない姿で目を回していた。そのすぐ近くで、ヨクバールが変形して再び元の姿に戻っていく。
「あいたた……」
ウィッチが立ち上がってふと上を見上げると、変形を終えたヨクバールの深紅に光る目と目があって背筋が凍る。
「うひゃ〜っ!」
ウィッチは走って逃げてダークネスの元に戻ってくるといった。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ