魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「びっくりしたよ〜、すっごいサプライズだったよ〜」
「あんたが勝手にサプライズにしてるだけでしょ! まったく、せっかくのチャンスだったのに、あんたのせいで台無しよ!」
「あう〜、ごめんね……」
「けんかしている場合じゃないわ、くるわよ!」
マジカルにいわれてダークネスがヨクバールの方を見ると、鳥の足に付いているタイヤを回転させて、またこちらに突撃してくる気配があった。
「あいつの足を止められる魔法はない?」
ダークネスがいうと、マジカルは少し考えて、
「それなら」
マジカルの前にリンクルステッキが現れる。マジカルはそれを手に呼びかける。
「リンクル・アクアマリン!」
マジカルの声に応じて、リンクルステッキに透き通る水色の宝石が現れる。マジカルがステッキをヨクバールに向けると、氷の花を含んだ強烈な冷気の流れが今まさに飛び出さんとしているヨクバールの足に吹き付けられる。すると、ヨクバールの足が見る間に凍り付いてその動きを封じた。
「ヨクッ、バールッ!?」
動けずもがくヨクバールだが、そのパワーで足を拘束する氷にひびが入っていく。
「四人でいこう!」
ミラクルがそういってぐっと体に力を込める。
「ウィッチ、わたしに動きを合わせて!」
「わかったよ!」
この時、いちいちウィッチに指示を出すダークネスがマジカルは気になった。しかし、今は深く考えている余裕はない。マジカルはミラクルの心を掴み、完璧に動きを合せて跳んだ。
『たあーーーッ!!』
四人の気合が一つになり、四人同時の跳び蹴りでヨクバールが盛大に吹っ飛ぶ。気づけば四人の動きはピタリと合っていた。今さっき会ったばかりの別々のプリキュアが見事に連帯(れんたい)している。マジカルは、その要(かなめ)となっているのがダークネスであることに気づいた。めちゃくちゃな動きをするウィッチをコントロールし、その上でミラクルやマジカルと動きを合わせる。何も言わずとも心を一つにできるミラクルとマジカルの連帯とはわけが違う。マジカルは自分が同じ立場になったとき同じことができるだろうかと考えると、ちょっと自信がなかった。ダークネスはそれを当然のようにやってのけている。
――この人、ただ者ではないわ。
隣に立っているダークネスを見つめて、マジカルは密かに舌を巻いた。
「今よ!」
ダークネスがいうと、ミラクルとマジカルは目と目を合わせて頷きダイヤの宿るリンクルステッキを構える。
『ダイヤ!』
ミラクルとマジカルは一緒に高くジャンプして、空中でつないだ手を中心に回転しながら降りてくる。
『永遠の輝きよ! わたしたちの手に!』
二人が舞い降りると同時に、無数の光の粒が波打ち広がっていく。光の波の源にミラクルとマジカルとモフルンの三人が立つ。マジカルが高く掲げたリンクルステッキを斜に構えると、モフルンが左手でブローチのダイヤに、そしてミラクルがリンクルステッキを頭上に掲げると、モフルンの右手でダイヤに、包み込むように両手をダイヤに重ねる。するとブローチのダイヤが輝き、光は巨大なダイヤとなって広がっていく。ミラクルとマジカルは手を繋いだまま、まるで鏡に映しているように同じ動きでリンクルステッキで光の線を描く。
『フル、フル、リンクル!』
二人の描いた光の三角形が一つになる、瞬間にそれが光で描いたダイヤとなった。そこへ起き上ってきたヨクバールが突進してダイヤの光に激突、闇の魔法をダイヤの光が受け止める。するとダイヤの光がハートのペンタグラムに早変わり、ミラクルとマジカルがリンクルステッキを高く上げ、つないだ手をさらにギュッと力を込めて。
『プリキュア・ダイヤモンド・エターナル!』
二人の魔法をこめた言葉と同時に、ヨクバールが輝くダイヤに封印される。二人が繋いでいた手を放して前に出すと、合せてヨクバールを封じ込めたダイヤが宇宙にめがけて吹っ飛んだ。その瞬間の衝撃が周囲に爆風がをまき散らし、近くにいたダークネスとウィッチを揺さぶる。
「ヨクバール……」
ダイヤに封印されたヨクバールは宇宙の果てまで吹っ飛んで、爆発と同時に無数の光をまき散らした。その中から光に包まれたカラスとトラックと闇の結晶が地上へと降りてくる。
「カアーッ!」
カラスは地上に落ちる前に慌てて逃げ出し、トラックは元の場所に戻り、闇の結晶はミラクルの手の中に、ヨクバールとプリキュアの戦いでめちゃくちゃになっていた街は修復されて元の姿を取り戻していった。
空中で見ていたフェンリルは、歯を食いしばり牙をむき出しにして悔しがった。
「くぅーっ! なんなんだい、あの黒いプリキュアども! まったく嫌な感じだね!」
そういい捨てて、フェンリルは瞬間移動の魔法でふっと姿を消した。
「ミラクルとマジカルの魔法、すっご〜い」
そんなことをいっているウィッチの横を通り、ダークネスが街路樹に向かって歩いていく。モフルンはその街路樹に隠れながら近づいてくるダークネスを見ていた。ダークネスは枝に引っかかっているバッグを手に取り中身を確認すると微笑を浮かべる。
「モフ……」
モフルンは瞳に映るダークネスが怖いと思った。そこへミラクルがやってくる。
「それ、わたしのバック」
ダークネスがバックをミラクルの方に突き出すと、ミラクルはダークネスへの感謝と、これから新しい仲間と一緒に戦えるという期待の笑顔でダークネスに手を差し出す。
「ありがとう」
その時、ダークネスの顔に三日月のような笑みが浮かんだ。少し離れたところでそれを見ていたマジカルは、嫌な予感が押し寄せて叫んでいた。
「離れてミラクル!」
「え?」
ダークネスはバッグを持っていた左手を引き、代わりに右手でミラクルの胸に掌底(しょうてい)を打ち込む。無防備だったミラクルは一瞬息が止まり、衝撃を受けて吹き飛んだ。
「キャアッ!!」
「ミラクルッ!!」
ミラクルはマジカルの間近を擦過(さっか)して向かいのビルの壁に背中から叩きつけられ、壁には無数のひびが入った。
「うえええぇーーーっ!?」
ウィッチもダークネスの行動に度肝を抜かれて叫ぶ。ミラクルは呆然として、その場にペタンと座り込んで動かなかった。肉体的なダメージよりも、精神的なダメージの方がはるかに大きかった。そんなミラクルを追い込むようにダークネスはいった。
「笑顔でのこのこ近づいてくるなんて間抜けね」
「わたしたちを騙すために仲間のふりをしたのね!」
怒りをあらわにするマジカルを、ダークネスはあざ笑っていった。
「そうよ、この闇の結晶を手に入れるためにね」
ダークネスはマジカルにバッグを突き付けていった。
「それをどうするつもり!?」
「あんた達には関係ないわ」
そういってダークネスは立ち去ろうという時にミラクルと目が合った。ダークネスの表情がほんの少し強(こわ)ばる。ダークネスは今のミラクルのような悲しい目を見たことがなかった。
「……いくわよウィッチ!」
「あうあう……」
「ウィッチ!!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ