魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「それは無理だと思うよ〜。魔法を使うのには魔法の杖が必要なんだ。魔法の杖は生まれた時に魔法の杖の樹からもらうものだからね」
「そう、残念ね」
「小百合の気持ちわかるよ! 魔法って使えたら便利でファンタジックだもんね!」
「わたしが魔法を覚えたいのは、あんたのルナティックな魔法を制御したいからよ!」
と小百合の声が屋敷の裏庭に響くのであった。
魔法界の地下の誰も知らない場所に暗黒の城がある。全体が黒い瘴気(しょうき)に包まれたこの城の玉座に闇の王ロキが座っていた。彼の体から噴出する闇の魔力は凄まじく、普通の人間なら数分も近くにいただけで気が狂ってしまう。逆立つ頭髪は燃え上がるような真紅、白い歯を見せて他人を侮るような笑みを浮かべ、赤い瞳の外側は緑の二重円環になっていて瞳の中心には昼間の猫のような細い瞳孔が存在する。笑ってはいるがその表情からは強い狂暴性がにじみ出ている。全身を黒い服で包み、背中にも漆黒の毛皮のマントをはおり、それで体の半分を隠している。長袖とズボンの裾には目を縦に描いたようなイメージの刺繍(ししゅう)がほどこされ、胸にもその目のような文様を連ねて円にした魔法陣が描かれている。そして、彼が座る玉座の横には台座があり、そこには三つの首をもたげる異様な黒龍の石像が置かれていた。
玉座に座っているロキを下段でフェンリルとボルクスが見上げていた。フェンリルはお座りして尻尾を動かしながらいった。
「ロキ様、どうしてナシマホウ界から魔法界に移動したんです?」
「もうナシマホウ界には闇の結晶がねぇからさ。おめえらとプリキュアでほとんど回収されちまった。そんなことよりも、お前ら例のものを見せろ」
例のものというのは、もちろん闇の結晶のことである。まずはおずおずと巨体のボルクスが前に出てきた。
「へぇ、ロキ様、ここに」
ボルクスが大きな手を開くと、小さな黒い結晶が三つだけ現れる。
「おいボルクス、何の冗談だ?」
「まさか、ロキ様に対して冗談などいいませんぜ。俺が集めた闇の結晶はこれだけです」
すると、ロキの顔から人を小馬鹿にするような笑みが消える。
「てめぇ、俺様をなめてるのか!」
「ひいぃっ!? すみませんロキ様!」
「アッハハハハッ! まったくしょうもないねぇ」
フェンリルが笑うとボルクスは頭に血を上らせて小さな白猫を見おろしていった。
「なんだとぉ! そういうお前はどうなんだよ!」
「フェンリル、お前まで俺を失望させるなよ」
ただ怒っているだけのボルクスと違い、ロキの言葉に込められた圧力は半端なものではない。フェンリルはそれを受けても余裕な態度を見せていた。
「はぁい、ロキ様」
いつの間に出したものか、フェンリルの傍らに白い袋があり、フェンリルはそれを前に押し出して、猫の手で袋の口の紐を解いた。すると中から大量の闇の結晶が顔を出す。それを見たロキは目を見開き喜悦(きえつ)を浮かべた。
「おお、さすがだなフェンリル! よくやってくれた」
「なにぃっ!? どうやってそんなにたくさん集めたんだ!?」
「あんたとはここの出来が違うのさ」
とフェンリルは人差し指で自分の頭を差しながらいった。ボルクスは悔しそうに歯ぎしりする。
「なんだと、この俺の頭を馬鹿にするな!」
「能(のう)足りんが何をいう」
「なら見せてやる、この俺の頭の良さを!」
「ほう、おもしろい! 見せてもらおうじゃないか」
「ようし、見てろよ」
ボルクスはその辺を探して、すみの方に落ちていた握りこぶし大の石を拾う。ボルクスのこぶしの大きさなので、普通の人間からしたら相当大きな石だ。ボルクスはその石を天井に突き上げるように高く持ち上げる。
「この俺の頭のすごさを見るがいい!」
ボルクスは大きな石を自分の頭の頂点にものすごい勢いで叩きつけた。その石が粉々に砕け、ロキとフェンリルに衝撃が走る。フェンリルはあまりに奇想天外なボルクスの行動にびっくりして体中の毛を逆立てた。一方ボルクスは、してやったりといわんばかりの得意顔で頭をなでながらフェンリルを見おろし、驚愕(きょうがく)から覚めたフェンリルが叫ぶ。
「アホかーーーっ!! あんたわたしがいった言葉の意味すら理解してないじゃないか! 前言撤回だ、あんたは能足りんじゃなくて能無しだっ!」
「なんだと! なんだかよくわからないが、すごく馬鹿にされている気がするぞ!」
「馬鹿にしてるんだよ! この能無し! ど阿呆! 大馬鹿っ!」
「なにぃ!? このチビ猫め! 踏みつぶすぞ!」
「はん、やれるもんならやってみな!」
「いったなこいつ!」
「お前ら、いい加減にしろ!!」
暗い城がロキの怒気で震える。フェンリルとボルクスは雷に打たれたような衝撃を受けて黙った。
「ただでさえプリキュアに闇の結晶を奪われてむかついてんだ、下らねぇことで俺様をいらつかせるな!」
ロキは玉座のひじ掛けを強くたたいて怒りを露わにする。
「誰かが道を作ってナシマホウ界にプリキュアを呼び込みやがった。まるで、俺様の動向に合わせたかのようにな!」
「奴らはやっかいな存在ですねぇ。あんなのが4人もいたら仕事がやりづらくてしょうがない」
フェンリルがいうと、それを聞いたボルクスが首をひねる。
「4人だって? 俺は二人しかみてないぞ。二人組の黒いプリキュアだ」
二人の会話を聞いているロキの顔が険しくなり、その表情のままで凍り付いたようになる。
「なにをいってるんだお前ら? 黒いプリキュアとはなんだ? その話を詳しく聞かせろ」
ロキにフェンリルが答える。
「わたしが最初に出会ったプリキュアはピンクと紫のやつですよ」
「それは伝説の魔法つかいだ。奴らの動向は常に監視していたからよく知っているぜ。その他にもプリキュアがいるのか?」
「後から二人組の黒いプリキュアが現れました。キュアダークネスとキュアウィッチとか名乗っていました」
「ダークネスとウィッチだと!? なんで宵の魔法つかいなんかが今頃になって出てくるんだ!?」
「ロキ様はその二人をご存じで?」
「ああ……」
ロキはフェンリルに生返事を返してからしばし考え込んだ。それから突然右腕を上げて、もう一度玉座のひじ掛けをぶっ叩く。先ほどとは比べ物にならないパワーで石製の玉座の一部が崩壊した。
「あの女の仕業だ! 宵の魔法つかいが出てきたということは、これはもう確定だ! 伝説の魔法つかいをナシマホウ界に導いたのも奴か!」
一人で怒りまくるロキ、フェンリルとボルクスには何が何だかわからない。ロキは急に表情をやわらげ、笑みを浮かべると、かたわらの黒龍の像をなでながらいった。
「フレイアめ、何千年もこの俺様を見張っていたというわけか、ご苦労なこったぜ。だが、お前がどうあがいてもヨルムガンドの復活は止められねぇぜ。魔法界もナシマホウ界もこの俺様が支配する! 見ているがいい!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ