魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
それを聞いてみらいとリコはそれまで溜めていた不安を長い吐息といっしょにはきだした。その二人にラナが頭を下げていう。
「二人とも、本当にごめんね」
「もういいんだよ、気にしないでね」
「そうよ。お咎(とが)めなしだし、ノープロブレムよ」
みらいとリコがいうと、ラナがいつもの笑顔を取り戻す。
「校長先生、ありがとうございます」
小百合が水晶に向かって深く頭を下げると、それまで微笑(ほほえ)んでいた校長は急に真顔に戻りいった。
「あまり時間がないのでな、急ぎ準備をしてこちらに向かってもらいたい。二人とも待っているぞ」
そして水晶から校長の姿が消えた。それから小百合はみらいとリコにいう。
「一日だけ待ってちょうだい。その間に準備をすませるわ」
「わかったわ。じゃあ、明日の正午に津成木駅に集合しましょう」
リコがいった。こうして小百合とラナは魔法界へ行くきっかけを掴(つか)んだのであった。
小百合が魔法界へ行くためには、まだまだ問題が残っている。それらを一挙に解決するには、祖父の清史郎の力を借りる意外にはない。しかし、その清史郎を説得するのもまた難関である。小百合は決して揺るがない強固な意志をもって清史郎と対峙した。
書斎で小百合の話を聞いた清史郎は眉間に皺を寄せて厳しい顔になる。
「ラナ君の故郷へ行くというところまでは分かったが、話が急すぎるぞ。その上にどこへ行くのかいえないとはどういうことだ?」
「申し訳ありませんお爺様、それだけはどうしてもいえません」
「何故いえないのだ? どこの国かくらいはいえるだろう」
「いえません。そして、わたしは明日立ちます。学校もしばらく休みます。3ヶ月か、長ければ半年くらい休むことになるかもしれません」
「あの学校で長期休学などすれば、進級はおろか、退学にもなりかねんぞ。お前ならそれくらいはわかるはずだ」
清史郎の声は落ち着いているが、顔は強面(こわもて)であり、声に含まれる苛立ちと怒りも肌を通して伝わってきている。でも小百合は怯まないどころか、さらに強い態度で答えた。
「それでもかまいません。わたしはラナの故郷に行きます。いえ、行かなければならないのです」
小百合の強い態度に何かを感じた清史郎は、強面を解いて愛する孫娘を見つめる。
「なんのために行くのだ?」
「親友の、ラナのためです。あの子はいつも明るいけれど、底の方に暗い陰を持っています。わたしにはそれがわかります。それを知るためには、ラナの故郷にいく必要があると思っています。わたしはラナに心を救われました。ラナのおかげでお爺様の本当の気持ちを知り、友達もできました。だから今度はわたしがラナを助けます」
清史郎は大きく息を吐きため込んでいたものを全て出した。彼の態度には、観念したという気持が現れていた。
「わかった、もうなにもいわん、ラナ君と一緒に行きなさい。学校の方には短期の海外留学ということで話をつけておこう」
「お爺様、ありがとうございます!!」
笑顔になって頭を下げる小百合を、清史郎ななにやら感慨深そうに見ていた。
「一度こうと決めたら引かないところは母親と同じだな。百合江はここから出ていったきり帰ってこなかったが、お前は帰ってくるんだ」
「もちろんですお爺様、ここがわたしの家なのですから」
それかから小百合が清史郎の書斎を出ると、外の廊下でラナが待っていた。小百合は心配そうな眼差しのラナにいった。
「お爺様は説得したわ、魔法界にいくわよ」
「うん!」
小百合と一緒に魔法界に行ける! ラナはおさえきれない嬉しさにその場で飛び跳ねて小百合に抱きついた。
「ちょっ、ちょっと!?」
「やった、やったぁ! 小百合と一緒に魔法界だ! 最高にファンタジックだよ!」
抱きつかれた時には少し煩(うるさ)そうな顔をした小百合だったが、ラナの喜びようを見て最後には笑顔になった。
その夜、みらいは勉強机の上に魔法の水晶を置いてかしこまった様子で椅子に座っていた。握った手をひざの上に置き、体をきゅっと引き締めて、面持ちも緊張している。校長先生からみらいに話があるということで、リコはそこにはいなかった。
「校長先生、お話ってなんですか?」
「うむ、もっと早く話すべきであったが、こちらに闇の結晶が現われたことで対処に追われていてな。闇の結晶は魔法界に確実に悪影響を与えている。ヨクバールが現れたという話も耳に入ってきている。今の状況から察するに、君にはしばらく魔法界にいてもらわなければならないだろう。そこでだが、魔法学校へ短期留学してもらえんかな?」
「短期留学!? 魔法学校に!?」
みらいは輝く瞳を閉じ胸に拳を当てて内側にぐっと感激を凝縮し、両手を広げると同時に感激を爆発させた。
「わくわくもんだぁっ!!」
みらいがあまりに大声で叫ぶので、母の今日子が階段を駆け上がってきて部屋のドアを開けて覗き込み、みらいは慌てて魔法の水晶を隠した。
「大声出してどうしたの?」
「な、なんでもないよ」
「そう。そういえば、昼間に作法(さほう)の学校の先生がきてみらいを短期留学させたいってお話を頂いたわよ」
「うんうん、知ってるよ!」
校長先生の手回しの良さに感心しながらみらいはいった。
「よろしくお願いしますっていっておいたから、気を付けて行くのよ。まあ、リコちゃんも一緒だし心配はしていないけれど、お父さんの方がどうなるか心配ねぇ」
といってから今日子はドアを閉めた。みらいは隠していた水晶をだしてそれを見つめる。水晶の中には笑顔の校長先生が映っていた。
「君なら必ず承知すると思って手続きは済ませておいたよ」
「さすがは校長先生! 魔法学校で勉強ができるなんて、もうわくわくが止まらないよ!」
「ほかの者たちも君がくるのを心待ちにしているよ」
校長にそういわれて、みらいは魔法界で友達になったジュン、エミリー、ケイの3人を思い浮かべた。魔法学校への短期留学は、みらいに今まであった嫌なことを一度に払拭(ふっしょく)するほどの元気を与えた。
正午頃、津奈木駅の改札口前、魔法の鞄を持つみらいとリコがきてからすぐに小百合とラナも姿を見せる。小百合は青いジーンズの短パンに袖広の黒い長袖のTシャツ、そして白のシューズに黒いハイソックスのラフな格好にいつものように腰にはリリンの入ったポシェットを付けている。ラナは前に小百合にもらった私服を着ていた。背が高く足も長い小百合が速足で歩くと、その後をいくラナは小走りでなければ追いつけない。艶やかな黒髪をなびかせながら赤いトラベルバッグを引いて颯爽とこちらに歩いてくる小百合の姿にみらいの大きな瞳が釘付けになっていた。
「すてき」
我知らずにみらいはそんな言葉をもらしていた。そしてみらいはリコにいった。
「彼女って、美人だし、背も高くてスタイルもいいし、モデルさんみたいだよね」
「ま、まあ、それは認めるわ」
それは紛れもない事実なので認めざるを得ないが、リコの胸の中に奇妙な抵抗感があり、それが言葉の中にも表れていた。
「待たせたわね」
「わたしたちも今きたところよ」
「よろしくね〜」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ